くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「七人の敵がいる」加納朋子

2012-02-06 05:37:35 | 文芸・エンターテイメント
今まさにわたしと同じように、加納さんの本を読みたい誰かが、どうやら市内にいるようです。先週、本と本の間に二冊分くらいのすき間があり、それでも六七冊はあった本が、今回は、もう三冊しかなかった。しかも、一冊は既読……。
選択の余地はないので、二冊借りました。で、「七人の敵がいる」(集英社)です。
編集者の山田陽子は、夫の信介、一人息子の陽介との三人暮らし。近くには義母もおり、困ったときには手伝ってくれます。
順調な暮らしぶりと思いきや、陽介の小学校入学に伴い、PTAの役員を決める会で不平を言ったことから、大顰蹙を買ってしまい……。
学童保育の父母会、スポーツ少年団の会長、自治会の会長、小学校PTA役員。次々に陽子にふりかかる役員人事。くじだったり、夫が勝手に引き受けたり、知り合いのためにやらざるをえなかったり。
でも、持ち前の有能さで、波紋を起こしながらも高いレベルで役職をこなす陽子なのでした。
まあ、簡単に言うてPTA役員小説なんですが。まついなつきの同趣向の本よりもずっとおもしろい。
わたし自身、PTAの「T」として二十年、子供が学校に入ってからは保護者としても関わっております。保育園の会長、小学校の広報委員、学年委員長、ベルマーク委員等を経験しています。(Tの方はずっと広報です)
自分が若い頃、特別支援関係の事務局をやることになり、次いで地区の国語教育研究会でもやることになって、いっそ「事務局」をテーマにした小説でも書くべきではないかと思ったことがあるのですが、まさにそれ。
何をしたらいいのか、とにかくこなしているうちに引き継ぐときがやってくるのですが、本当に自分が役に立っていたのか、非常に疑問です。ごめん、学年委員長なのに、授業参観日が重なって、ほとんど行っていないし。
中心になって活動してくださる方々には頭が下がります。
会費について、経験があるかどうかで支払い姿勢も違う、と分析する陽子には、なんとなく頷いてしまいました。
陽子は、夫からも「花嫁の父」と言われてしまうほどのスーパーウーマン。女同士の噂話なんて興味ありません。ある作家には「ブルドーザー」とも呼ばれます。テキパキと物事を片付けていくんですね、勢力的に。
いつもの加納さん的ヒロインとはタイプが違うなーと思いながら読んでいたんですが、なんとなんと、こんなことが隠されていたとは! さすがです。
「きみと僕に、この子のことを頼むって」
もう、涙が出ました。そういうことか、と推測してはいたのですが……。
正直、ラストはあまり好みとは言えないのですが、着々と自分の位置を築く陽子が、小気味よいです。「当然夫も敵である」「我が子だろうが敵になる」「先生が敵である」がおもしろかった。
まさか村辺さんや五十嵐さんがこんな重要な役どころだったとは。岬さんのしなやかさ、遥さんの気風のよさ、上条さんのシャープさ。沢さん、小川さん、それに陽子本人を入れて七人。うん? 会長の話を統合するともう一人必要かと思うんですが、わたし数え間違っていますかね。
はっ、信介と陽介が入るんですね、きっと。
一人一人の生活に、様々な苦労がある。PTA活動を描きながらジェンダー問題まで提起する、盛りだくさんの内容でした。