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アメリカ株式市場、バブル崩壊の足音

2021年05月09日 | アメリカの金融市場

  緊急事態宣言の延長は、誰もが予想していたことですので驚きはありませんね。「みっともない」という言葉は政府の辞書にはないのでしょう。

  横浜市でも80歳以上の高齢者が接種予約できないと嘆いています。日時指定をすれば済む簡単な話なのに。80歳以上の方々にワクチン以上に重要な予定などないのに。せっかくの救われた投資家さんの書き込みも、無視されてしまったようで残念です。日本中の関係者がこんな簡単なことに気づかないとは、ただただあきれるばかりです。

 

  本題に入ります。

  5月7日金曜日に4月のアメリカの雇用統計が発表されました。毎月最も注目を集める経済統計です。雇用者数の市場のコンセンサス予想は「100万人程度の増加」でしたが、実績はたった27万人増加と予想を大幅に下回りました。失業率も3月の実績6.0%から5.7%に低下の予想が、実際には6.1%とわずかですが逆に上昇となってしまいました。

  私が注目したのはその結果を受けて株価がしっかりと値上がりしたこととその評価コメントです。発表をうけたNYダウは229ドル高で3日連続の史上最高値更新となり34,777ドルで引けました。市場関係者の評価は、「雇用の増加数が低迷したことでFRBの緩和は継続するに違いない、それが最高値の連続更新となった」というものです。

  ではもし市場の期待を超えて雇用増加が120万人になったら、そのコメンテーター達はどう解釈したでしょう。きっと「予想を超えた雇用の増加が、株価の最高値更新を後押しした」となるに違いない。決して「今後FRBは警戒態勢に入るだろう」とは言いません。

  要は経済統計の結果がどっちに転ぼうが、前向きな解釈しかしなくなっている。このようなことは折に触れて見られる現象ではありますが、私には今回の100万人予想と実績27万人の乖離の大きさにもめげないことが、バブル崩壊への足音に聞こえるのです。これが崩壊への第一の足音です。

  他にもバブル形成と崩壊への萌芽が見られます。二つ目は株式市場を見ている方ならご存知のSPAC上場です。

  簡単に説明しますと、SPACとはSpecial Purpose Acquisition Companyの略で、日本語では特別買収目的会社と訳されています。これは特別な買収をするという意味ではなく、一般的に使われる用語である特別目的会社SPCの中で、買収だけを目的としている会社という意味です。

  ではSPAC上場とは何か。ちょっと分かりづらい解説の前に簡単に言えば、上場するにあたり「裏口上場」をするということです。株式市場への上場には長い準備期間と手間暇が必要です。理由は、中身の怪しい企業が上場しないようにするためです。その大変な手続きを簡略化し裏口上場させてしまうための手段が現れたのです。

  SPACは中身のない「空箱」とも呼ばれていて、「必ず有力な成長企業を買収するから」と約束だけしておカネを投資家から集めファンドとして上場します。有力企業の買収に成功すれば空箱と合併させて実態のある企業に変身します。「もし期限までに買収できなかったらオカネは返します」とだけ約束するのです。アメリカではこの空箱を白紙小切手、Blank Check Companyと呼んでいます。

  こんな裏口上場でもスポンサーに人寄せパンダとして俳優や元スポーツ選手などの有名人を起用してすでに数百社も組み上げられ、カネ集めに成功しています。これを利用した20年の年間新規上場数は247件と19年の4倍にもなりました。日本企業ではソフトバンクがこれに悪乗りしています。空箱に投資するとは、まさにバブル時代の象徴的現象の一つと捉えるべきです。

  今年になって新規上場数はさらに加速し、4月上旬までに昨年を超える300件もの上場数に達しました。こんなことが許されるのか。もちろん規制当局であるSECは黙っていません。加速したところで当局が規制に乗り出しました。その結果4月の裏口上場数はわずか10件と3月の100件の10分の1に激減。さてこの空箱いまだに数百もあるのですが、この先も激減するにちがいないと私は見ています。

 

  そして3つ目の崩壊の足音は世界的有力銀行の驚くべき過剰融資です。実態をしっかりと開示もしていない危うい個人資産の運用会社であるアルケゴスというファミリー・オフィスに合計1兆円を超えるカネを貸し込んでいたのです。投資対象株の暴落で明るみに出ました。ファミリー・オフィスとは固有名詞ではなく、個人的資産運用会社の一般的呼び名です。

