くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「コッペリア」加納朋子

2012-02-13 05:46:58 | ミステリ・サスペンス・ホラー
加納さんにしては平凡な話だなーと思いながら読んでいたので、中盤で唖然としました。えっ、そういうことだったの? ダマサレタ!
「コッペリア」(講談社)です。構成がおもしろい。こういうの大好き。
アングラ女優の聖(本名は聖子)と、人形に執着する青年了の交互の語りで物語は進みます。人形師如月まゆらを巡り、聖にそっくりな人形や彼女のパトロンである創也、ライバル視する美保、ストーカーらしき青年などなど、豪華絢爛な舞台装置になっています。
途中、まゆらの人形に欠くことのできない人物を描く三人称も加わる。複雑な人間関係の中で、毅然と生きていく聖の姿に引かれます。
わたしも人形には興味があって、その手の美術館にはよく足を運びました。
ある美術館は、観光地のはずれにひっそりと建っていて、駐車場には車が一台もない。
「なんか閉じ込められて自分がお人形にされちゃいそうなたたずまい(笑)」
といっていたんですが、結構好みの作家さんが見つかったりして、楽しかった。
しかし、妙に無口だなと思っていた娘、館内から出るとふうっ、と息をはいて、
「お人形にされなくてよかった……」
信じたのね! とちょっと申し訳ない気分になりました。ははは。
創也は、自分が見出だした真由子(まゆらの本名)が人形を作るのを助け、その人形の名を高め、やがてコレクションルームまで作るのですが、命の瀬戸際にとった行動もちょっと驚きました。彼はここまで想像していたのかしら。
生き写しのようによく似た人形が、何体か登場します。聖、あやこ、草也、まゆら。「コッペリア」は、人形に恋した男が、その人形に命が宿ったことで展開される喜劇ですが、加納作品ではむしろ人形に模される人々の悲哀が描かれているようにも思います。もっとも苦渋を感じさせるのは、如月まゆらでしょう。エキセントリックな希代の人形師。しかし、彼女の得たいものは名声ではないのです。
息子をもぎ取られ、失意の彼女に、創也は言います。「結婚しようか?」
「お断りよ。いくら形だけだって、いくら……だれがあんたなんかと」
彼にとっても、おそらくは、三人で過ごす日々は幸福だったのでしょう。まゆらにとって、それは納得できるものではなかった。形だけ、愛情ではなく。欲していたものは、手に入らない。でも、彼女の死の直前、直接引き金をひく、その心理はとてもよくわかります。
カバー見返しに作者紹介があって、「ハートウォーミングなミステリーの書き手」と書いてありますが、加納さんは決してほのぼの系列の人物ではないと思うなあ。そういう中にもピリッと苦いものを秘めている。まあ、ハッピーエンディングですけどね。
そうそう、冒頭には乱歩の言葉が載っています。「人形」という作品からの引用だとか。「人でなしの恋」といい、こういう幻想的な話は十八番ですよね。