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三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

顕正会の終末論(1)

2023年11月19日 | 問題のある考え

知人の住むマンションに入ろうとしたら、新聞をたくさん持った男女3人が出るところで、私に新聞をくれました。
見ると「顕正新聞」でした。

顕正会は「日蓮大聖人に帰依しなければ日本は亡ぶ」、「早く国立戒壇を建立すべし」と説いています。
国立戒壇とは、日本が国家として建立する本門の戒壇です。

「顕正新聞」を読み、顕正会も終末を説いていることを知りました。
「顕正新聞」(令和5年6月5日号)「阿部日顕の臨終」特集号にある浅井昭衞さんのお話の中にこうあります。

もし日本の人々が、いつまでも日蓮大聖人の大恩徳を知らず、背き続けるならば、自身の成仏が叶わぬだけではない、日本が亡びる。

https://kenshoshimbun.com/issue/230605_depraved.html

「顕正新聞」(令和5年2月5日号)、一月度総幹部会での浅井昭衞さんの講演から引用します。

日本はいま戦後78年において最大の危機に直面しております。
そのゆえは、「悪の枢軸」といわれる共産主義・軍事独裁国家たる中国・ロシア・北朝鮮の三国に、この日本が包囲されてしまったからです。


出世本懐成就御書には次のようにある。

日本国の大疫病と、大飢渇と、どしうちと、他国より責めらるゝは総罰なり。


日蓮在世での「総罰」がいかに凄まじかったか。
正嘉2年・3年の大疫病と大飢饉では「死を招くの輩既に大半を超え」と『立正安国論』に書かれている。
そして、建治から弘安にかけての大疫病と飢渇はさらに激しかった。

「どしうち」とは、北条一門で内乱が起きたこと。
「他国より責めらるゝ」とは大蒙古による侵略。

なぜこのような総罰が起きたのか。

それは当時の日本国が、邪法の悪僧どもに唆されて、大慈大悲の御本仏日蓮大聖人を悪口罵言し、流罪に処し、ついには御頸を刎ね奉るという大逆罪を犯したゆえに、諸天がこの国を罰したのであります。


いま、再び「総罰」が現れつつあるを感じている。
「大疫病」は、コロナの大流行。
「大飢渇」は、地球温暖化に伴う異常気象で世界各地で大飢饉が起きている。
さらにロシア・ウクライナ戦争で食糧の輸出が停止された。
これまで食糧輸出国であった20数ヶ国が輸出制限にふみ切っている。
インフレと食糧危機がいま世界を覆いつつある。
「どしうち」とは、日本の中で内乱が起こること。
日本は親米派と親中派が激突して必ず争乱が起こる。
「他国より責めらるゝ」とは、日本は核兵器を保有し、かつ侵略的な中国・ロシア・北朝鮮の三国に包囲されている。

「王舎城事」には

今生に法華経の敵となりし人をば、梵天・帝釈・日月・四天罰し給いて、皆人に見懲りさせ給えと申しつけて候。

蒙古襲来の大罰は、大聖人様が諸天に申しつけてなさしめ給うた。

やがて中国をはじめとする三国の侵略が始まるとき、日本国の一切衆生は、国亡び命を失う恐怖から、始めて
「日蓮によりて日本国の有無はあるべし」
との大聖人様の絶大威徳と大慈大悲にめざめ、一同、頭を地につけ掌を合わせて
「助け給え、南無日蓮大聖人」「南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経」
と必ず唱えるに至る。

https://kenshoshimbun.com/issue/230205_crisis.html

「顕正新聞」(令和5年4月5日)、三月度総幹部会での浅井昭衞さんの講演からです。

日蓮大聖人を信じ奉るか、背くかによって、日本国の有無も、人類の存亡も決する――ということです。


台湾侵攻こそ第三次世界大戦の発火点である。
アメリカも中国との対決姿勢を一段と強める。
アメリカの尖兵的役割を担わされる日本を中国は憎み、血祭りに上げる。

これ日本が、御本仏日蓮大聖人に背き続けた罰であります。

https://kenshoshimbun.com/issue/230405_renewal.html

キリスト教が説く終末では、選ばれた人たちは天国へ生まれますから、信者にとって終末は希望です。
しかし顕正会は、日蓮に帰依しなければ日本が滅びると説きます。
顕正会の信者だけが救われるというわけではありません。

この終末論は日本中心史観というか、世界が目に入っていないように感じます。
日蓮にとって世界とは日本、朝鮮、中国ぐらいで、地球全体という視点はありません。
世界と無関係に日本が存在しているわけではないのですが。

それにしても、日本人全員が顕正会の信者になり、国立戒壇が建立されれば、中国は台湾を攻撃せず、北朝鮮は核兵器を廃棄、ロシアとウクライナは即時和平、地球温暖化は解消、飢餓はなくなる、新型コロナウイルスは消滅するというのでしょうか。


エビデンス

2023年08月05日 | 問題のある考え

音楽療法とは音楽を聴いたり演奏したりしたら症状が軽減されるとか、そういったものだと思ってましたが、佐藤正之『音楽療法はどれだけ有効か』によると全然違います。

エビデンスとは何か。
明白に証明された証拠で、他の人もあとで形跡を追えるものを意味する。
追試が可能、すなわち客観性と普遍性をもつ証拠。

ある研究がエビデンスとみなされるための最低条件は、専門家による査読を経た論文として国際誌に公表されること。
しかし、それでエビデンスとして確立したことにはならない。

ある研究によると、100件のシステマティック・レビューのうち、23件が2年以内に覆される。
システマティック・レビューとは、単なる過去の報告の羅列とは異なり、それぞれの報告の質的評価と統計解剖を行うもの。
現在行われている医療行為で、エビデンスが確立しているのは約20%にすぎない。

メロディック・イントネーション・セラピー(MIT)は失語症患者の発話改善に有効性が確認されている。
ところが、MIT日本語版は方法が文面で説明しにくい。

実際に行なっている施設で習うのが本来だが、自分のわかる範囲で適当にやろうと考える人がいる。
こうした人は、自分の方法と原法のどこがどのように異なるかを把握していない。
中には、自分の手法で効果がなかったことから、「MITは○○には無効」と発表したりし、MITに対する誤ったイメージを患者、家族、医療者に与えてしまう。

ボストンの病院の救急医である大内啓さんが、新型コロナウイルスの流行が始まった2020年2~3月ころの病院を『医療現場は地獄の戦場だった!』で書いています。

2020年5月、トランプ大統領が「ヒドロキシクロロキンを多くの医療従事者が服用している。私も一週間半前から服用している」と口にし、大混乱を招いた。
ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬である。
これより前、トランプ大統領はおそらく思いつきで、もう一種の抗マラリア薬とともに新型コロナウイルスの治療に有効だと主張し、米食品医薬品局にコロナ感染者への使用を承認させた。
6月、抗マラリア薬の使用許可が撤回された。