  個人が保有する資産を運用するのに何故巨大銀行が貸し込むのか。いまある資産を運用すればいいだけのはずです。理由は大儲けのためにレバレッジを掛けるためです。レバレッジとは自己資金の何倍かを借り入れて運用するやり方で、企業ではリーマンブラザースが典型例で、30倍ものレバレッジを掛けていたため、相場が思惑とは逆にちょっと動いただけで吹き飛んでしまいました。

それら過剰融資をした銀行で判明しているのは以下のような銀行です。

クレディスイス;5,200億円

UBS;4,000億円

野村証券;3,077億円

モルガンスタンレー;1,000億円

強欲な一個人に強欲な銀行が貸し付ける、絵に描いたようなバブル症状です。

日本でもかつてバブル期に尾上縫という料亭の女将に興銀が1千億も貸して破綻の一因になりました。このアルケゴスのうわさは2月頃から立ち始め処理が進んでいるようですが、まだ全容解明には至っていません。これが第3の足音です。

 

  まだあります。崩壊の足音その4は、ビットコインに代表される仮想通貨、もしくはクリプトカレンシー市場の膨張です。

  コインゲッコーという調査会社によれば現状の通貨種類はなんと約6千種。時価総額はビットコインの120兆円を筆頭に合計220兆円。私から見れば、うぞうむぞうの仮想通貨にうそうむぞうの投資家が集まる様は、荒野でシマウマの死骸に集まるハイエナとハゲタカの群れに見えます。うろうろしても儲けるのは最初に見つけたハイエナだけ。ネット上の賭場もこれほどまでに膨らむと、破裂した時の影響は小さいものではありません。まともな金融機関がこの市場で資金の出し手として活躍しすぎないことを祈ります。そしてイーロンマスクのように正々堂々「ビットコインに投資をするぞ」という宣言をする有名人が相場を煽る役割を果たしているのは、SPAC狂騒曲と同じです。

 

  最後のバブルの足音は、買われ過ぎ指標であるPER、株価収益率です。アメリカ株の現在の株価は1株当たり利益の31倍まで買われています。01年のドットコムバブルでは27倍程度でしたので、それ以上のバブルになっています。

  株価収益率はとは簡単に言えば、年間利益の何倍まで買われているかの指標です。31倍まで株が買われているということは、そこまで高い株を買っても、報われるには31年かかるということです。過去の平均倍率を大きく上回ると、いずれは下落に転ずる。これぞバブルの足音の本命中の本命です。

 

みなさん、どうぞご注意あそばせ!

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3 コメント

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Unknown (定年退職)
2021-05-09 12:33:40
林先生、こんにちわ

「アメリカ株式市場、バブル崩壊の足音」読ませていただきました。
僕は、難しい事は分かりませんし、アメリカ株も全く保有していません。
日本財政破綻を危惧し、先生の教え通り、財産の殆どを、米国債等に投資していますが、バブル崩壊により、米国債への悪影響は考えられないのですか?
ネットで検査しますと、米株式、米国債ともに暴落するとの記事があります。
どうなんでしょうか?
よろしくお願いします。
返信する
定年退職さんへ (林 敬一)
2021-05-10 11:17:48
定年退職さん、こんにちは

08年、アメリカ発の金融危機をみなさんまだよく覚えていると思います。
アメリカの株式と原因となった不動産は暴落しました。世界中の株式も暴落しました。その時に世界で唯一暴騰したのが米国債でした。

両方が売られるなどというのはただの煽り屋の意見です。

ドットコムバブルの崩壊でも同じだし、911の時も同様。すべての危機で買われるのが米国債です。

どうぞご安心ください。
返信する
Unknown (定年対象)
2021-05-10 14:22:04
林先生
ありがとうございます。
安心しました。 
やはり先生の言葉で、いつもですが、凄く楽になります。

それから、以前に相談させて貰いました、インドの投資信託ですが、少しプラスになってましたので、全て手離しました。
インドはコロナで、大打撃ですしね😅

今後ともご指導宜しくお願いします。
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