崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

「死んではいけない」

2008年08月27日 05時51分40秒 | エッセイ
 高齢者の自殺を扱った研究発表を聞いて、行政者が自殺予防のために「死んではいけない」という言葉をかけているということが気になった。ただ行政者やヘルパーたちは空念仏のように言っているようである。つまり死を個人で処理しようとすることは個人の自由であると考えるかもしれない。そして「死んではいけない」というのは空虚な言葉のように聞こえるかもしれない。しかしそのことばには重要な生命倫理を含む価値観が入っている言葉である。自分の意思で生まれたわけではないように「命」は個人が処理すべきものではない。儒教では命は父母の分身であり、先祖代々が次ぐ血統の紐であり、切ることができないという。キリスト教では命は他者(神様)のものであり、個人のものではない。そしてキリスト教社会では自殺は他殺以上に社会的な問題性のあるものであるとしている。それよりも普遍的な面から言うと自殺行為は人間の命を軽く扱う風潮を作ることになるという意味で犯罪的行為であるということである。「死んではいけない」と言う人たちはこのような重要な生命倫理の意味を十分知って語ってほしい。