アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

The Truman Show

2008-09-01 13:24:57 | 映画
『The Truman Show』 Peter Weir監督   ☆☆☆☆

 ヴァージンで安売りしていたDVDを買ってきて鑑賞。どことなくチープさはあるが結構好きな映画である。ジム・キャリー演じるトゥルーマンはある海沿いの町で保険会社に勤めるごく普通のサラリーマン、と思っているのは自分だけで実はテレビのリアリティ・ショーの主人公なのだった。テレビ局が作り上げた偽物の町に住み、偽物の家庭を持ち、偽物の会社に勤めている。周りの人間はみんな俳優かエキストラで、彼の人生は全部台本通り。知らないのは本人だけ。人生そのものがドッキリカメラ。あり得ない。

 という途方もない設定は、まずはコメディとして活きる。リアリティ・ショーということでトゥルーマンの生活のあちこちに(とても不自然に)商品広告が挿入される。青空から照明器具が落ちてくる。旅行代理店にはハイジャックとか墜落の危険をアピールするポスターばかり貼られている(これはもちろん、トゥルーマンに旅行して欲しくないからである)。

 しかしやがて、話はだんだんとシリアスな展開を見せ始める。トゥルーマンはまわりの世界に疑念を抱き、逃亡を図ろうとする。この「自分が世界の中心人物なのではないか」というパラノイアックな世界観、「偽の現実」テーマはフィリップ・K・ディック的で面白い。一方で、偽物の家族、結婚、思い出に埋もれて生きるトゥルーマンが記憶する唯一本物の(=番組が意図しなかった)恋愛の相手へのひたむきな思いは、私達の心を打つ。そして終盤は、SFコメディ的な前半からは思いもよらないような感動的な展開となる。

 トゥルーマンはもともと冒険家に憧れていて、それは映画の最初のシーンから効果的に呈示されるが、この「バスルームの鏡の前で小芝居をするトゥルーマン」というルーチンは映画の中で何度も繰り返され、ギャグとしてだけでなく結末への重要な伏線になっている。この小芝居の中で、トゥルーマンはいつも冒険家だ。登山家や宇宙飛行士。彼はまだ見ぬ世界を発見することに憧れている。小さな町のセットの中だけで暮らし、実社会に出たことはなく、視聴者から一挙手一投足を監視され、徹底的に騙され、海が怖くて船に乗ることもできないトゥルーマンがである。なんと滑稽なことだろうか。私達はトゥルーマンに同情し、憐れみ、そして笑う。しかし終盤に至り、独力で世界の果てにたどり着いたトゥルーマンを見て、私達はトゥルーマンが実は(おそらくは私達の誰よりも)勇気に溢れた冒険者であることを知るのである。確かに、彼がたどり着いたのはドームの端っこに過ぎない。しかし彼にとってそれは世界の果てである。彼が震える手をゆっくり伸ばし、ドームの壁に触れるシーンはとても感動的だ。彼の夢はかなった。彼はまだ見ぬ世界を発見したのである。世界をまたにかけたり、世界を破滅から救うだけが冒険じゃない。檻の中から脱出し、自分の力で世界を発見したトゥルーマンの物語は、冒険というものの本質を私達に教えてくれる。

 全体に風刺色が強く、図式的な人物配置や誇張された演技などで底の浅い感じがする部分もあるが、にもかかわらず私はこの映画を観るたびに不思議な感動に襲われるのである。


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