恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

君への若干の意見

2013年11月10日 | インポート

 そう。君のいうことは正しい。君が存在してしまったことについて、君には責任がない。「生まれたくて生まれてわけではない」し、「生んでくれと頼んだわけでもない」ことも、そのとおりだ。

  以前、「人は親を選んで生まれてくる」という馬鹿げた説教を聞いたことがあるが、もしそうなら、大概の人間はもっとマシな親を選んで生まれてくるだろうし(ちなみに、「選ぶ」とは選んだ自覚がある場合にしか意味のない言葉である)、だいたい同じ説教を虐待されて育った子に面と向かって言えるのか? それは「前世の因果だ」、「自業自得だ」とでも言うつもりか?(ちなみに、「因果」の言説が有効なのは、当の「因果」関係を承認する者においてのみである)

  君の存在の開始に、まず責任を負うべきは「親」だ。というよりも、ある存在の開始に、一方的に責任があることを承認し自覚する人間を、その存在に対して「親」と言うのである。

  君は苦しんでいる。その苦しみの元には、両親との関係があるのだろう。そしてそれが今の君の人間関係に深刻に影響していることも本当だろう。

  ただ、それがわかったとしても、それがそうだとしても、過去は変えられず、君に残るダメージは消えることがない。

  だから、私はあえて君に勧める。君の存在に対する「親」の責任を免除したまえ。君が君として生まれ、そう存在していることの責任を肩代わりして、自ら一方的に全面的に担いたまえ。

  苦しくて切なくて痛いだろう。でも、そうしたまえ。それでも「自己」であることが、君という存在の誇りなのだ。「自己」である理由がないのに、それでも「自己」であろうとすること。私はそれを「尊厳」と呼ぶ。

  すなわち、「尊厳ある人間」が「自立した人間」なのである。


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108 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
一行、一行、 (カントン)
2013-11-10 00:26:26
一行、一行、
文章を読みすすみ、
「尊厳」の文字に、
涙が流れました。
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ありがとうございます。 ()
2013-11-10 01:10:15
ありがとうございます。
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背筋の伸びるお話ですね (Unknown)
2013-11-10 01:57:34
背筋の伸びるお話ですね
ありがたいです
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『私はそれを「尊厳」と呼ぶ。』 (苦しい人)
2013-11-10 03:42:47
『私はそれを「尊厳」と呼ぶ。』

南さんが「呼ぶ」ということが重要なのだと思いました。極めて厳しい存在条件を課した親を免罪することを「尊厳」と認定する他者の存在が、当人が尊厳を尊厳と自覚する必要条件なのではないでしょうか? 一人でその自覚は難しい気がします。

今の日本だと嘲りの声が聞こえてくるようです。
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言われていることは、「仏道をならうというは自己... (はてな)
2013-11-10 06:40:03
言われていることは、「仏道をならうというは自己をならうなり」 になるでしょうが、それと真正面から対峙し続け身にしみているからこそ >苦しくて切なくて痛いだろう。でも、そうしたまえ。   という厳しい言葉が静かに暖かく伝わりますわね。

現成公案の数少ない実践者、求道者そのものといいますか、やはり、根っからのお坊さんですね。
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きっとできると思います。私も親をおおよそ許せま... (浅野)
2013-11-10 06:52:24
きっとできると思います。私も親をおおよそ許せました。今は、他者と認識できる余裕もあります。自己を引き受ける。本当に主体性を持てるとしたら、自信を持てるとすれば、最初のこれだったですね、。
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お話しがどんどん核心に迫っていく思いがします。... (senrigan)
2013-11-10 09:32:06
お話しがどんどん核心に迫っていく思いがします。自己を潔く引き受ける姿は凛として美しさそのものです。自己を引き受けることは同時に他己を引き受けることでしょう。さらに、自他を超え時空との一体化と思います。  ありがとうございます。
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生まれることに理由はありませんが、私は与えられ... (Unknown)
2013-11-10 18:09:54
生まれることに理由はありませんが、私は与えられた状況を課題のようなものだと思っています。それぞれ、何故か課題を持って生まれ、取り組みながら真実を見つけていく。
一人の人間に過ぎない親も、同じように課題に取り組んでいる、小さな存在なのです。
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ありがとうございます。 (みさ)
2013-11-11 07:40:44
ありがとうございます。
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『苦しくて切なくて痛いだろう…』 (ttt)
2013-11-11 22:54:39
『苦しくて切なくて痛いだろう…』
に、ココロがきゅ~っとなった。涙出た…
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