日本丸さんへの回答です。
証券会社の債券価格についてご質問いただき、ありがとうございます。
以前いちど同様な質問に回答していますが、再度詳しく本文にて回答させていただきます。
ご質問の要点をコピペしますと、
●金融機関ごとに、同じ期間でも利回りがかなり異なるものがあります。
米国債は米ドルで買う場合
・購入、売却手数料なし
・年間信託手数料なし
・金融機関の手数料なし
・流動性高く個人でも機関投資家とのスプレッド差なし
という理解は間違っていますでしょうか。
間違っていない場合は、
・各社で利回りが異なる理由
・金融機関は、どこで儲けるのか
そもそも債券取引は株式のように取引所での取引と違い、すべてOTC、Over The Counter、と呼ばれる相対での取引ですから、一物一価ではありません。オンライン取引でも形態は相対なので、OTCに変わりありません。
例えばAさんがB証券でC債券を買う時、ほぼ同時に別のDさんが別のE証券で同じC債券を買っても、お互いにそんな取引は知らないので、比べるべくもないため価格を合わせようとはしません。
不思議なことにこのITの時代になってもその取引形態は変わりません。なので債券のサイトには表示価格は変動しますよ確認ください、と注意書きがあります。最近はオンライン取引が多くなり、注意書きなしのものもあることはあります。
株式は普通上場されていて取引所取引が義務付けられています。それは、株式は例えばSONY株は1種類だけしかないので、一物一価が成立しやすく、価格や取引の透明性を確保するためです。
一方債券は同じ米国債10年物といっても、新発債もあれば20年物の残存10年のものもあり、クーポン利率も違う。とにかく千差万別です。日本丸さんが同じ年限の債券利回りを比べていても、利率・償還日などすべてが全く同じものとは限りませんよね。
ことをより複雑にして申し訳ないのですが、全く同じ債券の取引ですら、先ほどのように別の証券会社との取引では価格が違うことがあります。その理由について解説していきます。
証券会社がオファーする価格、それはサイトで見ることのできる価格ですが、そもそもどうつけているのでしょう。例えば10年物であればブルームバーグの画面にある10年物の価格を参照して付けます。市場実勢を無視はできませんので。それでもおのおの会社により多少違ってきます。
その理由は、価格はそれぞれの証券会社のそれぞれのトレーダーが付けるからです。普通トレーダーは自分のブック、つまり貸借対照表と損益計算書を持っていて、そのうちの資産にあるリストから売る債券を選び、売り物としてアップします。
同じ債券でもその人によって売りたいと思っているか、もしくは価格が上がりそうなのでキープしてもよいと思っているかで大きく違います。つまりトレーダーの思惑で異なるのです。
それでも他社がどの程度のオファーをしているかは見ていますので、市場実勢から大きく乖離はさせられません。ここまでが基本編です。
ではご質問に沿って回答していきます。
>米国債は米ドルで買う場合
・購入、売却手数料なし
・年間信託手数料なし
・金融機関の手数料なし
・流動性高く個人でも機関投資家とのスプレッド差なし
という理解は間違っていますでしょうか。
間違っていません、基本部分は。そして手数料はありませんが、最後の質問、儲けはどこからの回答は売買差、スプレッドです。
しかし以下の点だけは違います。
>・流動性高く個人でも機関投資家とのスプレッド差なし
スプレッド差は付けます。理由は手間ヒマの違いがメインです。
機関投資家間でももちろん違いがあります。
例えばA証券に100億円分の米国債Bの在庫があるとします。
一口100億円の機関投資家との売買と1億円の機関投資家100人を相手にするのでは、テマヒマが100倍違います。それが一口100万円の個人だと10,000倍のテマヒマの差になります。価格差があって当然ですよね。機関投資家向けには別の価格表を見せています。
ほかに例えば100億円の在庫に対して1億円の買い注文を受けるとします。それに応えると残りは99億円分という中途半端な在庫になります。そうはしたくなのが在庫を抱えるトレーダーの偽らざる心情です。なのでちょっと高くしたくなる。
というように在庫を抱える証券会社のトレーダーによって様々なポジションを抱えているため、提示価格には差が出がちです。回答は「ボリュームによって流動性には差がある」となります。
このことは以下の質問、証券会社によって価格に違いがあることの答えの一つでもあります。
>金融機関ごとに、同じ期間でも利回りがかなり異なるものがあります。
先ほども書きましたが、厳密に同じ償還日、同じクーポン利率の債券でしょうか。確認してみてください。
さらにことを複雑にします。この先は読まなくても支障はありません。
債券を取引する証券会社は在庫を抱える必要があります。例えばHP上に30の債券が表示されていれば、それを保有しているはずです。その合計金額は莫大な額になります。大手であれば数百億円、昔のソロモンなどは米国債なら常に数兆円も抱えていました。それは例外としても、日系大手で100億円としましょう。在庫は刻一刻と価格の変動リスクにさらされています。価格がたった0.1%動いても1千万円です。従って裸で抱えるようなことはしません。普通は抱える分、先物を売り建ててヘッジをします。
でもよく考えてください。抱えているのは1種類ではなく、年限の違う千差万別の債券を、量的にもバラバラに抱えていますので、1つの先物を売り建てても完ぺきなヘッジにはなりません。そこでトレーダーは自分のポートフォリオをひとまとめにした平均的債券と考えてそれに対するヘッジをします。それも1つとは限らず、年限の長短などでいくつかに分けます。そのおのおの平均値を算出するだけでも大変面倒ですが、最近はコンピュータがやってくれ、ヘッジに見合った先物も探してくれます。それでも実物の在庫との差があるため、多少の損得はしかたありません。それをトラッキング・エラーと言います。
債券を在庫で持つということはこれだけのテマヒマとシステムなどの設備投資が必要です。そしてより重要なのは、在庫のファイナンス、つまり資金調達と為替ヘッジです。米ドルを抱えるのにドルで調達しておけば為替リスクは避けられますが、円よりドルの調達コストが高くなるので、儲けは薄くなります。調達にはコストがかかります。
さらに彼らは自己勘定でヘッジなしで保有するというリスクも取ります。みなさんと同じで、将来的に米国債からの金利収入と為替変動でもうかると思えばヘッジなしの保有もありえるのです。
こうしてトレーダーは基本動作に加え、様々な思惑もからめてプライシングをするのです。
ここまでで債券の取引の基本形態、みなさんに相対するトレーダーの基本動作などについてご理解いただけましたでしょう。
もし日本丸さんが価格を比較して不満があれば、他社はもっと安いよといって交渉してみてください。ディスカウントの可能性はなきにしもあらずだと思います。
以上、かなり専門的な部分もあるため難しなりましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
あー、ここまで書いてくると、債券専門家としての昔を思い出し、感傷に浸ることができました(笑)。日本丸さんに感謝です!
みなさんに一つだけお願いです。日本丸さんではありません。投稿を拝見していると、10回に2-3回くらいの割合で債券を「債権」と変換ミスをしている投稿を見受けます。せっかく「債券」のサイトですので、お間違いのないようにお願いします!