ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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証券会社の提示する米国債金利について・・・Takeさんの疑問への回答

2018年02月18日 | 米国債への投資

  羽生結弦選手、そして宇野昌磨選手、やりましたね、オメデトウ!

私もかたずをのんで中継を見守りましたが、日本人として本当にうれしい限りです。

  そしてもう一人、国民栄誉賞の羽生さんを破った藤井君、さらに一勝して6段に昇格。本当に驚きの快挙ですね。羽生さんには失礼ながら、うれしいニュースが続きます。


  さて、Takeさんの疑問への回答です。Takeさんの疑問は、以下のとおりです。

>大和証券で20292月償還債(以下、大和の米国債)が利回り2.719%で販売されております。残11年の債券ですが、残期間がより短いはずの現在の10年債の2.857%より低い利回りとなっています。

一応確認ですが、「現在の10年債の金利」とは、毎日公表されている市場金利のことですよね。そうだとして議論を進めます。

  証券会社の売値、あるいは同じことですが、販売時の利回りは、市場金利とは一致しません。その理由をまず簡単に述べます。

回答その1.初級編

a.  証券会社が提示する時点と市場の金利公示の時点には時差がある。証券会社の提示金利は、刻一刻動く市場金利には追い付けない。提示後に10年物の市場金利が上昇してしまった可能性がある。

b. 証券会社は自分の販売手数料を稼ぐため価格を高くする。価格を高くするということは、利回りは低くなります。

    債券の場合、株式のように手数料は販売総額の0.1%というように、あたかも外税方式のようにはなっていません。内税として売値に上乗せして手数料を稼いでいます。価格を上乗せする結果、提示する金利は市場金利より低くなるのです。

  手数料の考え方は、為替の場合も同様ですね。例えばドル円市場の中値が107円と仮定します。すると銀行はドルの売値は108円、買値は106円と提示して、もし同時に売買が成立すれば2円の儲けになります。

  それを債券に当てはめると、やはり証券会社は市場の中値より売値を高く設定し、買値を安く設定してその間のスプレッドを手数料相当の儲けとして確保します。

  それにしても、市場の10年物の標準金利より11年物の提示利回りが低いと、あれっという印象を持ちますよね。高く買わされるのですから。

  それにはさらに深い理由があります。

回答その2.中級編

証券会社の在庫である保有債券の価格も日々変動するが、それをある程度ヘッジするため、余裕をもった価格を提示する。

  特に現在のように金利が日々大きく変動する局面では、提示金利と市場金利との乖離はより大きくなりがちです。そうしないと日々の価格変動についていけず、在庫で損失を出すおそれがあるからです。

   10年物の指標金利はあくまで目安ですから、販売用の債券は常に手数料分金利が低くなるのはしかたありません。

   それにしてもTakeさんの見つけている11年物は、指標金利よりだいぶ低いという印象を私も持ちます。金利全般が高くなっていて買い意欲が強いので、売り手は強気の価格設定をしているのでしょう。

 

  オマケ、ちょっと上級編・・・わからんという方は、以下の解説は無視してください

  債券を取り扱っている証券会社は非常に多額の在庫を抱えています。例えば私のいたかつてのソロモンブラザーズは債券では世界最大の取り扱いをしている投資銀行でしたが、常時10兆円以上の在庫を抱えていました。日々の金利変動による在庫価格の変動は莫大です。価格が1%変動すると1千億円の損得が出ます。その変動から自己のポジションを守るためにはヘッジを行う必要があります。以下は非常に単純化した解説です。

  在庫が単純な保有、つまりロングのポジションだと仮定すると、同額の先物を売り建てる、つまりショートすることでヘッジができます。

  しかし10兆円ものポートフォリオは数百本~数千本もの多様な年限の債券が混在しています。するとその一本一本の債券をそれぞれ先物でヘッジすることは不可能です。そこでポートフォリオ全体を何本かの債券グループで近似させ、その何本かの近似債券を先物でヘッジするという手段を取ります。

  近似させると説明すると平均値を出すという単純作業に思われますが、実はそうではなく、ポートフォリオのデュレーションを計算するという非常に複雑なものです。これは難しすぎるので省略します。

  日本の証券会社の在庫はそこまで膨大ではないものの、価格変動に対してヘッジするということは必ず必要です。例えばTakeさんの買おうとした11年物債券の在庫は、同年限のヘッジ手段はありません。先物のある10年の標準物でヘッジするよりしかたないのですが、そこには年限が異なるというわずかなリスクがあります。すると完全にヘッジできないため、そのリスクの分売値を高く設定するということもありえるのです。

  ちょっと話が複雑になりすぎました。要するにこうした様々な事情から債券価格は市場の標準物からは推し量れない乖離がありうるということを説明しました。

 「それじゃ、証券会社の思うつぼじゃないの?」

という疑問が当然わきます。大丈夫、そこは競争原理が働くため、一つの証券会社の思うつぼにはなりません。それでも我々の投資環境は、日本という狭い国の小さな市場であるという不利さは否めません。Takeさんの買おうとした11年物の米国債をアメリカの証券会社に直に買いに行くと、よりリーズナブルな価格で買えるかもしれません。わたしはそこまでは確認していませんので、あしからず。

  私の解説は以上ですが、ご理解いただけましたでしょうか。

コメント (8)
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