吉村洋文大阪府知事が「ポピドンヨードの含まれたうがい薬を使うことで、重症化を抑制できる可能性がある」と発表して非難された。
これらは科学を軽視し、科学と対立する発言だったと、大内啓さんは批判します。

トランプはコロナの治療として消毒剤を注射するのはどうだと言ってますから、
この2人の発言は思いつきなんでしょうが、金儲けがからんでいるかもしれません。

佐藤正之さんは以前勤めていたホスピスでの出来事を書いています。
60代の男性は診察を受けた時、すでに末期ガンで余命半年と診断され、ホスピスに入った。
この男性は週に1回仕事で出かける。
ある時、嘘を言っていたと告白した。

〝どんな癌でも必ず治る〟と標榜するマッサージの施療院を友人から紹介されたので行ってみると、病気の経過や診断を聞いたあと、その施療士は「私のマッサージを受ければ、必ず癌は治ります」と言った。
入会金が200万円、週1回30分のマッサージが1回7万円。
「3か月続ければ、必ず癌はよくなる」とのことだった。

3か月が経ったが一向によくならないどころか、悪化したと感じて、施療士に「3か月経ちましたが、さらに悪くなった気がするのですが」と質問すると、施療士は「今、3か月間の効果が蓄積され、まさによくなろうとしているところだ。もう3か月すれば必ずよくなる」と答えた。

しかし、容態はさらに悪化し、ふたたび「あれから3か月が経ちましたが、とてもよくなっているとは思えないのです」と質問したら、施療士は「もう半年続ければきっとよくなる」と答えた。
それが昨日のことで、どうしたらいいかという相談だった。

そして、小指くらいの太さで高さ数センチの入れ物に、茶色の液体が半分くらい入ったものを取り出した。
施療士から毎食後に飲むように言われた〝体調をよくする水〟で、1本3000円する。
この施療院に合計500万円ほどつぎこんだと言う。
男性はこの会話の1週間後に亡くなった。

亡くなる一週間前のひとに〝あと半年続けたら〟という、見え透いて現実離れしたことを平気で口にする・・・。残念ながらひとの不幸を、なかには死に至る病を、ビジネスチャンスとしかみなさない輩が世の中にはいるのです。

絵門ゆう子さんをだました「先生」たちは全国あちこちにいるわけです。


アラン・レヴィノヴィッツ『さらば健康食神話』(2)

2023年03月22日 | 問題のある考え

アラン・レヴィノヴィッツは『さらば健康食神話』で、食べ物について広く信じられているニセ科学によって作られる病気を「集団社会性疾患」と名づけています。
ネットで検索しても出てこない言葉ですが、病気になると思い込んで心身が過剰に反応する、一種の集団ヒステリーということだと思います。

現代アメリカの食についての論説では、「自然」か「人工」、「良い」か「悪い」、「自然食品」か「加工食品」という二元論で判断する。
現代文明は邪悪であり、原始人は自然の中で生活していた。

農薬、化学肥料、化学調味料、添加物など化学物質は危険とされるわけです。
しかし、昔の生活が健康的だったわけではないし、病気にかからなかったわけでもありません。

砂糖や塩、脂肪の摂取量についても、ちょっとでもたくさん摂取したら病気になるというような極論を、アラン・レヴィノヴィッツは批判しています。

化学肥料や農薬によって野菜の生産量が増え、飢える人が減りました。
ワクチンによって多くの病気の感染者が少なくなりました。
インチキ健康食・健康法の信奉者、健康が至上の価値となっている健康至上主義(健康病)は反ワクチンになりがちだと思います。
左巻健男『陰謀論とニセ科学』からです。

デンバー大学のジェニファー・ライヒはワクチンを拒否する母親たちを調査研究し、その姿勢を次のようにまとめている。

私が調査した母親たちは、ワクチンが不要になると考えられる方法で子供たちの健康を守る努力をしていると説明しています。オーガニックフード、母乳、家での健康を増進する実践。

いい食べ物で免疫力を上げようということでしょうが、ワクチンは不要だ、毒だということになると極論です。

そこにつけこんで、ニセ科学によって金儲けする人がいます。
どういう手口か。

まず、病気の原因をやり玉に挙げる(グルテンやグルタミン酸ナトリウム)。
そして、背後に存在する巨悪の陰謀を暴く(政府、主流医療の医師、御用学者は、食品業界や製薬会社らから資金提供を受けている)。
そうして、巨悪を攻撃する高潔な研究者や医師を持ち上げる。

しかし、彼らは健康法、ダイエット食品、代替療法などで儲けるわけです。
だましのテクニックの一つは人間の弱みをつくことです。

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の正体』にある、人に影響力を与える6つのルールが参考になります。

・比較のルール
買い物の際によりどころにしているのが「高いもの=いいもの」「安かろう悪かろう」ということで、値段が高いといいものだと思いがちである。
これは費用対効果、すなわち金額と品物の質や効果が正比例すると考えるわけです。

絵門ゆう子さんは、がん患者は「値段が高いから良い結果が出るかもしれない」という思考回路があると、『がんと一緒にゆっくりと』に書いています。
グルデンフリー食品は通常のものより2倍以上の値段がします。

・整合性のルール
人は自分が決めたことは正しいという態度を取る。
競馬で、金を賭ける30秒前までは自信がなく迷うが、賭けた30秒後には自信満々になる。
なぜなら、自分は正しい選択をしたと思い込むから。

間違いや失敗しても認めない。
ダメ男となかなか離婚できない、戦争に負けそうでもずるずる続ける、騙されたことを認めないなど。
自分がしたことと矛盾しないようにしたい思いがあるから、つじつま合わせをする。

絵門ゆう子さんは西洋医学を拒否したために、今さら病院には行けないと思います。
一時的に悪くなるという好転反応という言葉もつじつま合わせです。
化学調味料で体調を崩したと信じている人は、心理的なものだと言われると反発します。

世界の終末の予言が何度はずれても、エホバの証人の信者は脱会しません。
法の華三法行やオウム真理教の教祖が逮捕されても、信者は活動を再開しています。

ケチくさいと思われたくない気持ちが人にはあるので、最初は小さな要求から始めて、だんだんと大きな要求をする。
宗教だと、年会費1万円にして、最初は安い、良心的だと思わせ、だんだんと神殿を新築する、大祭があるなどと言っては献金させます。

・社会的な証拠へのルール
みんなが買う人気商品は、さほどほしくなくても行列しても買ってしまう。
ある考えを正しいと思う人が多ければ、その考えは正しいと思う。
ある行為をしている人が多いほど正しいと考える。

