タイトルからして、銀座では高い方がいいのだ、と言っているように思われるかもしれないがちょっと違う。
ある夜、銀座のバーにはいった。
外から見るとバーである。
静かな悪友S君とはいったのだが、カウンターだけだし、そこそこ飲んでそこそこの値段で帰れるだろうと思って軽い気持ちで飲み始めた。
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お酒の種類が少ない。
バーテンダーが全部女性だ。
そのようなバーはほかでも知っている。だからいいのだが。
というか、時間制のバー、らしい。どうも妙だ。
時間制のバーなんてきいたことがない。
グラス一杯ずつのカネはとるのに、30分以内だと合計が定額これこれ、といった感じ。
それにバーテンダーがよく飲む。これも、別に、進めれば飲むわけだから、違和感はあるもののありうる話。
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結局わかったのは、時間による定額合計というのは女の子の相手代らしい。なんじゃ、これは。
早い話、カウンターだけのキャバクラかっ。
そこまでは極端ではないが、スナックの少し進化したようなところ?
スタンド・スナック?
新手?
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それでも、カネのことにうるさい静かな悪友S君はシビアだ。
30分なら30分で帰ればお品書きに書いてあるシステムの通り払えばいいのだから、それで帰ろう、ということになりそうした。
そうしたからことのほか安く済んだ。計算通りだ。
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そして何日か日をおいて再訪してみた。
前回安かったし、それに一度顔を出して、あることないことしゃべっているので、バーテンダーと多少気心がしれているというのもある。
それで、前回より少し多めに飲んで一時間ぐらいいた。
S君の計算では前回の5割増しぐらいの請求だろう、ということで、まぁ、それぐらいは仕方がないなぁ、などと思いながら、お勘定をみた。
そこで、目が飛び出し、皿が飛び空中浮遊した。
なんだ、この値段は。
前回の5倍ではないか。
どこをどう計算すればこんな請求になるんだ。とさりげなく訊いたところ、事細かに前回なかったような話までいろいろと説明を始めた。
我々はすっかり憔悴、安い酒で悪酔いした頭はシラケドリも飛ばない。
最初の時のイメージのまま、調子に乗って再訪したわけだが、これでは三度目はあり得ない。
これって、もう来るな、っていってるんだよね。このお勘定っ。
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誰も三度目はない。
こうやって、安物売りしたバーは、再訪時にふっかけ、三度目の客の姿を見ることなく、時の流れに流されていく。なんでこうなるんだろう。
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一回目と二回目の収穫だけで三回分まで計算しているのかもしれない。客にとってはたまったものではないが、三回目以降は客の方が勘弁。行かない。
また、新しい客が適当に入ってくれるから問題ないのよ、って思ってるんだろうね。
このようなお店が、銀座に、あるなんて知らなかった。
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はじめて訪れたお店が思いのほか安くすんで、気分を良くし、再訪したら、かなり高かった、ということは、たまにある。
飲む方も気をつけないといけないのだが、安易な気持ちで気心を通じ合うと、というか気心は通じあっていない、こちらが勝手にそう思っていただげ、甘いよね、といわれればそれまでだけれども、世の中、それで終わりではないでしょ。
客にとって、再々訪はあり得ず、結果的にお店は客を失う。と思うけどね。
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ここ何年かの銀座は、道端でビラ配り、客引き、と、情感が失われつつある。
お酒を飲みに行くときの、ちょっとしたワクワク感のようなものが、ビラをみたとたんに、失せてしまう。
ストップウォッチがあるようなところでお酒は飲みたくないが、居酒屋とかがあまり好きではないものにとって、自由に飲めるお店がなんとなく少なくなったような気がしないでもない。
おわり
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