くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「螺旋階段のアリス」加納朋子

2012-02-21 22:27:50 | ミステリ・サスペンス・ホラー
最近の小中学生で、「不思議の国のアリス」をきちんと読んだという子は珍しいかも。
全体的に名作と呼ばれる本の出版点数は引く、学校図書館の本は古い。そして、一応在庫のある本を入荷するのは珍しいのです。てっきりあると思っていたのにないってこともざらですけどね。
アニメーションのリライトなら読んだという向きもありますが、加納さんはものすごく読みこんでいるのですね。わたしはなにしろ小学生向きの文学全集で読んだきり。もっぱら安梨沙と仁木の会話の身内的な親しさを楽しませていただきました。
「螺旋階段のアリス」(文藝春秋)です。続編が早く読みたーい。
職場では順調に出世をしていたであろう仁木さんは、会社の転職募集企画に申し込みます。一念発起して、「私立探偵」になろうと決めたのです。
しかし、依頼者は本当に来るのか。机でうとうとしたところに、うら若き乙女が猫とともに現れて、パートタイムの探偵になりたいと言い出す。
二人で日常の謎を解いていく物語で、わたしはこういう趣向、大好きなのです。
旦那さんの遺した貸し金庫の鍵。浮気を疑われる妻の行動。鍵のかかった地下倉庫で鳴り続ける電話。他愛のないお使いを頼む奥さんの真意は? そして、探偵なのに、ベビーシッター? 等々、こういうこと、実際にあるかもと思わせる展開がおもしろい。
ちょっとした事件の謎解きもいいのですが、安梨沙や仁木の家庭環境が徐々に明らかにされていくことが興味深いです。
どう見ても高校生くらいなのに、「二十歳は過ぎている」とか「結婚して二年」とか「離婚した」とか言う安梨沙。父がブランドものの子供服会社の社長らしいことと、存在感のある猫を飼っていること、そして、とても綺麗好きで、お茶をいれるのが抜群にうまいこと。仁木にわかるのはそのくらいでしょうか。
会社を辞めて探偵になり、安梨沙と事件に向き合ううちに、仁木は自分の家族についても考えることが多くなったようです。
また、この物語は、お人形として育った女の子の自立もテーマのひとつのように思います。彼女の思惑を、周囲の男たちが誤解するのもまたなんとも、作為的ですよね。