くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「スペース」加納朋子

2012-02-05 06:48:58 | ミステリ・サスペンス・ホラー
幸いにも駒子シリーズは二冊とも読んだのです。だから、細かいところは忘れていましたが、納得しながら読むことができました。今度読み返そうっと。しかし、瀬尾さん、結局駒子以上に事実を知っていたのでは?(笑)
加納朋子「スペース」(東京創元社)。ずいぶん前に、読書感想画の審査でこの作品を描いてきた子がいたのですが、そこにトランプがちりばめられている意味がやっとわかりました。
マリモちゃんが英文タイプで重ね打ちして見せた「space」と「spade」。短大近くののどかな場所。平泉への研修旅行と迷子騒動。現れる「ドッペルゲンガー」。
静岡に住む「駒井はるか」に向けての手紙を通じて語られる日常が、みずみずしい。わたしも学生時代は高校のときの友達と、就職してからは学生時代の友人と、手紙のやり取りをしていました。懐かしいな。
この間まで顔を合わせていた相手ですから、共通する話題があり、話したい出来事がある。日々の喧騒に紛れて滞ることもあるでしょうに、はるかに宛てた手紙はいつも長く、親密な愛情に満ちています。
手紙を書く楽しさ以上に、会っておしゃべりするのは楽しい。そして、自分のいる場所というものについて考えてしまう。
手紙の後半で、そのようなことが書かれていて、ちょっと胸が痛かった。
本を返してしまったので、うまく再現できませんが、二人が一緒にいることはある種のアイデンティティであり、片方にはコンプレックスであることが、もう一方には羨望であるというようなことも感じました。
なにしろ、シリーズの中ではそれほど時間が経過していないのですから、登場人物たちは携帯を持っていないしメールもしない。迷子になったら誰かのお世話になるしかない。そういう背景もおもしろい。
「バックスペース」は、いくらなんでもそりゃご都合主義でしょうと思わないこともないですが、やっぱりどこか物語に運命的なものを語ってほしいという気持ちがあるのでしょうね。
まどかと八重樫の距離の近さにホッとする物語でした。
平泉で道に迷ったまどかが助けを求めたのは、観光バスの運転士さん。短い時間に彼が連れていってくれたのは、とある食堂で……。
「スペース」を裏側から見ると同時に、道は戻ってやり直すことができるというまどかの強い意志を感じました。
なかなか距離の埋まらない駒子と瀬尾さんが、まあ、どうやらハッピーエンドのようでなによりです。
作中ではわたしにとって結構身近な平泉や花巻の様子が書かれていて、非常にワクワクしました。毛越寺で見た舟、今は池の辺というか、そんなところに置いてあります。たしかにバックヤードみたいな場所ではありますね。
高村山荘、賢治記念館、中尊寺、実際に加納さんが訪れてこんなふうに感じたのかなーと。
それから、「銀河鉄道の夜」について。途中原稿が紛失していたり、複数の筋があったり、順番がよくわからないといったことが紹介されていました。
わたしが中学生くらいのときに読んだ「銀河鉄道」は、まさにその通りで、間に注意書きがたくさんあって戸惑ったものです。今は、そんなことはないのかな。原稿が発見されたのではないですよね。再編集?
「よだかの星」はすごく好きなんですが、そういうわけで賢治の本をそれほど読み返してはいないわたしです。