アブソリュート・エゴ・レビュー

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クライマーズ・ハイ

2009-03-10 19:46:41 | 映画
『クライマーズ・ハイ』 原田眞人監督   ☆☆☆★

 レンタルDVDで鑑賞。横山秀夫の原作は既読で、なかなか面白かったが細かい部分はすでに忘れている。

 冒頭いきなり時系列が飛んだりまた戻ったりして、場面の意味がつかみづらく、物語に入り込むまで時間がかかる。飛行機事故が起きてメインプロットが転がり出すが、新聞社の描写がどうも表面だけなぞっているような感じで、やはり今ひとつ入り込みづらい。ドキュメンタリー風の臨場感を狙っているようで、手ぶれ映像にしたり、断片的な会話や社員たちの表情、身振りを長々とつなげたりするが、雰囲気重視で説明がないので、結局オーディエンスは蚊帳の外という感じを受ける。原作未読のオーディエンスは「大久保連赤」とか突然言われて何のことか分かっただろうか。

 そういうわけで序盤では失敗したかなと思ったけれども、だんだん持ち直して観終わった時は結構満足していた。基本的に役者の演技が良い。みんながギリギリの状態で突っ走っていく話なので、役者さん達は大熱演だ。特にいいなと思ったのは主演の堤真一、それから堺雅人、山崎努、遠藤憲一、螢雪次朗である。特に堺雅人はポイントが高い。昔は妙にニヤニヤしていて気持ち悪い人だなと思ったものだが、いい役者さんになったなあ。

 これは1985年に実際に起きた日航123便墜落事故を題材にした映画だが、墜落事故そのものより、それを報道する新聞社内の軋轢が主に描かれていく。横山秀夫十八番の「組織人のストレス」、やはりこれである。だから編集局は取材する若手達の興奮、昔の栄光で生きている年寄りたちの嫉妬とメンツに引き裂かれ、オーディエンスは彼らがぶつかり合い罵り合う様、みみっちい妨害や誹謗中傷、そしてまた編集局と販売部、広告部がぶつかり合い罵り合う様をいやというほど見せつけられる。役者たちの演技合戦は見ごたえあるが、基本的に醜い喧嘩ばかりなので、こういうのが苦手な人は引いてしまうかも知れない。

 それにしても、こんなに喧嘩ばっかりでみんなが「バカかお前は」「お前にお前呼ばわりされる覚えはない」「土下座しろ」などと上司部下無関係に怒鳴りあっている職場が本当にあるのだろうか。新聞社って本当にあんな感じなのか。仕事イコール罵詈雑言の応酬である。たまったもんじゃない。

 特に強烈なのは主人公であり飛行機事故の「全権」を任された悠木(堤真一)と、その上司である等々力部長(遠藤憲一)のぶつかり合いである。会社で怒鳴りあい、料亭でまたつかみ合い寸前の大喧嘩。そもそも遠藤憲一は顔がコワい。この人は是枝監督の『DISTANCE』に出ていてあれも違う意味でコワかった(いきなり宮沢賢治の朗読を始めたりする)。しかし怒鳴りながらも最後はどこか冷静な堤真一はなかなか頼もしくて良い。それからガメラ・シリーズではコミカルで情けない役が多い螢雪次朗が、うって変わって厚顔かつ嫌味な上司を演じていて、これもいい味を出している。

 という風に役者の芝居は見ごたえある反面、脚本や構成はどうもピンと来ない。前に書いたように原作を読んでいないと意味不明、もしくは意味不明瞭な部分が多いし、時系列がミックスされているのがかえってテンポを悪くしている気がする。事故直後の話と現在の話が交互に切り替わりながら進むが、現在の話つまり山登りの意味が良く分からず、しかも妙に気持ち悪いところで割り込んでくる。それから高嶋政宏のケガのエピソードも物語から浮いていて、結局どうなったのか分からない。彼は目を覚ましたのだろうか? 最後は悠木がニュージーランドに息子に会いに行くところで終わるが、息子と何がどうなっているのかも良く分からない。ついでに言うと手ぶれカメラもとってつけたようで映画になじんでいない。

 それにしても「現在」の堤真一は60ぐらいの老人のはずだが、どう見てもそんな歳には見えない。事故当時のルックスにちょっと白髪がまじったぐらいだ。最近は60といっても若いがあれはないだろう。そのせいで私は余計時系列が混乱してしまった。


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