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ホントは恐い、社債の危険性

2023年03月20日 | 社債投資の心得

  クレディスイスの危機は、中央銀行であるスイス国立銀行のサポートとUBSによる救済合併で収束すると見られています。先週のシリコンバレー・バンク騒ぎに次いで、銀行破綻が連鎖しました。今後も銀行破綻は問題銀行に連鎖する可能性があることをみなさんもしっかり頭に入れておきましょう。

  今回の救済スキームは新聞だねとしては終わった感があるのですが、債券の専門家の間では、大きな衝撃を持って余震が続いています。それがタイトルにある「ホントは恐い、社債の危険性」の話です。

 

  私が個人的にアドバイスを差し上げている個人の方々のポートフォリオには、驚くほど多くの社債が含まれています。しかも多くの方はその社債のリスク内容をしっかりと把握していないので、今回はそれを取り上げて警鐘を鳴らします。

   その前に、今回の破綻救済スキームの何が問題なのかを、専門家の観点からみてみます。クレディスイスは多くの社債を発行していて、その中に破綻の際だけ帰趨が関係する劣後債の性格を持つ債券が存在していました。

  銀行を含む破綻企業の処理では、債権者の権利を守る順番が決まっています。例えば負債総額100億円などと破綻の大きさを表しますが、最初にゼロになるのは株式で、投資家には1円も戻りません。その次は貸付をしている銀行や社債の保有者になりますが、残余財産を比例配分することになります。

  社債にも種類があって、いわゆる「劣後債」というカテゴリーの債券の権利は、株式より上ですが普通社債より劣後します。ということは株式同様、負債が大きければ戻りはゼロになる可能性が高いのです。ですのでリスクを取る投資家は普通社債より高い金利ももらえます。私の懸念は、そのリスクを知ってか知らずか、劣後債に投資をされている方がとても多いのです。

 

  この返済順序を頭に入れて、クレディスイスの処理を見ると、とんでもないことが起っています。今回はUBSがクレディスイスの株式を、時価の1.86スイスフランより6割低い0.76スイスフランで買収することが決まりました。ということは、株式価値はゼロにはならずに半分弱返ってくる勘定になります。

  ところが今回クレディスイスの発行しているAT・1というタイプの劣後債の価値をゼロにするというのです。しかもその発行額は2兆2,800億円にのぼります。これは先ほどの原則論、まず株式がゼロになるのとは違う処理になったということです。

  このように銀行が発行する劣後性債券は、スキーム自体が複雑で破綻処理も単純ではないのです。2.3兆円もの債券の価値がゼロになり、株式投資家が救われるのは、順序がおかしいと感じる専門家が多いのです。

 

  しかも過去にプロの投資アナリストなどが出しているコメントもお門違いだったことになります。金融専門ニュースのプルームバーグに載っている以下のコメントを参考までに引用します。世界的に有名な投資会社アライアンス・バーンスタインのアナリストコメントで、22年2月のHPからの引用です。

タイトル;銀行セクターは劣後債が魅力的

AT1債は一連の信用格付の各ポイントにおいてより高いバリュー(林の注;金利が高い)を示すのみならず、その具現化されたリスクも銀行株式と比べて低い。そして、過去5年間のハイイールド債のデフォルト率が年間3~4%だった一方で、AT1債が株式転換された例はなく、返済が繰り延べられたケースも数えるほどであった。

もちろん、これらの統計データは時と共に変化する。しかし、アライアンス・バーンスタインは、銀行のバランスシートが現在のように健全であることを考えれば、リスクバランスは劣後債に有利であると見ている。

引用終わり

 

以下は同じHP上の会社の自己宣伝です。

「アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーは、世界有数の資産運用会社です。
世界の機関投資家、富裕層、一般の個人投資家の皆様に、それぞれの国や地域のニーズに即した広範囲な投資運用サービスをご提供しています。
2022年12月末現在、ABの運用資産総額は約85.3兆円(6,464億米ドル)です。株式、債券、マルチアセット、オルタナティブ運用等、幅広い運用商品をご提供しています。」

 

さて、みなさんはこの立派で巨大な投資会社の分析と、破綻処理結果の齟齬をどう思われますか。

  今回の記事のタイトルは、「ホントは恐い、社債の危険性」です。普通社債ならまだしも、劣後債やクレジット・リンク債などは普通社債より若干高い金利をもらえるのですが、シロウトの方には判読不能なスキームが埋め込まれているため、避けるようにしましょう。わずかな利回り欲しさで、証券会社の甘い言葉に引っかからないようにしましょう。

 

「気を付けよう、甘い言葉と暗い道」

 

安全な債券は、米国債のみです!

コメント (6)
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