『out of noise』 坂本龍一 ☆☆☆☆
今年の3月に発売された坂本龍一の最新ソロ・アルバム。前作の『CHASM』は2004年だから5年ぶりだけれども、ぱっと聴いただけで『CHASM』とはかなり違う作品になっている。『CHASM』はラップが入ったポップな『undercooled』とか、デヴィッド・シルヴィアンのヴォーカルをフィーチャーした曲、メロディアスなピアノ曲、ノイズ曲など色んなタイプの作品を取り揃えたバラエティ豊かな作品集だった(ただ全体の雰囲気には統一感があった)が、本作はほぼ完全な、純然たるアンビエント・ミュージック集である。ラップや歌は一切なし、リズムトラックもなし。メロディ不在の音響作品か、またはメロディがあっても断片的で、一つのメロディがひたすらループする手法で統一されている。
ただひとつの例外は最後から二曲目の『to stanford』で、これは『energy flow』タイプのとてもメロディアスなピアノ曲だ。この印象的な構成が意図的でないわけがない。10曲のストイックでアブストラクトな、メロディの展開というものがないアンビエント曲のあとに現れることによって、美メロとその展開がくっきりと立ち上がり、また逆にアンビエント曲の抽象性も鮮烈になるという効果がもたらされている。
非常にストイックで、静謐な作品集だ。まるで広々とした白い壁の展示室に並べられたクールなオブジェかインスタレーションでも見ているようなすがすがしさと、心地よいキビシサが漂っている。個人的には前作の『CHASM』が今ひとつだったので、本作の方が気に入った。『CHASM』はあれこれ取り揃えてみた感じがするわりに全体にけだるく、意気消沈したようなところがあったし、反戦メッセージが色濃く出ていたのもあまり好きになれなかった。それに比べて本作はふっきれたように潔く、イデオロギー色も感じられず、より音に集中している。アルバム全体を通してピンと張りつめた緊張感がある。
アンビエントと言っても『tama』や『firewater』『ice』『glacier』のように完全にメロディ不在の音響作品と、『hibari』や『hwit』のようにメロディアスなフレーズのループで構成されているものがある。『hibari』はきれいなワンフレーズのピアノのメロディが、左右でちょっとずつずれながら重なっていくという趣向の曲である。音の絵画、それも抽象画のようなものと思えば分かりやすいかも知れない。使われている音は電子的なノイズから弦楽器みたいな音、ギターの音、水の音のような日常的な音などだが、全体のキーとなっているのはやはりピアノの音である。いずれにしても音の塗り方が簡潔で、無駄がそぎ落とされ、坂本龍一らしいメランコリックかつロマンティックな内省性が特徴となっている。
それにしても『firewater』はすごい迫力だな。本当に目の前を火の川が流れているような戦慄を覚える。
というわけで、美しい結晶体を並べたようなとても上質なアンビエント音楽集だと思うが、個人的にはリズム・トラックのある曲も聴きたかったので、その点だけ残念だった。
今年の3月に発売された坂本龍一の最新ソロ・アルバム。前作の『CHASM』は2004年だから5年ぶりだけれども、ぱっと聴いただけで『CHASM』とはかなり違う作品になっている。『CHASM』はラップが入ったポップな『undercooled』とか、デヴィッド・シルヴィアンのヴォーカルをフィーチャーした曲、メロディアスなピアノ曲、ノイズ曲など色んなタイプの作品を取り揃えたバラエティ豊かな作品集だった(ただ全体の雰囲気には統一感があった)が、本作はほぼ完全な、純然たるアンビエント・ミュージック集である。ラップや歌は一切なし、リズムトラックもなし。メロディ不在の音響作品か、またはメロディがあっても断片的で、一つのメロディがひたすらループする手法で統一されている。
ただひとつの例外は最後から二曲目の『to stanford』で、これは『energy flow』タイプのとてもメロディアスなピアノ曲だ。この印象的な構成が意図的でないわけがない。10曲のストイックでアブストラクトな、メロディの展開というものがないアンビエント曲のあとに現れることによって、美メロとその展開がくっきりと立ち上がり、また逆にアンビエント曲の抽象性も鮮烈になるという効果がもたらされている。
非常にストイックで、静謐な作品集だ。まるで広々とした白い壁の展示室に並べられたクールなオブジェかインスタレーションでも見ているようなすがすがしさと、心地よいキビシサが漂っている。個人的には前作の『CHASM』が今ひとつだったので、本作の方が気に入った。『CHASM』はあれこれ取り揃えてみた感じがするわりに全体にけだるく、意気消沈したようなところがあったし、反戦メッセージが色濃く出ていたのもあまり好きになれなかった。それに比べて本作はふっきれたように潔く、イデオロギー色も感じられず、より音に集中している。アルバム全体を通してピンと張りつめた緊張感がある。
アンビエントと言っても『tama』や『firewater』『ice』『glacier』のように完全にメロディ不在の音響作品と、『hibari』や『hwit』のようにメロディアスなフレーズのループで構成されているものがある。『hibari』はきれいなワンフレーズのピアノのメロディが、左右でちょっとずつずれながら重なっていくという趣向の曲である。音の絵画、それも抽象画のようなものと思えば分かりやすいかも知れない。使われている音は電子的なノイズから弦楽器みたいな音、ギターの音、水の音のような日常的な音などだが、全体のキーとなっているのはやはりピアノの音である。いずれにしても音の塗り方が簡潔で、無駄がそぎ落とされ、坂本龍一らしいメランコリックかつロマンティックな内省性が特徴となっている。
それにしても『firewater』はすごい迫力だな。本当に目の前を火の川が流れているような戦慄を覚える。
というわけで、美しい結晶体を並べたようなとても上質なアンビエント音楽集だと思うが、個人的にはリズム・トラックのある曲も聴きたかったので、その点だけ残念だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます