くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「教室に並んだ背表紙」相沢沙呼

2020-12-30 15:57:02 | 文芸・エンターテイメント
相沢沙呼さんだから、これはミステリかもです。でも、作中でも言われているような、血生臭くないミステリ。
「教室に並んだ背表紙」(集英社)、この「背表紙」は、生徒一人ひとりを一冊の本に見立てているのだと思います。
何か特別な能力や魅力があるわけではない、平凡な女の子たち。自分に対して自信が持てない彼女たちをの持つ繊細さとかきらめきとか、そういう美しさをすくいとってくれる物語です。
図書室の司書、しおり先生が、生徒に寄り添う姿にじんわりと胸があつくなりました。涙のあたたかさや、自分を肯定していいのだというメッセージに、読者も一緒に癒されていくと思います。

それぞれの物語をつなぐパーツとして、三崎衿子への集団によるいじめが語られます。
ふとした言葉がもとになって、クラスから浮いてしまった彼女を救おうとする級友はおらず、いじめはどんどんエスカレートしていくのです。

それでも、集団の意志に逆らい、三崎を助けようとする少女たちは現れます。
彼女たちは悩んでいます。自分が「主人公」だとはとても思えないタイプだから。
だけど、本を読むこととか、涙を流すこと、大人になることの意義を、彼女たちは実感していきます。
そして、おそらく、ハム子先生が言うように「あの頃の自分からすれば、考えもしなかった自分になっている」ことにやがて気づくのでしょう。
この学校の図書室は、シェルターみたいだなと思いました。
大人として女生徒たちと過ごすしおり先生は、彼女たちの中に過去の自分と共通しているものを持っているように感じます。
本を通じて、彼女たちが安息を得られるのは、ホッとしますね。

しかし、相沢さん、「medium」とはずいぶん世界観が違いますよね。どこかで足元をすくわれたらどうしようかと、心のどこかで思ってました(笑)。

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