くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「道警刑事サダの事件簿」菊池貞幸

2012-11-20 04:17:33 | エッセイ・ルポルタージュ
 私服刑事さんがアパートを訪ねて来られたことがあります。近くで強盗事件があったとのこと。どっしりした年配の男性と、小柄で落ち着いた感じの女性。朝早くだったので衝撃的でした。
 警察の方とお話しする場面といえば、防犯講話とか交通安全教室とかがあげられますが、時には余りありがたくない要件でお世話になることも、ありますよね。幸いわたしは直接聞かれたりしたことはありませんが。この本の中にも学校関係の事件が何点か紹介されます。
 まず、男の部屋から帰ってこない女子高生。駐車していた自転車を持ち出して乗るツッパリ。人の自転車を乗り回して故障させた高校生。
 ただ法的な手続きをとるだけでなく、その子の今後のことまで考えてくれる温かさを、菊池貞幸さんの文章から感じました。
 「道警刑事サダの事件簿」(徳間文庫)。警察官として関わった事件を小説風に紹介しています。有名なところでは桶川ストーカー事件とか。でも、事件そのものというよりも、関わりをもった周囲の人たちへの視線が優しいんですよ。
 突発的に殺人を犯し、逃亡した男の母親。酒に酔った父が、運動会の弁当を作っている母を刺してしまったために二人で残された兄妹。高校時代の友人から銃を預かってしまった農夫。菊池さんが憤るのは罪そのものなんでしょうね。何か事件があったとき、当事者以上に誰かが傷ついていることを感じます。
 ときに加害者でありながら、ふてくされて責任をとろうとしない人もいる。しかし、彼と出会って考え方を変える人びとも、間違いなくいるのです。
 様々な出会いは、警察関係者だけではありません。近所に住む韓国人の岩田さん(本名は朴さん)からこれまでの人生を聞いたり。
 印象的だったのは、ある少年を介してやりとりした駐在さんの手紙に描かれる義家弘之の姿です。一発触発状態の喧嘩を体を張って止めたというエピソード。その後の彼の様子を思うと、やっぱり有名になりすぎたんだよなぁ、と思ってしまいます。彼はこの現場で生きていくべきだったのでは。
 交通事故にあった知り合いを、万が一の奇跡に賭けて別の病院へ搬送するかどうか悩む「自分の判断」もよかった。大金をかければ助かるかもしれない。でも、公算は少なくお金に余裕があるとも思えない。結局その選択肢を提示しないままその方は亡くなります。奥さんからはその保険金で家を買うことにしたと連絡が入りますが、後年その場所には見知らぬ家族が住んでいて。
 事件に巻き込まれるやるせなさ、どうにもならない悔しさ。そんな人びとの感情を、菊池さんは書いていきます。彼の心を支える「神様」は、刑事としての信念からきているのでしょう。また、西上心太さんの解説で明らかになるある事件への怒りが、さらりと書いてあるように見えた文脈に光を当てます。
 娘の歯医者に付き添って行って読んだのですが、するすると入ってきておもしろいと思いました。


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