人工知能の核心というのは一寸大袈裟な題にも思えるが、実際に核心を突いているのかもしれない。著者は羽生善治 NHKスペシャル取材班となっている。羽生さんが核心を書いて章末にNHKの中井暁彦さんがトピックの解説と補足を書いたとある。
内容とは少し離れるが、一読して本当に羽生さんが書いたの?と思ってしまった。というのは、羽生さんは前人未踏の高みに上り詰めた将棋の天才なのだが、何度かテレビで話されるのを見聞きした感じでは天才にありがちな深いが守備範囲は狭く人間にはあまり興味がない方の印象があった。ところが、この本では常識があり世の中のことを随分かっておられる感じがしたからだ。
将棋の天才羽生さんは人工知能に興味を持ち造詣も深い。将棋ソフトを通して得た経験と人工知能開発者の取材を交えながら、人工知能の特徴に迫り解説している。
人工知能に対比して人間の知能の特徴も解説されている。将棋を例に挙げて説明されているのだが、人間は直感と大局観に優れ、不要な道筋を省くことによって問題点を絞って効率よく良い手を指せるのに対し、コンピュータは人間とは桁違いの計算力でしらみつぶしに組み合わせを考えて差し手を見つけてきた。この方式ではコンピュータは中々人間に勝てなかったのだが、ディープラーニングという人間の脳のネットワークを真似た方式で大量データを学習するプログラムを取り入れてから急に強くなり今では人間を負かすようになった。
人間の直感や大局観は美意識と関係している。そして美意識は人間の持つ恐怖と関係があるのではないかというのが、羽生さんの指摘である。これはさすが天才、当っているのではと頷きながら読んだ。
天才棋士を負かすほど強くなった人工知能だが、以外に簡単なこと、例えば見知らぬ人の家に入ってコーヒーを淹れるといったことが出来ない。また心や感情を持って居らず、恐怖心もない。今のところ応用力が不充分で汎用性に乏しく指定されたことしか出来ない。感情については感情を持たせるような研究はされているが、上手くいっていない。それに人工知能に感情を持たせて良いものかは微妙な問題で止めた方がいという考えもあるようだ。
羽生さんは人間の脳のニューラルネットワークを真似たディープラーニングの思考過程が不明で、その結論に違和感を感じると言われる。人間が人工知能からどう学びその結論をどう評価すれば良いのか、人工頭脳に頼りすぎて自分で考え経験しなくなるのは拙いのではないかなど問題点を挙げながら、人工頭脳を恐れず侮らずきちんと向き合っておられる。この本からその姿勢も学ぶことができる。