くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ダークルーム」近藤史恵

2012-02-12 13:36:19 | ミステリ・サスペンス・ホラー
えっ、そんなっ、角川文庫の新刊? 早速買いに行かなければっ、と学区の本屋に走ったのですが、棚にはなく……。一週間して改めて行ったところ、発見できました。よかったよかった。近藤史恵「ダークルーム」です。
わたしはわりと解説から読んでしまうのですが、藤田香織さんが、「脳内ベストランキング」を勝手にしてしまうとおっしゃっていて、それは楽しそうだな、と。わたしなら、「パレードがくるよ」「桜姫」「にわか大根」「薔薇を拒む」かなー。でも、藤田さんのように、あれもこれもランク入りさせたくなっちゃう気もするし。
とりあえず、この文庫で、近藤さんの上手さがまた堪能できちゃうことは確実です。
読み終わったあとに伏線の見事さにうなってしまった「SWEET BOYS」。真紀と涼子は親友で、ルームシェアして暮らしていました。隣に越してきたのは、鑑賞に堪えうる美形の毅と孝哉。
毅と涼子が結婚し、残る二人も同居を始めるます。真紀は、孝哉と暮らしながら、時々毅のことを考えてしまう。実は、二人と同時に付き合っていた時期があり、肉体関係もあった。
真紀はその関係に苦しみ、涼子に打ち明けることもできずに悩みます。しかし、涼子が毅の子供を妊娠して電撃結婚。
それなのに、まだ幼い息子を残して、涼子が自殺したというのです。「育児ノイローゼ」だと毅は言います。赤ん坊を五階の窓から投げ捨てようとした。それを止めた毅が、赤ん坊の安全を確保し、振り返ると涼子が飛び下りていた。
この説明、ラストを知ってから読み返すとかなり衝撃的です。涼子と真紀との違いも、鮮やかに浮き上がる。
同じことをしていても、涼子は悪びれることなく自信にすることができる。裕福に暮らせる方を選べるのです。
どの作品が好きかとなると、やっぱり迷いますね。「水仙の季節」も「窓の下には」も、ダークな中に清楚な明るさがある。真実を知ってしまったことの苦悩。でも、加害者との秘密の共有があることも、否定できません。受け入れて、赦す。
自分を認めてほしいと考えた青年の行動が裏目に出てしまう「過去の絵」も印象的です。芸大で絵を描く二人、タッチも思想もまるで異なる。「わたし」から見れば紋切り型な絵の牧くんには、抽象的な作風のシホちゃんのことが理解できない。シホちゃんは、彼がそういう絵を描く人である限り、好きになったりはしないだろうということが、傍から見ればわかるのですが。
芸大の文芸学科に在籍する高子(「わたし」)から見ての出来事が描かれます。近藤さんの学生時代の思い出も加えられているのかなーと思ったり。
エンディングが結構爽やかでいい。考えてみれば、現実に「事件」というとこういう盗作問題も充分大事件ですよね。
「ダークルーム」も、写真に情熱をかける同級生二人の物語。写真の焼き付け作業は手伝ったことがあるので、なんだか懐かしい。
書き下ろし「北緯六十度の恋」、園子の告白に泣きそうになりました。
様々に形を変えた「恋」が、この作品集には見つけられると思います。「ダークルーム」と聞くとなんだか不穏な感じですが、いやいや、素敵な短編集ですよ。