久しぶりに映画を見てきました。伏見のミリオン座です。2019年に伏見駅の北側に移転したのを知らずに、最初は御園座の方に行ってしまい少し焦りました。
直木賞作家、水上勉の随筆を原作とした「土を喰らう十二ヶ月」です。水上勉はお寺で修行した経験があり、お寺の典座さんから料理を学んでいます。畑や山野から取れる材料を、精進の精神で慈しんで頂く、今で言う「丁寧な暮らし」を毎日綴り、「美味しんぼ」の雁屋哲さんから「日本で唯一読む価値のある食の本」などと評価されています。
この映画が面白いのは、水上勉をモデルにした、丁寧な暮らしをする主人公を、沢田研二さんが演じていることです。他の配役なら、単に違和感がないだけで地味な映画で終わってしまったのかも知れないですが、彼の熟年になっても全身に漂う色気が、映画全体を華やいだ雰囲気にしていることは間違いありません。
沢田さんがこの役に全身全霊で打ち込んだのは間違いなくて、昭和前半の田舎家で畑仕事や採集、料理に時間と手間を掛け、それこそ朝起きてから夜寝るまで、天地に感謝を絶やすことなく生きている男の姿勢が、手抜きのない所作を通じてしっかり伝わってきます。「ジュリーが大根切ってる!」みたいな違和感は一切なく、演技がしっかりしているからこそ、スーパースターとしての色気が生きてくるものと思います。大した熱演です。
松たか子さんや火野正平さんもいい役をしているのですが、後半で少しだけ登場する檀ふみさんが、連想ゲーム時代のファンである私には嬉しいサプライズでした。「去年82歳の母をなくした」娘という設定は、実年齢にはちょっと合ってないと感じましたが、これはお父さん繋がりで起用されたな、と気付いた人が多いのじゃないでしょうか。
檀一雄は太宰治や坂口安吾などと同じ「無頼派」の作家と言われていて、丁寧な暮らしの水上勉とは生き方がまるで違うのですが、食事や料理への拘りは非常に強く、料理の本も出しています。親しいとまでは言えないですが、水上勉はこの7歳年上の小説家と交流があったらしく、「檀さんはあの小説の通りの人だなあ」と称したらしいです。「あの小説」というのは「火宅の人」ですね。交流があったとなれば、檀ふみさんは実際の水上勉に会ったことがあるのだと思います。映画に重厚さを加える、欠かせない脇役です。