テレビやベストセラーで語られることは本当だと思いがちです。
グルデンや化学調味料の害を説く本を読むと、体調がよくない気がしてくるわけです。

ネットは島宇宙だと言われますが、私も自分と同じ考えのものしか見ないので、みんなが私と同じ考えなんだと思います。
しかし、そんなことはありません。

絵門ゆう子さんは西洋医学を否定するガン仲間と親しくなり、さらに民間療法にはまってしまいます。
陰謀論を信じる人も島宇宙で自足しているのでしょう。

・好意のルール
知人や好きな人から何かを頼まれたら、たいていはイエスという。
マルチ商法がそうで、知人から勧められると、つき合いで買ってしまいます。
絵門ゆう子さんは草の根療法や気功の「先生」を訪れたのは、それぞれ違う知人の紹介によってです。

・権威のルール
肩書き・・・大学教授、医者、上司
服装・・・高級そうなスーツ、警備員の制服
装飾品・・・高級車、宝石

反ワクチンの主張する人の中には医学部教授、医師、弁護士などもいます。
そうした医師の中にはアヤシそうな代替療法を行う人もいます。

有名人がある商品を愛用していると売上げが伸びる。
絵門ゆう子さんはタレントであり、著書もあります。

気功先生のところに初めて行った時のことを、「凜とした空気が流れていて、埃一つない。袴を身につけた先生は、修行僧のように引き締まった雰囲気を漂わせていた。お香が焚かれた部屋で掌を通して気を入れる」と書いています。

・希少性のルール
あなたにだけ特別情報を教える。
モルモン教の教会には特別の区画があり、特に認められた信者だけが入ることができる。
特別開帳みたいなもんでしょうか。。

絵門ゆう子さんはアメリカ製のマイクロ波の器具による治療します。
医師は「日本でこの機械を持っているのは私だけだから」と自慢げに目を細めた。

数量限定の高級時計や車は高くてもすぐに売れます。
メーカーのほうも限られた人にしか売らないそうです。


アラン・レヴィノヴィッツ『さらば健康食神話』(1)

2023年03月14日 | 問題のある考え

アラン・レヴィノヴィッツ『さらば健康食神話 フードファディズムの罠』の原題は「The Gluten Lie(グルテンの嘘)」です。
副題のフードファディズムの意味がわからないのでネットで調べました。

食品や栄養が、健康や病気に与える影響を過大に評価したり信じたりすること。ファディズムとは、英語で「流行かぶれ」という意味。たとえばテレビや書籍が発信した「〇〇を食べると痩せる」という情報を信じ、その食品を過剰摂取するというような、偏った食生活を続けることを指す。(略)
過去に多くの人がフードファディズムに翻弄された例として、以下のような食品がある。
「これを食べると痩せる」とされた食品:寒天、納豆、バナナ
「これを飲むと体に悪い」とされた食品:牛乳
「これを飲むと体に良い」とされた食品:水素水

https://ideasforgood.jp/glossary/food-faddism/

水素水については左巻健男『陰謀論とニセ科学』に書かれています。
ニセ科学的な水ビジネス商品として水素水以外に、アルカリイオン水、πウォーター、磁化水、創生水、酸素水、シリカ水、電子水、酵素ジュース、波動共鳴水などがあげられています。
いずれももっともらしい名称ですが、イオンや波動などはインチキ商品によく使われる言葉です。

『さらば健康食神話』は、まずグルテンやグルタミン酸ソーダは危険だという嘘について書かれています。
グルテンとは何か知らなかったですが、小麦粉に水を加えてこねることでできる成分のことだそうです。
グルテンを含まない製品がグルテンフリー。

アメリカ人はウイリアム・デイビス『小麦はたべるな』とデイビッド・パールマター『「いつものパン」があなたを殺す』の2冊によってグルテンを恐れるようになった。
グルテンはごくわずかな量でも依存と肥満を呼び、脳を傷つける。
そして、グルテンを含む小麦は、ADHD、アルツハイマー病、関節炎、自閉症、がん、心臓病、肥満、統合失調症などの病気を引き起こすか症状を悪化させる。

人間は何千年も前からパンや麺類などの小麦製品を食べてきたわけです。
なのに、こんな脅しを大勢が信じているのですから不思議です。

グルテンによってセリアック病やグルテン過敏症になる人はいます。
しかし、多くは思い込み。

グルテンフリー食品は普通の食品よりも平均で242%高価だ。
グルテンフリー食品市場は約40億ドル規模まで成長し、2019年には70億ドル近くに達するだろうと予想されている。
グルテンフリーのドッグフードまである。

かつてグルタミン酸ナトリウムは、現在のグルテンのようなスケープゴートだった。
中華料理を食べると体調が悪くなると言う人が現れたのが1968年。
化学調味料がひどい偏頭痛、過敏性大腸症候群、胃もたれ、関節痛、冷や汗、乳幼児の急な腹痛などの原因とされた。

メディアは「中華料理でおかしくなる? 一番疑わしいのはグルタミン酸ナトリウム」といった誇張した見出しを使った。
グルタミン酸ナトリウムは食の大物悪役に変身した。

1988年、シュワルツ博士は著書で、化学調味料はADHD、エイズ、筋萎縮症、アルツハイマー病、喘息、がん、下痢、ウツ病、胃食道逆流症、ハンチントン氏病、高血圧、肥満、パーキンソン病、月経前症候群の原因だと書いた。
8年後、プレイロック医師が出した本には、病気のリストに自閉症が加えられている。
シュワルツ博士はその本の序文で親たちに、子供に毒を与えるのはやめましょうと呼びかけた。

現在では、アレルギーの専門家はグルタミン酸ナトリウムへの反応のほとんどは心理的なもので、身体的なものではないと考えている。
しかし、今も化学調味料過敏症の神話は生き続けている。

2014年、健康情報のサイトに掲載された「グルタミン酸ナトリウムは誤解されている?」という記事に対するコメント。

「なんという無神経な記事でしょう。私は化学調味料を摂取した時に苦しい思いをし、それに苦しんでいる当事者です。ひどい頭痛を起こし何時間も気分が悪くなります。私にとってこれはいつものことで再現可能なことです。何が引き金になってこの偏頭痛が起こるか発見するまでに何年もかかりました。私の症状が心理的なものだとする記事を読むのはとても腹立たしいです」

「これはまるで悪魔が良い奴だと言ってるようなものです。息子のお誕生日祝いに中華料理屋に行って食事をしたあと店を出ると、息子がすっかりおかしくなって、バックミラーを壊してしまいました。化学調味料に慣れることなどできません」


気分が悪くなったり頭痛やめまいが、薬や食べ物ではなく、本や記事によって起こっている。
歪曲された情報やまったくの嘘に繰り返し触れることで、さらに症状が悪化している可能性がある。

