ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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財政ドーピング論について

2014年02月28日 | 2014年の資産運用
2月19日の記事で私は以下のようなまとめをしています。

引用
財政出動はドーピングと同じです。ドーピングは個人でも国でもいったん手を付けるとやめることはとても難しいのです。そして確実に体を蝕みます。そのダメージを今度は金融緩和という麻薬で消そうとしているのが今の日本です。しかしその麻薬がドーピングと一緒になってすでに全身を蝕み、中毒症状を緩和するためにさらに麻薬をうつ。20年を経過した中毒履歴はすっかりこの国の政治家も国民も堕落させ、最早ドーピングも麻薬も使うことの躊躇すら全くなくしてしまっているのです。
引用終わり

 この私の議論と同様な主旨ですが、別の観点から意見表明をされている方で、小幡績という慶応大学準教授がいらっしゃいます。テレビなどにも時々出ていますがけっこうクセのある方なので、彼をきらう方がいらっしゃるかもしれません。しかししっかりとした経済理論と数字を基にした主張は、聞くべき内容を多々含んでいます。今回はみなさんにその方の議論を紹介させていただきます。

 2月27日の日経新聞経済教室の内容から、サマリーをお届けします。何故そのようなことを私が突然するのか。理由は私の議論は決して独りよがりの独善でなく、同じ様に考える専門家がいることをお示しするのが目的です。以下はサマリーですが、( )内は私の補足です。

 ポイント
1.経済には短期・中期・長期の三つの好循環が存在する
2.過去の短期的経済対策は長期の成長を阻害する
3.人的資本による持続的成長こそ真の好循環である


 (このうち2の「短期的経済対策は長期の成長を阻害する」という議論がまさに私のドーピングと麻薬の議論と一致する部分ですが、とてもよく整理されていますので以下をご覧ください)

 短期の景気刺激策が経済成長を阻害するルートは三つある。

その1.経済主体が受け身で対応し、構造変化が起きないこと
  (本来淘汰されるべき産業が生き残り、もっともっとクレというオネダリ君達と政治家が票で結び付く)

その2.人々の期待の変化を狙う刺激策は短期的にしか持続せず、政策意図が織り込まれてしまえば、長期には期待を動かした政策的撹乱の副作用だけが残る
異次元緩和でインフレを起こし円安にする政策は、当初総悲観だった行動に変化を起こしたが、いったん落ち着くとインフレと円安によるコスト高だけが残る。

その3.投資促進策をとれば需要は増えるが、中長期的には日本の過剰資本蓄積問題を悪化させ、さらに成長力の持続的な上昇を生みだす好循環を阻害する
本来あるべきイノベーションと人的資本の蓄積を阻害し、成長力を根源から低下させる。

財政支出による需要拡大や円安による輸出では、過去のビジネスモデルに企業を回帰させ、既存プレーヤーの延命をもたらし、ニーズを捉えるための努力がイノベーションを生むという好循環は起きようがない。

いずれ景気循環は下降局面に入る。政府債務は世界最高水準で、財政支出は維持不可能であり、円安による輸入価格上昇で経常収支赤字転落が見込まれる。通貨下落、国債価格下落により日本経済は中期的に困難に直面する可能性が高い

 以上でサマリーを終わります。

 みなさんの感想はいかがでしょうか。

 今回彼は数字を示して議論を展開しているわけではありませんが、論旨は明快です。現在の政府の政策に真っ向から異を唱え、短期の景気好循環が終わると中期的・長期的な成長阻害問題が待ち受けるとしています。

 私が言う、『ドーピング(財政によるバラマキ)による体力の消耗を麻薬(金融緩和)で抑え込む、つまりバラマキで財政破綻が近付くと、日銀が国債を買って金利上昇を抑え込むという荒技はいずれ破綻せざるを得ない』という議論を、彼は景気循環と経済成長のあるべき姿の視点で説明しています。

 オネダリ君達にいつまでもフリーランチを与えることはできません。誰かがいずれそのツケを払わなくてはいけないのです。このままでは本来あるべき淘汰が進まず、次世代に向けた長期の成長力は決して生まれないのです。日本には農業という悪例、あるいは反面教師がいました。その他の産業までが農業の轍を踏み、競争力をなくしつつあるのは嘆かわしい限りです。

コメント
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