アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

特捜最前線 BEST SELECTION BOX Vol.1 (その2)

2008-06-01 19:33:52 | テレビ番組
(昨日の続き)

 藤岡弘演じる桜井刑事が主演の『サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!』も面白い。変則的な法廷ものと言っていいだろう。強盗が人質をとって篭城する銀行に桜井刑事が入っていき、犯人を射殺する。しかしその時、犯人は銃を肩に担いでいて危険はなかったはずだ。射殺する必要があったのか? 警察は非難され、桜井は審問会にかけられる。証人として呼ばれた銀行員たちは、口を揃えて「犯人に危険はなかった」と証言する。桜井は黙して語らない。その時、本当は何が起きていたのか? 桜井を信じる特命課一同は緻密な調査を重ね、密室で起きた事件を検証していく。

 非常にシンプルな状況であるが故に面白い。人質達が見ているんだからミステリにならないだろうと思うかも知れないが、それぞれ床に伏せていたり壁に向いていたりして、状況全体を見ていた人間がいないのである。特命課が証人の話をひとつひとつひっくり返していくあたり、法廷ミステリ的興奮が味わえる。そして明らかになる真相はまあ大体予想がつくけれども、濃い顔の桜井刑事がカッコ良過ぎる。惚れてしまいそうだ。ちなみに女子行員のサービスカット付き。この『特捜最前線』、放映が10時台だったこともあって『太陽にほえろ!』などではありえない裸なんかも出てくる。あの女子行員はなぜノーブラなのかなどと突っ込んではいけない。

 そしておそらく、このVol.1最大の目玉が『殉職Ⅰ・津上刑事よ永遠に!』『殉職Ⅱ・帰らざる笑顔!』だろう。タイトル通り、荒木しげる演じる津上刑事の殉職篇である。このドラマは『太陽にほえろ!』などと違い、殉職をやらないポリシーで制作されていたらしい。だからメンバー交代は転勤や退職だったが、「もう津上が戻ってこないようにあえて殉職したい」という荒木しげる氏のたっての希望により、初めて殉職が描かれることになった。ライターは長坂秀佳だが、インタビューを読むと「(『太陽にほえろ!』ジーパン殉職の)『なんじゃこりゃー!』みたいなのは嫌だった」ということで、自らの使命の中で死を選ぶというきわめて劇的な殉職となった。また事件のスケールが異常にでかい。たった1gで2万人を殺すというボツリヌス菌のテロ予告ときたもんだ。津上刑事はバンドのドラマーとなって潜入捜査をし(BGMに使われるドラムは実際に荒木しげる氏が叩いているらしい)、例によって純粋まっすぐな熱血漢ぶりを発揮する。今回のヒロインは『続・男はつらいよ』マドンナの佐藤オリエだが、彼女を疑う特命課の面々に「彼女はいい人です!」と主張する。

 余談だがこの『特捜最前線』、特命課のメンバー同士で対立することが多い。特に熱血漢の津上刑事、最年少のくせに神代課長(二谷英明)を怒鳴り上げることもたびたびで、このエピソードの中では「人の不幸まで道具に使う、それが刑事なんですか!」と非難するし、『愛・弾丸・哀』では犯人を射殺した桜井を「人殺し」呼ばわり。Vol.2に収録されている『凶弾』ではなんと娘を殺された課長に向かって「あんたが殺したんだ!」と究極の暴言を浴びせている。ファミリー的な『太陽にほえろ!』では考えられない(スコッチを除く)。

 さて、この『殉職Ⅰ』でも津上刑事と、犯人逮捕のためには手段を選ばない冷徹な神代課長の対立が念入りに描かれ、これがまた素晴らしい伏線になっているのだが、ついにボツリヌス菌の予告テロ現場、タイムリミット直前、津上はボツリヌス菌の所在を突き止める。風船の中だ! まわりには大勢の子供たちがいる。犯人グループを逮捕する特命課メンバー達。津上はボツリヌス菌入りの風船を車に入れ、自らそれに乗って疾駆する。それを追いながら叫ぶ特命課の刑事たち。「津上、車を捨てろ、車を捨てろ!」タイム・リミット、風船は次々に割れ始める。妹からもらったお守りを握り締める津上。あのクールな神代課長が津上と並走する車の中から必死に叫ぶ。「津上、車を捨てろ! お前の命の方が大事なんだ!」

 怒涛のような盛り上がりとはこのことだ。ここで前篇終わり。殉職シーンが最後ではない、というのがまたポイントである。これによって後半、津上が爆死した後、それぞれの刑事の心情をじっくり描くことが可能になった。特に神代課長の悲しみが痛々しい。「兄を返して!」の妹の叫びに、彼は立ち尽くすばかりだ。それからそれぞれの刑事が津上刑事の生前の言葉からヒントを得て主犯を追い詰めていく構成もニクい。

 『特捜最前線』については、地味ながらリアリティのある人間ドラマ、みたいな言われ方をすることが多いが、私の感想はちょっと違った。たしかに刑事達には特にイケメンでもなく「はみだし刑事」でもない、地味なゆえのリアリティがあるが、物語の展開はトリッキーなものも多い。『サラ金ジャック』『乙種蹄状指紋の謎!』『掌紋300202!』『橘警部逃亡!』などみんなそうだし、津上の殉職篇など最たるものだ。Vol.2を観ても『復讐Ⅰ・悪魔がくれたバリコン爆弾!』など、特撮番組かと思うぐらい突拍子もない展開をするものがある。こういうのは大体長坂秀佳が書いているようだが、特撮系の遺伝子がどこかに引き継がれているような気がする。まあこれはセレクションなので、そういう派手なエピソードが特に選ばれたということなのかも知れないが。もちろん一方では、『哀・弾丸・愛 7人の刑事たち』のような重厚でしみじみする人間ドラマにもこと欠かない。非常にバラエティ豊かな刑事ドラマだ。


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