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BREXITとは英国の離脱ではなく、英国からの離脱だ

2019年03月18日 | ニュース・コメント

  スキーばかりやっていたため、ちょっとお留守にしていた世界の動きのアップデート を私させていただきます。今回の話題の中心は BREXIT なのですが、その前に このところ打ちのめされ続けているトランプのことに触れないとすぐヒガムので、ふれてあげましょう(笑)。

   昨年末私は「トランプ恐怖政治の終焉」というタイトルで今後の私の見方を皆さん にお伝えしました。では本当にそのようになっているか簡単に顛末を見ておきます。

 ・北朝鮮はトランプの脅しに屈せず、核兵器の完全放棄をはねつけ、2 回目の会談は 物別れに終わった

 ・アメリカ議会はトランプが要求しているメキシコの壁予算を承認せずはねつけた

 ・さらに壁をめぐるトランプのいわれのない「非常事態宣言」を無効とする決議をし、そ れにはいままでトランプに従順だった共和党議員までが反対側に加わった

 ・米中協議はトランプが、「うまくいっている。3 月中に開催する」と言い続けていたが、 中国が事前交渉でトランプに屈せず、開催すらできなくなった

   このように彼の重点政策はことごとく相手が屈しなくなり、「トランプンなんか怖くない」 ということになっています。

 

  では本題の BREXIT です。

   今回のタイトルは、「BREXIT とは英国の離脱ではなく、英国からの離脱だ」です。 どういうことかと申しますと、企業や金融機関のイギリスからの離脱が予想以上に続い ているということです。

   このところ英国議会を映すテレビで議長のおじさんの出番が多いですね。議会内 ではマイクをあまり使用しないため、顔を真っ赤にして大声で、

 “Order!Order!”   ご静粛に、に続いて賛否の票数を読み、

 The nays have it,  The nays have it!  ナイズハブイット を連発していました。

 これは議会用語で、反対多数で否決された、ということです。それが、先週の2日間は連続で 

 The ayes have it!  The ayes have it!  

  アイズハブイットに変わりました。賛成多数で可決ということです。もっともそれでも事態 は好転しません。この小田原評定、いつまでつづくのでしょう。イギリス議会がどう騒ご うが、EU 側は「びた一文譲歩はしない」と言っているのに。

  以前にも書きましたが、EU にとってイギリスの離脱ほど苦々しいものはありません。 EU 内部でもイタリアやオーストリア、ポーランドなど、ポピュリスト政党が多数派になっ ている国が多くて、ポピュリスト達の政策はことごとく EU離脱が含まれていま す。それらの国への見せしめの意味もあり、EU側に譲歩のインセンティブなどないのです。それに加えて離脱に時間がかかっても、それに乗じ混乱を嫌う企業や金融機関の移転先を獲得できるメリットもあるため、EU各国は本心では急ぐ必要なしと思っているにちがいありません。

  すでに日本の自動車メーカーはホンダや日産のように英国からの離脱を決めたと ころもあれば、パナソニックやソニーのように欧州本社をオランダに移してしまったとこ ろもあります。金融機関も続々と離脱しそうです。アメリカの金融機関ではゴールドマン やモルガンスタンレーが離脱をすでに決行しました。金融機関は EU 内に本社があれば域内のすべての国で別々のライセンスを取得する必要がなく、ユニバーサル・パス ポートを得られるからです。

   離脱組がどこへ行くかと申しますと、それぞれの事情にもよりますが、オランダ、ベ ルギー、ドイツ、そしてフランスといった順です。なぜオランダやベルギーが多いのか。 理由は、オランダやベルギーはかねてからイギリスに次いで金融業などの商売をする のに自由度が非常に高いためです。私もソロモンブラザーズの資本市場部にいたころ、 日本企業のファイナンス子会社が多いアムステルダムなどにたびたび出張していまし た。私の仕事は日本企業がユーロ市場で債券発行による資金調達をする際、それを 引き受け機関投資家にセールス部隊を通じて販売するというものでした。債券は発行 されるときには株式と同様に、発行後の売買が行われる取引所を決めておく必要があ ります。

   EU 以前の時代から取引所の選択では発行体のロケーションにかかわらずロンド ンかルクセンブルグが多かったのです。理由は上場に際して開示する書類が簡単だからで、日本での開示要件である有価証券報告書を英訳すれば事足りました。ルクセ ンブルグが多いのは、英語での登録が認められていたからです。それがニューヨーク への上場となると、英語ではあっても開示内容が全く異なり非常に厳しいし、その後四 半期開示が義務付けられ、コストが莫大になるので避けられています。

 

   イギリスの日本企業は、今後 BREXIT の迷走による混乱が続こうが収束しようが、欧州本社や製造拠点にイギリスは選ばないでしょう。残念ながら小さな島国になったイギリスは小さな市場がある以外、経済金融分野において存在価値が減る一方だと思わ れます。実際に合意なき離脱が可能性を増す一方なのですが、そうなった場合のイギリスの受けるインパクトについては、すでに「さよならをもう一度」という記事で書いていますので、それを簡単に引用しリマインドしておきます。

 引用

イギリス政府も中央銀行であるイングランド銀行も、それぞれ合意なき離脱の影響を試 算していますので、そのうちの最悪シナリオの数値をあげます。政府試算では 15 年後 に EU 残留と離脱の差は GDP で▲9.3%。イングランド銀行は 4 年後の 23 年末で▲ 10.5 とさらに厳しい結果を予想しています。エコノミストなどにはこれでも甘いという見方が多いのです。それにもしイギリスのGDP の9%を占めるスコットランドの離脱が現実となると、イギリスはさらに小さな島国でしかなくなります。

引用終わり

   こうした見通しに対してイギリス国内では離脱する日本企業に反対デモをかけたりする動きがありますが、今となっては空しい抵抗と言わざるを得ません。今後一縷の望みにかけるとすれば、国民投票のやりなおしでしょうが、メイ首相はそれを頭から否定しているため、3か月程度の離脱猶予期間では実施不能。結局ポピュリストの煽りに乗った哀れな末路を甘んじて受ける以外なさそうです。

   そのことで想起されるのは国民が飢えに苦しみ始めているベネズエラです。たわけたポピュリスト大統領によりインフレは遂に220 万パーセントに達し、電気と水までストップする事態になっています。この国の人たちに自業自得というのはあまりにも酷だし、救援したいと心から思います。

   しかし彼らを見捨て自業自得だと言っている他国の大統領がいます。それはロシアのプ ーチンで、あの大統領マデューロを支持しています。ところがおひざ元ロシアでも大きな変化が起こりつつあります。ロシア国民がプーチンに反旗を翻し始めたのです。経済が一向に好転せず、自国民が不況に苦しんでいるのに、「あのマデューロを支援するのか」という声が挙がっているのです。最近支持率が劇的に落ち、8 割程度を保っていたのが6 割程度まで低下していたのですが、先週のニューズウィークでは3割に急低下しているという調査をしめしていました。おごれるものひさしからず!

   ささっと世界を一望しましたが最後に、「トランプを含む世界のポピュリスト政権の 流れに変化の兆しあり!」と指摘しておきます。

 以上

コメント (3)
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