アラン・レヴィノヴィッツはこう書いています。

毎日、毎食、口にしている食品は、神秘の秘薬でもなければ、死をもたらす毒薬でもない。お腹まわりが太くなったり、心臓発作が増えたりする原因は、何を食べる(食べない)かよりも、いかに食べるか(その量)なのだ。

いろんなものをバランスよく、ほどほどの量を食べ、適度な運動をするのが一番というのが結論でした。


民間療法と健康器具・食品のアヤシさ(4)

2023年03月06日 | 問題のある考え

絵門ゆう子さんがガンの宣告を受けたのが2000年10月、聖路加病院に行ったのが2002年12月、『がんと一緒にゆっくりと』を出版したのが2003年5月、死亡が2006年4月。

『がんと一緒にゆっくりと』を書いたころには冷静に振り返っているように思われます。
批判的なことを書いています。

民間療法で良くなっている人たちは、基本的に病院に行きたがらない人たちである。
本人は「治ったみたい」と思ってしまうし、周りもそのように言う。

そのような状態の患者は、療法を売ろうとする人たちにとって、大いに利用できる存在なのである。彼らの体験を出回らせるのだ。そして、良い結果が出たのは、その療法が素晴らしいからであり、患者が一生懸命信じて迷わず行ったからだと言い、その患者のことを「えらかった」と称え、患者はそう言われて喜ぶ。


そして、このように述懐します。

巷で良いと言われていることを全てやった挙げ句に全身に転移させ、甘く見ることの怖さを思い知った。


ところが、なぜか民間療法を否定しないのです。

私は、放り出された。しかしそれでも、民間療法の持つ可能性を否定したいとは思わない。なぜなら、がん患者にとってそれは大きな希望だからだ。


入院中には、入院直前に教わった西式健康法の一つである裸療法をしたそうです。
服を脱いだり着たりすることで、毛穴から毒素が出て皮膚呼吸を促進させ血行を良くし、免疫力を上げていくというもの。

ウィキペディアによると、西式健康法は、生野菜食を中心に摂取し、暖衣飽食を退け、断食、生食療法などをします。
毒素を排出して免疫力を高める健康法のようです。
これまたデトックスです。

民間療法は大した効果はないわけですから、希望ではなくて気休めにすぎないと思います。
散々な目に遭ったのに、まだこんなものを信じているのかとタメイキが出ます。

盲学校で鍼灸を教えていた人に東洋医学について話を聞いたことがありますが、がんやインフルエンザなどは東洋医学では治らないと言われてました。
どんな病気にも効く万能の薬や治療法はありません。
簡単に「治る」と断言する人は信用しないほうがいいようです。

絵門ゆう子さんは「占いや霊能力関係が大好きである」と書いています。
西洋医学を拒否したのは母親のガンや、出会った医師との関係がうまくいかなかったこともあるかもしれませんが、そもそも疑似科学のようなアヤシいものが好きなのでしょう。

絵門ゆう子さんが行なった民間療法と健康器具・食品は人の弱みにつけ込む悪質な詐欺だと思います。
糖尿病なのに代替療法の「先生」の言うがままにインシュリン投与をせずに死んだ人もいます。
医者ではない「先生」が医療行為をするのは法に触れています。
絵門ゆう子さんはMRI検査で骨転移が疑われた時、栄養が足りないからだとか、MRIで心臓が悪くなったんだと言われましたが、医者でもない人間がそんなことを言っていいものかと思います。

それなのに、絵門ゆう子さんはがん患者仲間に草の粉療法などを紹介しているのです。
これは、だまされてカルトに入信した人が、今度はだます側になって勧誘を行う、つまり被害者が加害者になって新たな被害者を生むのと同じ構図です。

絵門ゆう子さんが民間療法、健康器具・食品にはまったことは個人の自由だとは言えないように思います。
だからといって、無理矢理に手術を受けさせることはできません。
これまた難しい問題です。

もしも絵門ゆう子さんが最初の医者の言葉に従って手術と抗がん剤治療をしていればどうなっていただろうと思います。


民間療法と健康器具・食品のアヤシさ(3)

2023年02月27日 | 問題のある考え

絵門ゆう子さんが草の粉療法をしているころ、気功の「先生」を紹介してもらった。
『がんと一緒にゆっくりと』によると、特殊な能力を元に、整体のような気功のような治療を行う。
「先生」は、がんは「8回でカタがつく」と言った。
そして、草の粉療法を絶賛した。

そのころ、あるクリニックを訪れた。
Oリングテストによって、その人に合う健康食品を勧める。
Οリングテストとは、親指と他の指でΟの字になるように輪を作り、患者は輪が開かないように力を入れ、テストをする人は両手で輪を開こうとする。
それによって、がんの状態やどの健康食品が合うかなどを判定する。
そのクリニックで、がん細胞が活動しなくなるというマイクロ波の治療を受けた。

言うまでもなく、Οリングテストは疑似科学ですし、マイクロ波の機械は医療器具として認められているものではありません。

がんの告知から9か月後、スポーツクラブで叫び声を上げるほどの痛みが首を走った。
そのクラブに詰めているカイロプラクティックの先生に紹介してもらい、3回治療を受けたが、痛みはひどくなった。
後日、聖路加病院に入院した時、首の3か所で骨が折れていることがわかったが、この治療によって折れた可能性が高い。

カイロプラクティックの先生からレントゲンを受けるように言われた。
MRIで調べると、医師はがんの骨転移である可能性が高いと言った。
しかし、絵門ゆう子さんは聞き入れなかった。

マイクロ波治療後のOリングテストで「もうがんの波動はなくなった」と言った医者に相談すると、「それは骨転移かもしれないよ」と言われた。
草の粉療法の先生は「首は転移なんかじゃありませんよ。栄養が不足してなっているんです」と言い、毎日チーズをたくさん食べ、卵を1日に少なくとも3個は食べるようにと言われ、無理して食べ続けた。
しかし、首の痛みはひどくなるばかりだった。

自分が信じようとしているやり方に対する苦言だけは聞きたくないのだ。だから、ただただ耐えた。


「人間は自分が信じたいことを喜んで信じるものだ」はカエサルの『ガリア戦記』にある言葉だそうです。
逆に言うと、自分が信じたくないことは耳に入りません。

気功の先生は「悪くなっているのは心臓だ。あなたが受けたMRIの検査のせいだ。MRIは強烈な磁気の波動だから、それを、あなたのような影響を受けやすい体質の人が受けると、心臓が変になるんですよ」と責めた。
さらに、「あなたがMRIを受けた邪気のために、私の体はね、あなたの治療をする度に具合が悪くなるんですよ」と言う。

私はね、自分の体のエネルギーを使って治療してるんですよ。体を張ってるんだ。このままじゃあなたの持ってくる邪気のために、私の体が使い物にならなくなってしまう。だいたいね、今は3万円なんていう値段でやっているけど、ちょっと前までは、入会金を250万円、一回の施術料は30万円いただいていたんですからね。3万円なんかで体をボロボロにされたんじゃ合わないんですよ!


草の粉療法は4か月で50万円くらい。
気功の施術は1回40分で3万円を数十回。
ということは、絵門ゆう子さんは気功に百万円ぐらい支払ったわけです。
1回30万円だと1千万円。

スピリチュアルや民間療法、健康器具など疑似科学では波動という言葉をよく見かけます。
すべての物質が出している未知のエネルギーという意味で使われているようです。
ウィキペディアの「波動 (オカルト)」によると、物理学での波動はwave(波)の訳語ですが、オカルトや代替医療における波動はVibrationの訳です。
「振動」と翻訳すべきところを「波動」や「エネルギー」と訳すことで、物理学の裏づけがあるように思わせているわけですが、科学的な根拠はありません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%A2%E5%8B%95_(%E3%82%AA%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%88)
ちなみに、気功も波動だそうです。

気功の「先生」にそこまでボロクソに言われても、絵門ゆう子さんはなぜ通い続けたのでしょうか。

なぜ通い続けることになったのか。それは、施術の度に西洋医学を糾弾する言葉巧みな彼の話に感化されていったのと、症状が安定している時も「この施術の効果かもしれない。やめて急に悪くなったらどうしよう」と、やめることが怖くなっていたからでもある。


痛みに耐えきれず、2002年12月26日、聖路加病院に行く。
「がんなんて簡単ですよ。すぐに治りますよ」と安易に言った民間療法の「先生」たちと違い、聖路加病院の先生たちは決して「治る」という言葉は使わない。

しかし、絵門ゆう子さんは民間療法の「先生」たちの呪縛から解き放たれたわけではありません。
病院に行かず、玄米菜食、自然療法だけで乳がんを治そうとしている女性の考え。

がんには「私のところに来てくれてありがとう」って感謝すればいいの。私は最初からそうしてきた。がんは、心の持ち方とかいろいろその人の悪かった点を教えてくれるありがたいものなのよ。そういう声に耳を傾ければ、必ず治る。


聖路加病院に入院する前日、その女性は「病院になんて行って、水を肺から抜いたりいたらダメになるわよ。原点に戻って、きっちり玄米を炊く生活をしてやり直した方がいいと思う」と言った。
草の根療法の「先生」が玄米菜食を否定しても、絵門ゆう子さんは玄米菜食への愛着があったようです。

その女性の言葉はその後、何度も頭の中で反響した。
助言に従わないことに罪悪感を感じる。
肺の水を抜いた後も、心は揺れていた。
不安が頭をもたげ、「ほんとうにこれでよかったのか」と葛藤する。
針生検をしたが、針によってがんが刺激され悪化する、怖いものという思いがあった。
間違った知識や情報、極端な思い込みでがんじがらめになっていた。
一度刷りこまれた「怖い」という思いからすぐに解放されるものではない。
行きつ戻りつ考え方が変わっていく疑心暗鬼の状態に陥った。
これは一種の洗脳です。


民間療法と健康器具・食品のアヤシさ(2)

2023年02月20日 | 問題のある考え

乳がんになった絵門ゆう子さんの民間療法と健康器具・食品体験記である『がんと一緒にゆっくりと』を読むと驚くことばかりです。

がんに良いというものに対して、湯水のごとく使うようになった。
買ったグッズの中で最も高価だったのは100万円の布団。
宇宙エネルギーを取り込むことができるという触れ込みだった。
宇宙エネルギーとは何か、それが布団を通してどう体に取り込まれるのかを勧めてくれた女性に質問した。
すると、「詳しいことは私も難しくてよく分からないの。だからセミナーに行ってみて」と誘われ、布団を販売している会社のセミナーに行った。
開発者の講演、体験者のスピーチ、ビデオ上映が行われた。
布団のパワーについての開発者の講演は、素人には分からない専門用語が多用され、結局「すごいものだ」としか分からなかった。

科学で証明しにくい話は、いつも私に対して妙に説得力を持ってしまう。(略)分からないぶん、いつまでも魅惑され続けてしまうのだ


がんを治すグッズには宇宙エネルギー、ピラミッドパワー、波動など、いろいろなパワーが使われる。
1.5mほどのステンレス・パイプ8本を組み合わせて作るピラミッドは15万円。
中に布団を敷いて北枕にして寝ると、寝ている間にそのパワーががんを治す。

座ると体に良い波動を出すという5百円玉くらいの大きさのメダルが頭の部分に埋め込まれている電動マッサージャーは、手で振るよりはるかに強力な波動を出す。
このマッサージャーをピラミッドの中心にぶらさげて、先端が乳がんの真上10cmのところにくるようにして、仰向けにして寝る波動療法。
波動のメダルが十数枚も縫い込まれているランチョン・マットくらいの大きさの波動マットは17万円。
寝る前に乳がんの上に置くだけで威力を発揮する。

びわの葉に含まれているアミグダリンという成分が染み込んでいるシルクの掛け布団は20万円。
寝ているうちに体の悪いものを出して治していく。

布団の下に敷く遠赤外線のマットは17万円。
ピラミッドパワーの温灸器は15万円。
寝ている時に乗せておけば、ビワ温灸の7倍の効果がある。

宇宙エネルギーを取り込める戸棚は普通の戸棚の十倍は超える値段。
この戸棚の中に入れた食べ物は体に良いものに変わる。

マイナスイオン清浄機は30万円。
普通の空気清浄機の数百倍のマイナスイオンが出る。

浄水器は浄水の方法がいろいろあり、次々と買い換えた。
他に、遠赤外線のサウナハウス、電気足湯器、黒田式光線機など。

健康食品は勧められる時、「副作用は全くない。良い食事を摂ることと同じ」という説明を受ける。
健康食品は天然の原材料で、化学物質が一切含まれていないので安全。
多く摂り過ぎた場合は尿から排出されてしまうので大丈夫。

しかし、飲んでみて結果を実感できなかったら、飲み方が足りないと言われる。
飲みすぎて肝臓が腫れるといった副作用が起きたこともある。
「それは好転反応なのだから、もっと続けていれば効果が出てくる」と言われた。
好転反応とは、症状がよいほうに変わる前に一時的に悪化することです。
それで、続けていればよくなると言われるわけです。

健康器具は一度買えばいいですが、健康食品はなくなれば買い続けないといけません。
健康食品は1か月分が10万円以上するものがざらにあった。
がん患者は「値段が高いから良い結果が出るかもしれない」という思考回路がある。

