くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「人間の証明」その②

2010-02-15 05:46:01 | ミステリ・サスペンス・ホラー
松田優作が演じたのは、棟居刑事の役です。幼いころ目の前でアメリカ兵たちに父を暴行され、父はそれがもとで亡くなります。人間を信じることができず、復讐心を社会全体に向けるために刑事という職に就いたのでした。
そんな彼が結局は人間の心を信じて賭けに出る。そして、厚顔無恥のようだった女は、自分の奥底にある愛情と後悔をあらわに、彼にすべてを話すのです。
試しにアマゾンで検索してみたら、すごく好評のようだったのでびっくりしました。
いやいや、でもさ。恭子が人間らしい愛情で接しているのはジョニーだけではないですか? それさえも現在の自分の地位を失いたくなくて殺意を抱くんだよ。なんて打算的な! とは思わないのですね。(そういう女が人間的な感情を失っていなかったことが、感動ポイントなのでしょうけど)
結局、恭子が大切にしていたのはウイルシャーとの思い出だけではないのかしら。彼との出会いについても、乱暴されようとしたところを救ってもらったからなのですが、恭子、実はそれが少なくとも二度めです……。
その前に棟居の父に救われたときは彼を見捨てて逃げたことを考えると、複雑です。
この作品でわたしがすばらしいと思うのは、戦後の猥雑さがよく出ているところなのですが。
戦後、若さと地位に任せて異国で乱暴なことをやっていた男は、帰国後やはり警官になり職務を果たそうとしました。棟居の父に乱暴をはたらいた男です。
そんな彼も最後には通りすがりの男に刺される。
わたしたちが棟居の生い立ちを読むとき、強い怒りを感じると思いますが、その鬼のような大男・ケンにも人間らしい部分がある。
この作品のなかでいちばんだらしないのは恭平ですね。親が自分の日記を引用していかにも理想の母親みたいな幻想を作りあげる。その母は自分が幼いころ遠足の弁当も作ってくれず、金で済まそうとした。フェリス入園のときに貰ったクマのぬいぐるみを、大学生なのに持ち歩いている。
恰好つけてコンタクトを作ったのになくしてしまい、事故を起こしたのもそのせいだと思ったり。それに事故車をどうするかも決めたくせに、自宅ガレージに置きっぱなし。始末しろよ! 
このコンタクトのエピソードがまたとってつけた感じなんですよー。恐らく恭平を断罪する小道具を考えてなかったのではないかと思うのですが、事故現場を一回めに探したときには何も見つからず、どうもやはり事故があったとわかったから捜査し直したら出てきたって……。
反対に最も探偵的だったのは、小山田と新見でしょう。事故の被害者の夫と愛人でありながら、なんとか彼女の行方を探さなくてはとする二人。
彼らの行動と、棟居たちとの探索が描かれるからこその小説だと思いました。