アブソリュート・エゴ・レビュー

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波の塔(映画)

2014-02-07 22:29:59 | 映画
『波の塔』 中村登監督   ☆☆

 松本清張原作映画。これも『悪の奔流』と一緒にDVDを購入した。先に原作を読んでいたので、映画はどんな感じになってるんだろうと興味を惹かれたのである。キャストはヒロインの人妻に有馬稲子、若き検事に津川雅彦と、なかなか(私にとっては)意外性のあるキャスティング。後には色悪的イメージが強くなる津川雅彦だが、まだ若いこの頃は清潔感のある検事もなかなか似合っている。

 さて、やはりというか予想通りというか、あの原作から松本清張独特の的確な心理描写を差し引いたら、どこから見ても見間違えようのない堂々たるメロドラマになった。典型的と言っていいだろう。翳りがある美人で、和服が良く似合う有馬稲子。りりしい二枚目顔で苦悩する津川雅彦。人目をしのんで会い、情熱的に抱き合う二人。一方、ヒロインと夫はメチャメチャよそよそしい間柄である。

 映像は決して安っぽくはない。その点、『黒の奔流』とは違う。B級感が臭ってくるということはなく、手堅い作りのドラマだ。美術もしっかりしている。ただ手法や感性が、昔のメロドラマ丸出しなのである。こういうのが好きな人には結構アピールするかも知れないが、個人的には、もっと抑制を効かせて渋いドラマに仕上げて欲しかった。そうすれば佳作になったかも知れない。松本清張のストーリーは決して悪くないからだ。やはり問題なのは、悲愴感ばかりを強調したパターン化された主演二人のやり取り、そしてあのラストである。昼メロ以外の何物でもない。

 特にまずいのはエンディング。要するに有馬稲子が富士山麓の樹海に入っていく結末なのだが、着物のまま樹海に入って行く有馬稲子を正面から堂々と映し、悲壮な音楽で「ここで泣け!」とばかりに盛り上げる。いやー、あまりにもこっぱずかしい演出だ。せめて原作通り、お百姓さんたちの会話を通して(有馬稲子の行動を)仄めかすという婉曲話法で表現して欲しかった。ラストでああやって突き放したからこそ、原作では昼メロ丸出し感が緩和されていたというのに。

 他に印象に残った点としては、ほんのちょっとしか登場しなかったが西村晃のしたたかな弁護士役がやはり良かった。一筋縄では行かない海千山千の感じがよく出ていた。しかし有馬稲子は美人だけれども、顔に独特の暗さがあるな。



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