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駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

薬ではなく

2010年01月27日 | 医療
 特効薬と呼ばれる一群の薬剤がある。それによって数多の病気を退治できるようになった。読んでくださる方には無縁だろうが、淋病梅毒に始まりインフルエンザまで。勿論、敵もさるもの引っ掻くもので、薬剤耐性を獲得してしぶとく生き残る病原体も多いのだが。
 まあしかし個体が元来健康であれば、なんとか退治できる事が多い。そうした薬物を手にして、町中で医業を営んでいると、薬物に負けないあるいはそれ以上の効力のある治療の存在に気付かされる。
 それは日本にちゃんとあるのに一言でそれを表す言葉がない「ケア」だ。心配り気遣い優しさ親身の観察親身の手助けといったものだ。ケアは目に見えにくいし即効性は少ない。しかし、確かに明らかな効力を持っている。ケアの力には寝たきりあるいは寝たきりに準じる病態の時に気が付かされることが多い。
 数多くの経験を積むとこの年齢でこの状態だと予後(病気の経過と結末)が予測できる。あと半年かななどと思いながら往診していると、二ヶ月くらいでみるみる悪くなり亡くなったり、年を越えて一年以上長らえられたりする。
 医療看護側の治療処置には変わりはないので、其処に家族や関わる人のケアが効いているのだ。それはそれこそ由緒来歴巡り合わせ全てのことが関係しているケアなので、良い悪いと医師が評価しづらいものだが、もう駄目だなと思う病態がそれこそグライダーが滑空するように柔らかく静かに天地の間に消えてゆくような症例は、診させて頂いた医者までも完了感というか定着感というか穏やかな気持ちが残る。そうした患者さん家族は一見何処にでも居られる普通の人達で、こうしたことがなければ取り立てて目立つところはないものだ。
コメント (2)
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