アブソリュート・エゴ・レビュー

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アンド・ザ・グラス・ハンデッド・カイツ

2005-10-04 08:57:22 | 音楽
『アンド・ザ・グラス・ハンデッド・カイツ 』 MEW   ☆☆☆☆

 『フレンジャーズ』が良かったので、かなり待ち遠しかったMEWの新作である。最初は去年発売予定だったので、一体いつになるのかと気をもんだ。

 それにしても、このジャケットの趣味の悪さは何なのだろうか。ギャグなのか?Amazonから届いたパッケージを開けた時は配送ミスかと思った。どう見てもB級メタルバンドのジャケットである。ジャケ買いをする人は絶対いないだろう。

 しかしその内容はといえば、待った甲斐がありましたと言わなければならない。『フレンジャーズ』と比べるとギターの音がよりラウドに、ゴリゴリしたへヴィーな音になっていて、キーボードやピアノは入っているが『Am I Wry? No』なんかで印象的だった華麗なストリングスは姿を消している。従ってサウンドは『フレンジャーズ』よりへヴィーな印象があるが、MEW独特のヒラヒラと舞うような美旋律はますます磨きがかかっていて、ヨーナスの透明なアンジェリック・ヴォイスには何の変わりもない。
 本作品最大の特徴は、全体が一つながりの一曲であるかのような構成である。曲によってメロディも違えば雰囲気も違うのだが、曲と曲の間に切れ目がない。メドレーのようだ。しかも、もともとMEWの曲構成というのは定石破りで、どんどん変化してほとんど別の曲と化して終わるなんてのもあるので、こういう風につなげられるとますますどこからどこまでが一曲なのか分からなくなる。

 最初に『フレンジャーズ』を聴いた時はイエスみたいだと思ったが、プログレ的な要素は確かにあると思う。ただしそれはプログレ精神みたいなものであって、演奏は別に超絶テクでもないし、複雑なアレンジをするわけでもない。サウンド的にはマイブラとかグランジ系の影響もあるようだ。しかし曲想とか構成はプログレ的であって、何よりドラマティックな音楽性がそれを物語っている。テクニックは劣るかも知れないが、音楽的にはドリーム・シアターなんかよりはるかにプログレだと思うが、どうか。

 さらに言えば、難度の高い演奏をしないとかアレンジがシンプルというのは、むしろMEWが時代遅れなプログレを乗り越えている要素として評価したい。ややこしい演奏やら重厚長大な曲想に価値を見出したプログレというのは、ある部分ロックのクラシックへのコンプレックスから生じたようなところがある。複雑さと展開の豊富さが音楽性の豊穣さにつながるというのはクラシック音楽的な価値観であって、ロックは本来シンプリシティの中に価値を見出してきたのだ。だからプログレへの反動でパンクが興り、テクニック至上型のロックが廃れていったのは必然とも言える。

 さて、MEWの演奏というかアレンジは『フレンジャーズ』を聴くと良く分かるがなかなか特徴がある。曲調がころころ変わるとかいうことではなくて、例えばギターのリフというものをほとんど使わない。つまり一定のフレーズやメロディを繰り返すのではなく、同じ音やコード・ストロークでリズムを刻むパターンが多い。それだってリフだという人もいるかも知れないが、メタルやハードロックと聴き比べてみると明らかに違う。メロディではなくリズム主体の組み立てになっていて、幾何学的な感じがする。『フレンジャーズ』の『Comforting Sounds』の歌のバックを聴くとMEW独特のアレンジの組み立て方が良く分かる。ギターやピアノが刻む単音のタンタンタンタンという音、タタンタ、タタンタという音、などが重なってタペストリーを織り成すのだが、一つ一つの音は異常にシンプルだ。演奏とも言えないぐらいである。MEWはロックがノイズ・ミュージックであることが良く分かっている。

 (とはいえ、全曲一つながりという本作は重厚長大と言われても仕方がないかも知れないが……)

 本作ではラウドさこそ増しているが、そういうMEW独特のアレンジ手法も基本的には変わっていない。ただ『フレンジャーズ』よりへヴィー・ロック的なリフが散見されるようになり、明快で幾何学的な印象が後退して代わりに混沌とした感じが出てきた。プロデューサーの趣味かも知れない。個人的には『Am I Wry? No』のイントロみたいなシャープなギターの音が減って、ゴリゴリした音感になっているのがちょっと寂しかった。

 それにしても、この人達のメロディセンスは素晴らしいと思う。独特で耽美的だがキャッチーで、ポップで、しかも気品というか格調の高さまで感じるのはどうしたことだ。キーンなんかも良いメロディを書くが、あっちが甘いメロディだとしたらMEWはキラキラした美しいメロディだ。今回も『Chinaberry Tree』でヨーナスが歌い出した途端に「ああ、MEWのメロディだ」と思える。しっかり自分達の世界を持っている。

 かなり聴き応えのあるCDだが、端正な美しさに涙する『Chinaberry Tree』(短過ぎる!)、力強くスリリングな『Apocalypso』、MEWの美旋律が炸裂する『The Zookeeper's Boy』、本作品のハイライト『Louise Louisa』あたりがフェイバリット・チューンである。最後の『Louise Louisa』は7分以上ある最長の曲で、メランコリックな美しさをたたえた壮麗な曲である。

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