くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「抒情の奇妙な冒険」笹公人

2010-02-01 05:44:19 | 詩歌
タイプミスじゃないですよー。笹公人の第三歌集「抒情の奇妙な冒険」です。やるなあ早川書房!
四十代の男性に仮託して(単行本発売時、笹氏は32歳)当時の世相をコミカルに歌いあげた短歌集です。
コミカルだからと侮るなかれ。ものすごく「画」が見える歌が、背後に物語をもって佇んでおりますぞ。
「ユリ・ゲラーのサイン付きたるスプーンは抽斗の闇に曲がり続ける」
「あしひきの山下清におにぎりを持たせたという曾祖母トメは」
「なめ猫の免許証の猫と目が合えば免許持たぬを責めらるるごとし」
「六本木の黒人の喧嘩止めにゆく 魔太郎風の薔薇のシャツ着て」

わたしはこの本が意図した世代と笹氏のちょうど真ん中の年なものですから、いろいろと感じるものがありました。流行には疎いのですが、そうそう、あったあった、と膝を叩きたくなるような小道具が詠み込まれておもしろい。

「霊写真片手に笑めるつのだ氏の着物の紺の涼しかりけり」
「ファミコンとたけし城からサバイバルを学びし子らの真っ白な靴」
「ゴダイゴが復活するたび思い出す武川という美少女のこと」

世相を詠むのは、実は難しいと思うのですよ。未来のどの時点までなら有効かという気もするし。
実際、「風雲たけし城」のことなんて、この歌集を読むまで忘れ果てていました。
様々なSF作品へのオマージュも収録されています。「ボッコちゃん」「火の鳥」「時をかける少女」「戦国自衛隊」などなど。
巻末の解説はなんと! 栗木京子だよ~。
笹氏は短歌の作り方を紹介した「笹公人の念力短歌トレーニング」(扶桑社)も、すっごいおもしろいです。
この本もやはり、桜庭一樹が鳥取に帰ると寄るというあの本屋に並んでいるのでしょうか。