くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ちょんまげぷりん」荒木源

2010-02-08 05:16:22 | 文芸・エンターテイメント
むー、タイトルとしては原題の「ふしぎの国の安兵衛」の方がいいように思うのですが。
でもおもしろいです。コミカルで。映画化とのことですが、イメージが浮かびやすいので、いいのではないでしょうか。
荒木源「ちょんまげぷりん」(小学館文庫)です。本屋で面陳していて、ふと手に取ったのですが、なんと登場人物が知人と同じ名前だったので、思わず買ってしまいました。
SEとして働くひろ子はシングルマザー。息子の友也を保育所にあずけていますが、6時には迎えにいかなくてはならず余裕がありません。
その日もいつものように友也と帰ってきたのですが、マンションのエントランスに不思議な男が倒れていて。
木島安兵衛と名乗ったその男、どうも江戸時代からタイムスリップしてきたらしい。
安兵衛とひろ子たちの奇妙な同居生活が始まります。江戸にはない文化を目にして戸惑いながらも、居候の恩を返そうと家事を始めた安兵衛ですが、意外にも適性がありついにはお菓子研究家として有名になってしまうのです。
わたしがこの本でいちばんおもしろかったのは、有名人になった安兵衛が自分の「分」を忘れて人気に安寧としていることをひろ子に指摘されるところ。侍の自分を忘れようとしていたことに気づき、安兵衛もはっとしたのではないでしょうか。
異質な文化を背負って、百八十年未来の日本を見つめる安兵衛。これまでの考えを根底から覆されたに違いありません。将軍はいなくなり江戸は東京になり、あくせくと働いてエネルギーを失ったように生きる人々。異国からやってきたケーキ、プリン、動物園の象。
友也が安兵衛のプリンを食べたいと言う大詰めの場面が好きです。木島安兵衛も、おそらく友也との約束を果たしたかったのでしょう。時を越えて、二人の間に通うものが、そこにはあるのです。