いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

まがったかわとフェラーリ

2007年06月13日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 また図書館で借りた本です。「まがったかわ」は吉田遠志さんが70歳を過ぎてから精力的に制作した、17冊にのぼるアフリカのどうぶつたちシリーズの1冊です。子供向きの絵本で多用される動物の擬人化やイベントの誇張、感傷的な記載がほとんどなく、大自然の営みが淡々と描かれており、解釈は読み手に委ねられています。

 このような絵本を描く人もいるんだ、という新鮮な驚きを覚えました。マンガ流のストーリー絵本に慣れてしまった子供には物足りないのかも知れませんが、私に絵本を描く能力があれば、きっとこんな絵本が描きたかったでしょう。吉田さんは長年アフリカに取材し、自然をよく観察して、その奥深さを知っていたからこそ、このようなシンプルな表現に行き着いたのだと思います。

 絵柄も乾いたアフリカの草原を思わせるものでリアリティがあり、どの動物も草原という広大な劇場の一役者として控え目に、しかも生き生きと描かれています。この絵は写真集やテレビとはまた違った意味で、アフリカの草原に向けられた小さいけれど精密な覗き窓です。日本から遠く離れた大地で、日々繰り返される動物たちの物語は、吉田さんの絵本によって余分な色付けなしに子供たちの目に入ります。子供に読ませる価値のある絵本と言えるでしょう。

 これはフェラーリ好きの極楽息子(大)が借りた本ですが、まだ難しくて読めなかったようです。フェラーリの記念モデルである「エンツォ・フェラーリ」のデザイナーであり、ピニンファリーナのチーフディレクターを務めた奥山清行さんの本。

 イタリア人気質を象徴するようなフェラーリですが、意外にも開放的な組織で、外国人を含む外部のデザイナーを抵抗なく受け入れることで魅力を保ち続けてきたという経緯には少し驚きました。日本で言うところの老舗ではなくて、アメリカの一流企業や大学のような新陳代謝の活発な企業が、旧態依然たるイタリアの身分社会や職人制度の上に花を開かせたのがフェラーリの実態であるようです。

 奥山さんによると、一般の人がデザイナーの仕事だと思っている造形についての作業は仕事全体の3分の1に過ぎず、その前段階の商品企画と、商品ができてからのデザインのアピールを入れて全部の仕事になるのだそうです。つまり、商品企画の段階から、顧客にどのようなメッセージを伝えるか、マーケティングだけではなくデザイナーの主張も取り入れなければ魅力的な商品にならず、また完成した商品の魅力をどのようにアピールするかもデザイナーの仕事であり、従ってコミュニケーション能力の低いデザイナーは仕事ができないということです。

 すると、イタリアに比べてデザイナーの仕事が評価されにくい日本には優秀なデザイナーがいないのではなく、デザイナーを活用するシステムが完備していない、またデザイナーもコミュニケーションに慣れていないと考えられます。近年まで日本車のデザインがやぼったいとか、保守的でつまらないと感じたのは、単にデザイナーの造形能力がないのではなく、どうも構造的な問題があったようです。

 あと、奥山さんはイタリアのデザイナーの水平、あるいは上下の競争が活力の元であり、日本のような階層的な命令系統はクリエイティブな仕事にそぐわない、とされているようですが、日本でも研究者や医師の世界では奥山さんが書かれているような下克上は珍しくありませんので、特に欧米と比べて効率が悪いとは言えません。自分の能力だけが頼りの世界では、例え上司であっても「できないヤツ」の言うことなんか聞いてたら仕事になりませんからね。
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