アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ジーザス・サン

2009-11-27 18:04:59 | 
『ジーザス・サン』 デニス・ジョンソン   ☆☆☆☆★

 村上春樹編集の『バースデイ』に収録されていた短篇『ダンダン』を書いた作家、デニス・ジョンソンの短編集である。訳は柴田元幸。『ダンダン』のあの思い切りの良さと八方破れな感じが強烈だったので買ってみた。こういう場合他の作品をまとめて読んでみると印象が違う、ということもあるが、この人の場合はまったく一緒だった。まさにあの『ダンダン』の世界である。

 柴田元幸が訳者あとがきで、「初めて読んだ時に僕がまず感じたのも、これはカーヴァーをさらにとんがらせた感じだな、という思いだった」と書いているが、私もまったくその通りの感想を持った。この短篇集の作品に出てくる「俺」はどれも同じ人物のようだが、その「俺」にしてもまわりの人間たちにしても、ドラッグや犯罪まみれのメチャクチャな人生を投げやりに生きている連中ばかりだ。友だちやガールフレンドが簡単に死ぬ。車に乗れば家や納屋に突っ込む。語り手の「俺」にもモラルなどなく、女を覗きながら「レイプできるかも」なんて考えたりする。さすがに実際やりはしないが。

 誰かが死んだり怪我をしたりする話が多く、雰囲気は殺伐としているが、どこか開き直ったような脳天気なところがあって、鬱々とした小説ではない。やっぱりカーヴァーみたいな、オフビートなトラジコメディである。

 プロットは奔放で、起承転結がはっきりしたストーリーなど皆無である。展開が非常に即興的で、ごろごろと適当にエピソードを放り出したような構成になっている。それから終わり方が独特で、『ダンダン』もそうだったけれども、急に読者に話しかけるようなセンテンスが現れて終わるパターンが多い。かと思うと、なんてことない会話の途中でぶつっと終わったりする。

 文体も同じく、非常に感覚的だ。この人はジミ・ヘンドリクスに触発されて小説を書き始めたという変わった人らしいが、分かる気がする。磨きぬかれた表現というより、即興的で、ごつごつと荒い。そういう意味ではカーヴァーのように洗練された感じはなく、むしろブコウスキーに近い。しかしいきなり文脈を無視して出てくるようなセンテンスや大胆な比喩は面白く、インパクトがある。

 柴田元幸もあとがきでこの作家の「文章にみなぎる電位の高さ」「衝撃力」について触れている。そういう意味ではこの作家の文体はその見てくれに似合わず、かなり詩的と言っていいと思う。破れかぶれな感じのプロットも紙一重でバランスを保っているようなところがあり、実はセンスがいい。相当にユニークな作家だ。


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