絵門ゆう子さんは乳がんの告知から9か月後の2001年5月、ある民間療法に出会いました。
これがなんともすさまじい。

天然の草(薬草)の粉をお湯で溶いたものをリンパ腺上に貼り付け、それを毎日取り替える。
草の粉療法の「先生」は初めての面談の時、「がんは簡単ですよ」と言った。

何日かすると草の粉を貼っているところに点々とニキビのようなものができてくる。
さらに続けると、ニキビのようなものから白い膿が出てくる。
膿が出る穴は日を追うごとに大きくなり、膿の量も増え、膿が全て出切ってがんは完治するというもの。

草の粉を貼るだけでなく、薬草のジュースや粉、野草茶などを飲まないと成果は出ない。
個人差はあるが、指示されたとおりにすると、だいたい4か月で結果が出る。

悪いものを出していくためには、タンパク質をどんどん摂取して新しい筋肉を作っていかなければならないという考えのため、動物性の食品をたくさん食べるように指示される。
つまり、これも毒素を出すというデトックスです。

玄米菜食は徹底的に否定する。
絵門ゆう子さんは断食、玄米菜食をしていたのに、それを否定されてもおかしいとは思わなかったようです。
つまり、考え方が違っていても、民間療法なら何でも信じるわけです。

膿が出るために、あちこちに開いた穴は大きいもので直径1.5cmになり、とにかく痛かった。
痛みが強いのを治っていく手応えのように思う。
草の粉療法を始めてから4か月、「もう、がんは心配ありませんよ。完治してます」と言われた。
しかし、胸のしこりは残っていた。


民間療法と健康器具・食品のアヤシさ(1)

2023年02月12日 | 問題のある考え

親が自分の信念を通すために子供を死なせる自由はありません。
では、自分が死ぬかもしれない選択をする自由はあるのでしょうか。
たとえば、ガンになり、手術や化学療法で治る可能性があるのに、民間療法を選び、まわりが反対しても考えを変えないがいます。
家族は無理にでも手術をさせるべきか、本人にまかせるべきか。

左巻健男『陰謀論とニセ科学』は、ガンになって民間療法や健康食品にはまった人として、スティーブ・ジョブズと絵門ゆう子さんを紹介しています。

スティーブ・ジョブズは膵臓ガンが見つかり、転移する前に手術すれば生存確率が上がると診断されたが、手術を拒否した。
ニンジンと果物のジュースを大量にとる絶対菜食主義に、鍼やハーブ薬、サメ軟膏、コーヒー浣腸などを併用し、心霊治療なども取り入れた。
スティーブ・ジョブズが実践したゲルソン療法は、1930年代にマックス・ゲルソンが提唱したガンなどが治る食事療法である。
果物、野菜、子牛の生の肝臓を混ぜた自然食(液体)を摂り、毎日コーヒー浣腸をして有害な胎毒をデトックスする。

がん情報サイトにゲルソン療法について書かれています。

・この治療法の理論は、体内から毒素を除去して免疫系の働きを高め、体の細胞内の過剰な塩分をカリウムに置き換えることで、病気を治癒するというものです。
・ゲルソン療法の臨床研究はほとんど発表されていません。
・どのタイプの浣腸であっても何度も注入すると有害となる可能性があります。
・米国食品医薬品局は、がんやその他の疾患の治療法としてゲルソン療法を承認していません。
・がん患者さんは従うべき適切な食事法について、医療提供者と相談するべきです。

https://cancerinfo.tri-kobe.org/summary/detail_view?pdqID=CDR0000453628&lang=ja

民間療法や健康食品・器具は「デトックス」「免疫力を高める」という言葉をよく使います。
デトックスとは体内の毒素を排出することです。
汗の成分には有毒物質も含まれていますが、その量はわずかなものです。

ヨーロッパの医療は近代まで瀉血、吸角、下剤、ヒルによる吸引など、毒を排出するというデトックスでした。
もっとも、逆に体力を奪うだけで、病気を治す効果はありませんでした。

デトックスのための健康食品・器具が販売されていますが、毒素とは何か、どうして排出できるのかなど説明はされません。
効果のないものが多く、有害なものもあるそうです。

免疫力を高めるという惹句もあやしい。
ある健康食品が免疫力を高めると謳っていても、そのことが論文で報告されているといったことはまずありません。
免疫力を高めるとされているものが配合されているという程度です。

絵門ゆう子『がんと一緒にゆっくりと』を読み、民間療法の信奉者はカルトの信者と似ていると思いました。

2000年10月25日、乳がんのⅡ期からⅢ期だと告知を受ける。
医者から、乳房を残す温存手術はすでに無理、手術と抗がん剤による治療を提示された。
しかし、手術と抗がん剤による治療は拒否し、その病院には二度と行かなかった。

西洋医学を拒否したのは、母親のがん死が理由である。
子宮がんだった母親は抗がん剤を打った時から急変、亡くなった。
母親の「病院にさえ行かなければこんなことにならなかったのにって思えてならないのよ」という言葉が残り、それ以来、西洋医学を怖がるようになった。

以前、取材した信頼する医者に相談すると、西洋医学の治療を勧められ、「乳がんは治せるがんなんや! なんで治療しようとしないんや!」と諭された。
しかし、その言葉に従わず、「自然療法、民間療法、健康食品、そして東洋医学の治療に賭けてみる」という旨の礼状を出した。

西洋医学の通常治療だけは受けない。がんなんて自分が作ったものだから自分で治してみせる。

周りが何を言っても聞く耳を持たず、そのくせ「がんが治せる」という怪しい話にはすぐ飛びついた。

首が痛くなったことや、肺や心臓がおかしくなったことと乳がんとを結びつけず、「その痛みはがんとは関係ない」「そうしているうちにある日突然治る」と言い切ってくれた民間療法の「先生」たちの言葉を信じ、首の痛みが自然に消える日が必ず来ると、自然療法を続けた。

代替療法を行なっている病院を初めて訪れると、院長は「がんについては、私ほど良く知っている人間はいませんから」と言った。
ところが、持参した検査データは見ようとしない。

どういう治療をするのか尋ねると、「温熱療法とか、がんを取り出してアルコールに漬けて、もう一度体に戻す治療です」と答えた。
温熱療法は、がんは高熱に弱いため、「42度以上発熱する病気になる菌」を患者の体に植えつけて感染させ、患者がその高熱に三日間耐え、乗り越えるとがんが消滅する。

アルコール漬け治療は、がん細胞を外科的手術で取り出してそれをアルコールに浸した後、もう一度同じ体内に戻す手術をするというもの。
その療法の臨床データや、高熱で衰弱しないかなど質問をすると、「どうせ治療を受けるのは、末期の人だからね」という返事だった。

断食の治療院の指導者は当初、「手術も抗がん剤もしない」という考え方に応援してくれたが、断食を終えて腫瘍マーカーが少し悪くなったことを知ると、知り合いの医者を紹介すると言い出した。

