生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

絶望の中から

2006-12-07 17:48:17 | 教会

今日、家庭集会クリスマス会でチソンさんの講演会ビデオを見ました。韓国でベストセラーになった「チソン、愛してるよ」(イチソン著 アスペクト出版)のチソンさんが来日講演されたときのビデオです。とても感動したので少しだけ紹介します。


チソンさんは大学4年生の時、交通事故にあい、車が炎上し大火傷を負いました。火傷の中でいちばん重い弟3度の火傷を体の55%に負ったのです。奇跡的に一命はとりとめたものの、激痛に苦しみ、親指以外の8本の指の先端を切断し、さらに顔の皮膚移植をしましたが、全く別人のようになってしまいました。
でも、その絶望の中から希望を見いだしていきました。ふつうだったら自殺してしまいたくなるような状況にありながら、神さまの愛と家族の愛に支えられて、変わり果ててしまった自分の姿を受け入れることができたのです。


チソンさんは目を輝かせて言いました。
「先のなくなった指を恥ずかしいとは思いません。だから隠したりしません。」「もとの顔にもどせると言われても、もどさなくていいと答えます。」
「本当に大切なものは目に見えるものではないからです」

希望がどれだけ人を力づけるか、どんな状態になっても失望しないで神さまの時を待つことの大切さを教えられました。


先端を失った指でキーボードを打って書き綴った証が「チソン、愛してるよ」という本です。「愛してるよ」というのは、神さまからの呼びかけです。

チソンさんが紹介した聖書の言葉は、わたしも好きな詩編40篇です。


私は切なる思いで主を待ち望んだ。
主は、わたしのほうに身を傾け、私の叫びをお聞きになり、
私を滅びの穴から、泥沼から、
引き上げて下さった。
そして私の足を巌の上に置き、
私の歩みを確かにされた。
主は、私の口に、新しい歌、
われらの神への賛美を授けられた。
多くのものは見、そして恐れ、主に信頼しよう

羊のヨハナン(その2)

2006-12-07 16:35:23 | 童話
ルシアは、前足をグーッとのばして背中を低くすると、やぶの中に入っていきました。 そのすがたを見ると、ヨハナンは、矢のようなはやさで坂道をかけおり、そのいきおいで、谷をかけ上がりました。
(あのやぶじゃあ、ぬけだせないだろう。ぬけだせたとしても、谷をのぼれないはずさ)

ヨハナンが丘をおりていくと、ベナヤさんが真っ青な顔をして近づいてきました。
「どこへいっていたんだ、ヨハナン。ルシアといっしょじゃなかったのか?」
ヨハナンは首を横にふりました。
「ルシアがいないんだ。いっしょにさがしておくれ」
ベナヤさんは、走り回ってルシアをさがしました。ヨハナンもうろうろしてさがしているふりをしました。

遠くで雷の音が聞こえました、黒い雲がどんどん広がってきます。ベナヤさんはピーッと口笛をふきました。
「もうすぐ雨がふってくる。おまえたち、この丘を下って来た道をもどるんだ。囲いの中に入っていなさい。ヨハナン、先頭をたのんだよ。わたしは、ルシアをさがしにいくから」

ベナヤさんは、走っていってしまいました。 ヨハナンたちが囲いの中に入ったとたんに、大粒の雨がふりだしました。ベナヤさんは、なかなか帰ってきません。ごろごろと雷の音も鳴りだしました。
ピカッ、ゴロゴロゴロ……。地面がゆれるほどの音とともに稲妻が丘の上で光りました。
(ベナヤさん、おそいなあ。ルシアがやぶの中で鳴けば、すぐ見つかると思ったのに……)

「ベナヤさん、だいじょうぶかな」
ヨハナンは心配でたまらなくなって、そばにいる羊のニコルにいいました。
「まだルシアをさがしているんだよ」
「ルシアなんか、ほおっておけばいいのに」
「ベナヤさんは、ルシアのことをとてもかわいがっていたじゃないか。見つけるまでもどってこないと思うよ」
「もし、ぼくがいなくなったら、ベナヤさんはさがさないだろうな」
ヨハナンが、ふてくされたようにいうと、
「そんなはずないよ。ベナヤさんは、君がいなくなったって、ぼくがいなくなったって、ひっしでさがすよ。ベナヤさんは、みんなのことをとってもかわいがっているもの」
と、ニコルが歯をむき出しました。

雨がやみ、あたりは夜のやみにつつまれました。ぴたぴたと、足音が近づいてきました。ベナヤさんです。
ベナヤさんは、ルシアを肩車するようにしてかついできました。
ルシアは、ベナヤさんのかたの上でぐったりしていました。白い毛のあちこちが血でにじんでいます。ベナヤさんのうでにも、いばらでひっかかれたような傷があり、そこから血が出ていました。
「ルシアはやぶの中でたおれていたんだ。だいぶ弱っているから家の中に連れていくよ」
ベナヤさんは、テントの家にルシアをかついだまま入っていきました。
ヨハナンのむねは、いたみました。大好きなベナヤさんにまでけがをさせてしまうなんて……。

次の日、日が高くのぼってもベナヤさんが来ないので、ヨハナンはニコルといっしょにテントをのぞいてみました。
ルシアは横になり、はあはあと苦しそうに息をしています。ベナヤさんは、ルシアのそばにひざまずいて祈っていました。
「ルシアは死んでしまうかもしれないよ」
ニコルがいいました。
(こんなことになるなんて思わなかった。ルシアが死んでしまったら、どうしよう……)
ベナヤさんの祖父のエルダじいさんがやってきて、ヨハナンたちに草を食べさせにいってくれました。ヨハナンは、草を食べる気にもなりません。家にもどると、何度もそっとテントをのぞいてみました。
ルシアは少しずつ良くなってきました。半月ほどして、やっとルシアは草を食べに出かけられるようになりました。

ヨハナンは、ルシアのそばにいけません。遠くからそっとながめていました。
「ルシアも歩けるようになったから、きょうは遠くまでいこう」
ベナヤさんがいいました。
「夜は囲いのないところで寝るから、仲間から決してはなれてはいけないよ」
近くに草の生えているところがなくなってしまったので、草地をもとめて何日もかけて出かけるのです。
             つづく

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