くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「あやかしファンタジア」斉藤洋

2012-02-03 05:45:09 | YA・児童書
わーい、斉藤洋の不思議話ですー。やっぱり、こういうそこはかとない「怪異」が好きですね。子供の本にしておくのはもったいない。ぜひ文庫にー。
「あやかしファンタジア」(理論社)です。
「わたし」の住む町には根の少し上で五股に別れている銀杏の木があるのです。大学の道の中心に、どっしりと構えている銀杏。そんな場所にあるせいか、切ると祟りがあるのだと言い出す人もあり、いつの間にか噂も定着していきます。
「わたし」は、この大学の事務員・梶原郁夫と親しく付き合っているため、なんの気なしに銀杏の話をします。それなら、実際に見に行きますかということになり、もう夜の時間だとは思いながら、大学に付いていく。そこで、守衛さんに声をかけるのですが、案内された木は、もともとは林の木の中の一本だったのだと話されます。
それなら噂は無関係?
いえいえ、数日後、その守衛さんから電話がきて……。
この三田守衛さん、どうやら不思議な力をお持ちのようで、「桜坂」にまつわる物語では魔性のものを退けることもします。普段は野球が好きな温厚な方です。
梶原郁夫は、この出来事からもわかるように、思いつきで行動するタイプなんでしょうね。「桜坂」では異界の者の怒りを買うことになります。
「わたし」も、ちょっと怖いもの見たさで坂を通るのですが、霊障があってその後しばらく体調を崩したことがあります。そのことを言わないでしまったことを後悔している。
反面、霊の影響下にありながらも、頑強な室井敏之には意志を通します。幽霊も閉口、といったところでしょうか。
わたしは、「クラス会」の杉下京子の雰囲気や、桜坂の女性のたたずまいが好きです。怪談は、むやみにグロテスクだと品質が落ちてしう。
エンディングの地蔵堂のところ、絶妙の余韻です。ぽぉんと放り出された感じ。
怪異とは、存在するのか。「ない」と証明するのは難しいですね。一度でも「ある」ならば、覆されてしまう。
この町には「噂」として、銀杏の木のことや桜坂のことが伝えられているのですよね。不思議なレストランもある。で、人々はその中で日常を送っている。
こういう淡々とした怪異の世界、引かれます。江戸の怪談ものの流れが感じられるように思いました。