前回は円高の影響に関連して、日本経済にとって重要なのは、貿易収支より輸出の絶対量だ、と言うお話をさし上げました。そして輸出が減っていくのとは反対に、日本企業の海外での生産が米国ばかりでなく、タイなどのアジア諸国でも増加しているということを示唆しました。
今回はその海外移転を統計的に裏付ける数値がありますので、ご紹介します。一つは国際収支統計の資本収支。もう一つは国内の設備投資動向です。
国際収支には貿易などの収支のほかに、資本の出入りを計る資本収支があり、海外への投資と海外からの投資をみることができます。海外への投資を5年ごとに見ると、以下のようになります。
96年―00年 01年―05年 06年―10年
海外への投資 3.4兆円 5.4兆円 8.2兆円
このように5年ごとに区切ってみますと、直接投資の増加ぶりがクリアーにみてとれます。
次に日本企業の国内の設備ストックです。毎年の設備投資は、GDPの設備投資額で出てきます。それらは毎年大きく増減しますが、それらは単なるフローの数字です。新規に設備を作る一方で、古い設備は廃棄されていきます。企業決算でいえば減価償却費として計上される部分が減耗分です。
雇用の維持という観点から大事なのは、投資と減耗をプラス・マイナスして設備ストック全体がいったい増えているのか、減っているのかです。ところがこの減耗分を差し引いたストックの額は政府が定期的に発表している数値はないようです。 GDPというフローの数字だけでなく、減耗を考慮した国富つまりストックの調査もしっかりとされるべきでしょう。
そこで数値は経済研究所などの調査報告が頼りということになります。私が見つけたのは、大和総研のレポートとBNPパリバのレポートですが、09年に日本全体の資本ストックの減耗分が、新たな資本ストック追加分を上回ってしまったという調査結果が出ています。つまり日本企業が国内の設備投資をスローダウンさせたため、設備ストック全体がシュリンクしてしまったのです。
設備ストックを量的に把握するには、新規投資と減耗の差を以下のようにGDP対比で考えるのが一般的です。
( 民間設備投資 - 民間企業固定資本減耗 )/ GDP
70年代はこの数値は10%から5%の間で推移していました。つまり毎年日本の設備はGDP対比で数パーセントづつ増加していたわけです。
80年代も、実は同様に5%から10%の間で推移しています。
何故5と10を反対に書いたかといいますと、70年代は当初が10%程度、最後は5%程度、80年代は丁度それが逆で、5%からスタートし最後が10%近い数値になったからです。設備投資も80年の第二次オイルショックに向けて低下しましたが、バブルの頂点に向かって再度増加していったのです。
90年代は当初の10%近い数字が、最後に2%程度まで落ち込むというひどさでした。過剰設備が整理されていく過程ですが、それでも減耗より増加が多く、ストックは増加基調を保っていました。
2000年代の初頭は、ITバブルで一瞬4%近くまで回復しましたが、すぐにほぼ0%になってしまいました。その後2-4%で推移していましたが、09年には再びマイナスとなり、設備全体がシュリンクしています。
このような設備ストックの縮小が継続すると、当然企業による雇用の減少という形で、日本経済に影を落とすことになります。