駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

医者も罹る国民病

2010年06月19日 | 世の中
 正しい大規模臨床試験の見方という講演会を聞いて驚いた。
 高血圧の治療薬は現在大きく分けて六つあるのだが、その中のARBという種類が過去三年でホップステップジャンプと急速に伸び、現在売上高のトップに躍り出ている。大部分の医師は良い薬だから当然のことと思っているのだが、世界でこんな国は日本だけでアメリカヨーロッパでは他の薬が首位でARBは二位か三位だと冒頭に聞いて妙だなと思う。ところがその理由を聞いて驚いた。アメリカヨーロッパが遅れているわけではなく、ARBは競合するACEやCCBに比べて優れているという大規模臨床試験は数少なく、廉価なACEやCCBの方が優れているあるいは同等という大規模臨床試験は数多いので、わざわざ高価なARBにすぐ乗り換える必要もなかろうというのが彼等の対応なのだ。
 まあ、有り体に言えば日本は新薬で薬価も高く収益が大きいARBを巧みに宣伝する薬品メーカーの戦略に乗せられて、猫も杓子もごそっとARBに乗り換えた結果、ARBの売り上げがトップとなったのだ(錠剤数ではCCBの方がまだ多いのだが、単価が高いので売り上げではARBの方が上)。なんだ町医者は不勉強でけしからんと言わないで欲しい。高血圧、糖尿病、高脂血症の専門医がARBが良いと講演するのだから、それを聞いて参考にしている一般医がその気になるのは当然なのだ。講師は最後にスポンサー付きの勉強会は差し引いて聞かないと駄目ですとアドバイスして講演を終わられた。
 成る程と思いながら今日の講演会のスポンサーを確認するとこれがACEのメーカーなのである。なんだかなあー、この講演会も少し差し引くのかなと狐につままれた心境になる。
 しかしこの猫も杓子もそれっと短時間で豹変する現象、どっかで見たなあ、国民病ではないかと思った。勿論、病気の専門家のはずの医者も直ぐ感染してしまう。
コメント
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