断食の次に、がんやその他の難病を抱えた生徒が通う玄米菜食の料理教室に行く。
食事は植物から命をもらうことだと捉え、心の持ち方まで指導される。


宗教コミューン

2021年05月21日 | 問題のある考え

ゲイ・タリーズは『汝の隣人の妻』(1981年)で、「ニューヨーク・タイムズ」の記事を紹介しています。
それによると、1970年には大小さまざまな共同体がほぼ2000あると推定されていた。
場所もさまざまで、農場、都市の商業ビル、山間部、砂漠、貧民街など。
それらの施設には、ヒッピーの園芸家、瞑想的な神秘論者、生態学の伝道者、引退したロック・ミュージシャン、平和活動家、ウィルヘルム・ライヒやアブラハム・マズローの信奉者などが集まった。

ゲイ・タリーズは、1848年にジョン・ハンフリー・ノイズが創始したオナイダ・コミュニティについても詳しく書いています。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/a7e3f976af581505a58a186b1252b33d

『心憑かれて』に載っているマーガレット・ミラーへのインタビュー(「ミステリー・シーン」1989年5・6月号)に、宗教コロニーについて語られています。

わたしはもう長いことああいった宗教集団というものに興味をひかれてきたの。南カリフォルニアにはそれこそごまんとあるわ。わたしの友人の中には子供を連れて、そういった集団のひとつに参加した人たちもいるわ――なにもかも彼らにさしだしてね。中の一人はスタンダード石油のあと取り息子と結婚して、それこそ贅沢ざんまいな生活を送っていたのよ。(略)
それまでの贅沢に囲まれた生活を捨てて、そんなふうに筆舌に尽くしがたい場所に飛びこむなんて。おまけにまだ彼女はそこにいるのよ。私の別の若い友人は、「ブラザーフッド・オブ・ザ・サンズ」という宗教集団に加入したわ。そこではいっさいの私的所有を認めないの。びた一文の報酬もなく一日じゅうこき使われるうえに、生殖以外のセックスが一切禁止されてるんですって。一体どうやってそれを区別するのかしらね。そのドンという名のわたしの友人は結婚して、奥さんも同じ集団に入信させ、子供が二人できたの。でもついに彼の目が覚めるときがきて、そこを出ることにしたのね。でも教団の方では子供たちや妻を引き渡そうとしなかったわ。奥さんもまた教団を出ようとしなかった。


人民寺院やマンソン・ファミリーが有名ですが、知られていない反社会的なコミューン(共同体)も少なくないようです。

ゲイ・タリーズは、ジョン・ウィリアムソンが主宰するサンドストーンのフリーセックス、ヌーディスト共同体に滞在し、何人もの人にインタビューをしています。
ジョン・ウィリアムソンたちは職を捨てたり、本業を怠ったりして、汗を流してサンドストーンを建設する。

妻のジュディスがジョン・ウィリアムソンの虜になったジョン・ブラロはこのように考えます。

ウィリアムソンがみんなを支配する権力とは、いったい何だろうか、と頭を悩ませた。そして、それはウィリアムソン夫妻の英知やダイナミックな行動力よりも、むしろ彼らがそういう人びとの人生を特徴づける、はてしない空虚につけ入る能力の方に関係があるのだ、と結論するにいたった。
ほとんどの連中は生まれながらにして追随者であり、道案内をもとめる放浪者である。したがって理論家や神学者、独裁者や麻薬の売人、あるいは、口あたりのよい治療や解決策を約束するハリウッド界隈のヒンズー教の呪術師、そういう輩にいともかんたんにだまされる従順な門弟なのだ、とブラロは思う。カリフォルニアの根なし草のような、すこぶるファッショナブルな風土は、新しい思想や流行に対する抵抗力がとりわけ弱い。だから、もしここに決断と行動力に富んだ目先のきく人間がいて、ほかの人間の理想や空想を巧みに自分の野望と一致させることができれば、そして、曖昧でとらえどころがない態度をいつまでも崩さないでいれば、その男は遅かれ早かれ応分の弟子を惹きつけることができるだろう。ウィリアムソンはその種の人間だ、とブラロは断定した。罪やあやまちを度外視して快楽を祝福する哲学を信奉する呪術師だ。彼は自分の信奉者を〝変革者〟と呼んでおだてている。ちょうど彼らがウィリアムソンのセックス理論の先駆的実践者に変えられたように、彼らにほかの人びとを変える力をあたえようとしているのだ。

このように洞察したブラロですが、なぜかジョン・ウィリアムソンに心から謝罪して受け入れてもらいます。
ここまで客観的に考えることができているのに、どうしてサンドストーンに戻ったのか不思議です。

日本ではどうでしょうか。
小田誠「妙な空き家」(「連続無窮」25号)にはいささか驚きました。

山形県の県境付近の、高齢者ばかりの新潟県の村に住む親類が、家や土地を売り払い村を出て、別の土地で仲間たちと共同生活を送っていることを菩提寺の住職から聞く。
住職の話だと、キリスト教原理主義を掲げ、大学で信者を勧誘したり、霊感商法で名指しされている、韓国に本部を置く宗教団体が関係している。

高齢者が友人知人との関係を絶ち、家や土地を放り出して教会という名の共同生活拠点に住み込む。
家族に脱会を強制された信者が自宅に火を放ったこともある。

なぜ過疎の村で老人ばかりを入信させるのか。
家や土地があるので、金に替えさせる。
ある市内の共同生活場にいるのは70代、80代がほとんど。
以前は学生や主婦を主眼にしていたが、今は高齢の信者が身近な高齢者をターゲットにする。
老老勧誘で、場所も介護施設や病院、村役場の催しなどである。
月日の流れとともに信者は高齢化し、中には寝たきりと思われる信者もいる。
この付近では信者の数は増え続けている。
山形、福島でも同様のことが多い。

かつての勢いを無くすなかで、今度は身近な場所と人に目を付けてそこで静かに勢力を維持しようとしている。しかし勧誘する側、される側ともに体力も衰え維持できなくなっている。家を飛び出し共同生活をするが、衣食住を自身で満足にできなかったり重い持病があったりで、資金を稼ぐこともままならない事もある。家や土地も家族から売却を阻止されると、結局は資金が枯渇し立ち行かなくなる。(略)
弱った者同士があつまり、そこで最後の一滴まで搾り取ろうとしている象徴がこの村の荒れた家々だ。


貧困ビジネスならぬ高齢者ビジネスです。
これも一種の宗教コミューンでしょう。
オウム真理教は地域との軋轢を起こして知られるようになりました。
こうした目立たない集団はあちこちにあるのかもしれません。


臨終の悪相と堕地獄(2)

