アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

悪霊の島

2016-02-17 22:22:06 | 
『悪霊の島(上・下)』 スティーヴン・キング   ☆☆

 文庫になっていたのでさっそく購入、読了した。うーむ、『シャイニング』の頃の怖いキングが復活しているとの謳い文句だったが、期待ハズレだった。キングはやはりもうダメなのだろうか。『アンダー・ザ・ドーム』『11/22/63』はなかなか良かったんだけどなあ。

 事故で大怪我をした50代のエドガーは妻と別れ、ある島に移り住んで絵を描き始める。するとどういうわけか、ちょっと不気味だけれども素晴らしい絵が続々と出来上がり、ためしに画商に見せるとたちまち大評判となる。ところがこれは昔から島に棲みついていた邪悪な存在パーシーのなせるわざで、パーシーは絵を媒介として災厄を撒き散らそうとしていた。それに気づいたエドガーと親友たちは、決死の覚悟でパーシー退治に挑むのだった…。

 アマゾンのカスタマーレビューを読むと、普通小説っぽい前半は退屈だがホラーになる後半はワクワクしてページを繰る手が止まらなくなる、という意見が多いようだが、私は逆だった。普通小説っぽい前半、つまりエドガーが重傷を負って家庭が崩壊し、辛いリハビリを経て絵を描き始め、だんだん画家として評判になっていくストーリーの方が面白かった。確かにちょっと都合の良い展開ではあるが、人間ドラマが厚くて引き込まれる。これはおそらく、キング自身が事故で重傷を負った経験が充分に活かされているためだろう。アマゾンのカスタマーレビューにも、少数ながら同意見の人がいるようだ。

 そして後半。お得意の、邪悪なるものとの戦いとなる。もともと私はこのキングの「邪悪なるものとの戦い」パターンは苦手なのだが、本書でもここから一気につまらなくなる。エドガーは友人のワイヤマンとジャックの助けを借りて、邪悪なパーシーが支配しているらしい島の南端に分け入っていくのだが、敵は何なのか、そこに何をしに行くのか、どうやったら敵を倒せるのか、そういう大事なことはよく分からないままとにかく行ってみる。これも例によって、「その時になれば分かるはずだ」方式である。エドガー一行が武器として持っていくのは銃、銀の銛、そしてスケッチブックと色鉛筆。エドガーには絵に描くとそれが現実になるという超能力があるため、スケッチブックと色鉛筆でパーシーに対抗する。ジャックが猛烈な悪寒に襲われたりした時、エドガーが色鉛筆でにっこり爽やかな顔をしたジャックの絵を描くと気分が回復したりする。

 島の南端に行ったエドガー達は色々な発見をし、パーシーの正体について議論をするが、これもまた「なぜかは説明できないがそれが真実であることが私には分かった…」式のインスピレーションで全部説明される。途中で多少、腹話術の人形から教えてもらったりもする。

 結果的に私は全然怖くなく、従って後半はまったく面白くなかったが、怖かったという人も大勢いるようなので私の感性の問題かも知れない。訳者も後半はジェットコースター式に盛り上がるとあとがきに書いている。私はまったく賛同できないが、前半はまあまあ面白かったので、『リーシーの物語』よりはましだと思う。しかしやはり、他人に薦めることはできない。哀切なラストと漂う喪失感は悪くなかった。



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