くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「夢の花、咲く」梶よう子

2012-02-07 00:10:14 | 時代小説
発売から、朝顔同心中根興三郎ものと聞いて、楽しみにしていたのです。
梶よう子「夢の花、咲く」(文藝春秋)。
時期は「一朝の夢」よりも前ですね。見知った人といえは、藤吉と留次郎くらいでしょうか。ありゃ、こんなに親しい仲なのに、どうして「一朝」には出てこないの、といういわずもがなの疑問には、最後でちゃんとかたをつけてくれるので心配いりません。
興三郎の家で知り合った、岡崎同心と植木職人の娘のお京。二人の祝言が間近に迫った時期、お京の父の作った朝顔が、花合わせで「天」に輝きます。同じころ、山谷堀で男の死体が発見され……。
なんというか、他人事としては読めませんでした。というのも、このあと、江戸じゅうを震撼させる大地震がおこるのです。お京の家のあたりは火事で焼けてしまい、朝顔の種を売る約束で支払われた金を返すあてがありません。
興三郎は、岡崎とともにお救い小屋の面倒をみるように言われますが、そこに現れたのは以前兄の許婚だった志保。兄の突然の死で縁が切れたものの、今は材木問屋の後妻となり、この小屋にも援助を申し出てくれます。
しかし、お救い小屋の立ち退きの日が近づき、かけあってもどうにもならない。
一瞬、東日本大震災をモチーフに書かれた話なのかと思ったのですが、どうもそうではないようです。でも、なんとなく仮設住宅問題を彷彿とさせる。
このお救い小屋、復興で羽振りのいい大工なんかもいて不平を言う。できるだけ公平にしたいというと出て行ってしまう。大工や左官やら、手間賃を底上げして自分だけ得をしようとする。
そういう手合いをこらしめる「鯰組」なんて集団も現れ、興三郎の周囲は騒がしくなります。
震災後、ある店が値段を吊り上げたという噂があって、実際そこで買い物をしたわけでもないのに怒っている人もいました。風評で商売がたちいかなくなる人もいるのでは、と不安になったものです。
今回の魅力的な人物といえば、河鍋曉齋(周三郎)でしょう。卓越した絵描きとして、様々なものを描いていきます。
曉齋と仮名垣のコンビについては、たしか米村圭伍や北森鴻も描いていましたね。
そうそう、「一朝」を読んだあと、台場の科学みらい館(多分)に行ったのですが、遺伝に関する展示にこの変化朝顔を用いての説明があったんです。今回も「青渦立田葉照紅色采咲牡丹二重咲」という名前が出てきます。(葉、茎、花の色や形状を順に並べてあるのです)
知識があるというのは、世界が広がるな、と。それまでの自分だったら、十分以上もしげしげとパネルを眺めてはいませんからね。
変化朝顔が江戸期に大流行したことは、「お江戸でござる」でも見たことがあります。あー、でも確かこの番組で、「花火」はまだまだささやかなものだったといっていましたよ。
ともあれ、江戸と明治が近い、ということがにおいたつしみじみとした小説でした。