2021年05月10日 | 問題のある考え

臨終の悪相と堕地獄について、『今昔物語集』「僧蓮円修不軽行救死母苦語」に書かれています。
蓮円という僧の母は邪見が深く、因果の道理をわきまえなかった。いよいよ死ぬ時に悪相を現し、はっきり悪道に堕ちると思われる状態で死んだ。蓮円は歎き悲しみ、何とかして母の後世を弔おうと思い、常不軽菩薩の行を修し、法華八講を行った。蓮円は夢の中で地獄の鬼に「私の母がいるでしょうか」と問うと。鬼は「いるぞ」と答えた。母に会うと、母は「私は罪報が重く、地獄に堕ちて言いようのない苦を受けている。しかし、あなたが私のために長年不軽の行を修し、法華経を講じてくれたので、地獄の苦から免れて、忉利天に生れることになった」と言った。すると夢から覚めた。(馬淵和夫訳参照)
https://yatanavi.org/text/k_konjaku/k_konjaku19-28
これは『法華経』による滅罪譚です。

無住『沙石集』「妄執に依りて魔道に落つる人の事」にも臨終の悪相が書かれています。
高野の遁世聖たちが臨終を迎える時は、仲間が寄り合って評定するが、一通りのことで往生する人はいない。ある時、端座合掌し、念仏を称えて息を引き取った僧がいた。「これこそ間違いない往生人だ」と評定したが、恵心房の上人は「本当に来迎にあずかり、往生する者は日ごろ悪しからん面をしていても、心地よき気色になるはずなのに、眉すぢかひて物すさまじげなる面をしている。魔道に入ったに違いない」と申された。一両年の後に、その僧は人に託して魔道に落たことを語られた。
http://yatanavi.org/text/shaseki/ko_shaseki09b-08

もっとも、臨終の相がよくても、往生したかどうかはわかりません。
高野山に隠居した道心者(菩提を求めて修行をしている人)として評判が高かった某は「最後の時には心を澄ませて念仏を唱え、そのまま息を引き取りたい」と念願していた。その願いのとおりに念仏して息を引き取った。一、二年して仲間の僧が物狂いし、某とそっくりな声で話し出した。僧たちは「臨終がめでたかったので往生されたと安堵していたのに、どうしたわけでしょうか」と問うと、「長年願っていたことなので十念は唱えたが、妄念が残って往生をしそこなった。近ごろの政治が濁っていることが気にかかり、「自分がその官職にあり、取り仕切っていたらこれほどのことはないだろう」と考え、人に知られない妄執が忘れ難く、魔道に入ってしまった」と語った。(小島孝之訳参照)

無相は臨終の悪相よりも妄念、妄執を問題にします。

仏法は真実の道心ありてこそ、生死を離れ悟りを開くことなれ。いかに学し行ずれども、名利・執着の心ありて、まことの菩提心なければ、魔道を出でず。


名利を求めることが悪道に堕ちる因となるということならわかりますが、家族や弟子の悲嘆も往生の障りとされます。
たとえば『沙石集』「妻、臨終の障りになる事」です。
山法師が病気になった。道心があり、念仏などもしていたから、これで最後と思い、端座合掌して西に向かって念仏を唱えた。妻は「私を捨ててどこへ行かれるのですか。ああ悲しい」と言って、僧の頸に抱きついて引き倒した。僧は「ああ情けない。心静かに臨終させてくれ」と言って、起き上がって念仏すると、妻はまた何度も何度も引き倒した。僧は声を張り上げて念仏を唱えはしたが、妻に引き倒されて組み摑まれてこと切れた。
https://yatanavi.org/text/shaseki/ko_shaseki04b-05

これは笑い話でしょうが、無住は続けてこのように書いています。

妻子並み居て、悲しみ、泣き慕ふを見ては、下根の機、いかでか障りとならざらん。(臨終の時に、妻子が悲しみ泣いて慕う気持ちを見せたら、資質の劣った者には臨終の障害となる)


鴨長明『発心集』「真浄房、暫く天狗になる事」です。
鳥羽の僧正の弟子に真浄房という僧がいた。鳥羽の僧正が病になり、見舞いに行った真浄房は「来世に必ずお会いしてお仕えしましょう」と申し上げた。それからほどなく僧正は亡くなられた。みんなは真浄房が後世者なので必ず往生すると思っていたが、物狂わしい病で亡くなった。真浄房の母が言うには、「真浄房がやって来た。私の臨終の様子を皆が納得できないように思っておられるので、その説明を申そう。私は名誉や利益を捨て、来世に向けての修行をしていたので、迷いの世界に留まる身ではなかったのを、師の僧正が今生の別れをなさった時、「来世で必ずまためぐり会ってお仕えします」と申し上げたことが誓文になり、僧正が「あのように言ったではないか」と解放してくださらないので、魔道に引き入れられた。僧正を仏のごとくに頼りにしていたばかりに、つまらないことを申して思いがけぬところにいる」と、天狗になったことを告げた。そして、この苦しみを抜け出せるよう、後世を弔ってほしいと頼んだ。そこで供養すると、老母が「悟りの境地に到りました。今から不浄の身を清めて極楽に参ります」と言った。これを聞いた人は「修行の徳を積んだ人でも、死後に出会おうというような誓いを立てるべきではない」と語った。(浅見和彦訳参照)

たとい行徳高き人なりとも、必ずこれに値遇せんという誓いをば起すまじけり。(たとえ修行を積んだ人でも、必ずまた会おうという誓いを起こすべきではない)

https://yatanavi.org/text/hosshinju/h_hosshinju2-08
天狗は仏道修行を妨げる魔王の使いです。

親鸞の手紙に「この身はいまはとしきわまりてそうらえば、さだめてさきだちて往生しそうらわんずれば、浄土にてかならずかならずまちまいらせそうろうべし」などと、浄土での再会を約していますが、こういう気持ちも妄念となるようです。

無住は「まことの道に入る時は、法執とて、仏法を愛するまでも、道の障りなり」と、仏法に対する執着も問題にしています。

無住は以下のように追善供養を勧めます。
子供や弟子は父母・師長の臨終が悪いのをありのままに言うのが気の毒に思い、多くはいいように言うものだ。無意味なことである。悪ければありのままに言って、自分がねんごろに弔い、よその人までも憐れみ弔うことこそが、亡魂の助かる因縁どもなる。

親鸞は『教行信証』に元照『阿弥陀経義疏』の

念仏法門は愚痴・豪賎を簡ばず、久近・善悪を論ぜず。ただ決誓猛信を取れば、臨終悪相なれども十念に往生す。

という文章を引用しています。
臨終の悪相と浄土往生は無関係だと元照や親鸞は考えていたのです。

無住は法然の浄土教理解を認めていないそうですが、往生がこれほど困難だとしたら、称名念仏によって往生すると説く法然の教えが人々に受け入れられたのもわかります。