アブソリュート・エゴ・レビュー

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黒の奔流

2014-01-20 18:21:49 | 映画
『黒の奔流』  渡辺祐介監督   ☆☆

 家の近所の日系DVD屋さんで安く入手した。原作・松本清張、キャストは山崎努、岡田茉莉子、松村達雄、佐藤慶、中村伸郎その他。これだけ見ると渋い佳作になっておかしくない顔ぶれだが、実のところかなり残念な出来である。

まず音楽が演歌のカラオケみたいで安っぽく、かつ、効果音みたいに決まりきった使い方ばかりなので白けてしまう。ケバケバしい照明や、モノローグで状況を説明する手法も古臭いし、まっかっかの派手な血糊も興ざめ。全体に避けがたくB級感が漂っている。

 ストーリーはまあTVの2時間もののサスペンス・ドラマを想像をしてもらえば良いが、前半がちょっとした法廷劇、後半が男女の愛憎劇という構成になっている。法廷劇の方は殺人の被告が岡田茉莉子、弁護士が山崎努、検事が佐藤慶。愛憎劇の方は山崎努と、彼が無実にしてやった岡田茉莉子。岡田茉莉子は山崎努の弁護士事務所で働き始めるが、この二人の関係がどろどろになっていく。山崎努は岡田茉莉子と肉体関係になっておいて、お約束通り先輩弁護士(松村達雄)のご令嬢(松坂慶子)と婚約するのである。思いつめた岡田茉莉子は取っておきの大技で巻き返しに出るが、この岡田茉莉子の駆け引き材料が、まあ予想通りとは言えなかなか興味深い。現実って、いくら精緻に理論を立てても説明し尽くせないものだなあ、と感慨を覚える。

 しかしそんな呑気なことを言っていられない山崎努、一発逆転を狙って大勝負に出る。あとはご想像の通りである。

 映画としてはどうってことない出来だが、見所があるとすればそれは山崎努である。この頃の山崎努は男としてまた役者として、実にセクシーだ。ギラギラしていて、荒々しさ、エリートの品格、そして人間味が絶妙にミックスされ、男の色気がぷんぷん匂う。超かっこいい。そのかっこよさは今時の若手イケメン俳優やジャニーズ系みたいな観賞用のきれいさではなく、まさに人間としての魅力であり、強烈な存在感である。何より非常にエネルギッシュ、しかし単なる猪突猛進型でもなく、複雑な陰影がある。こういう味が出せる役者は、今ほとんどいないんじゃないだろうか。

 というわけで、山崎努の魅力で☆一個プラス。岡田茉莉子も悪くないが、年齢のせいか有閑マダムっぽさが滲み出てきていて、もう一人のしたたかな愛人役の方が合っていたんじゃないかと思う。私見を言わせてもらえば、貝塚藤江という松本清張ならではの「寂しい女」のキャラクターには、もっと寄るべなくはかなげな女の風情が欲しかった。



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