80回目の終戦の日を迎え、政府主催の全国戦没者追悼式が天皇、皇后両陛下や石破茂首相らが参列され、東京都千代田区の日本武道館で開かれました。
太平洋戦争の終結からの節目であり、戦争と平和の歴史を振り返る重要な機会です。
メディアや学術界では、戦争の影響や教訓を考える機会が増えています。
千利休の流れをくむ、茶の湯の文化を世界に広めた茶道裏千家前家元の千玄室(せん・げんしつ)さんが14日午前0時42分、102歳で亡くなられました。
因みに表千家は「茶道」を「さどう」と言うのですが、裏千家は「ちゃどう」というのですね。
それはさておき、茶道を通じて各国との交流を続けた千玄室さん。
人種や宗教を問わず、一貫して世界平和を希求した行動の原点は、特攻隊員として経験した戦争の記憶だったそうです。
100歳を超えてもなお戦跡を訪れ、亡くなる直前まで講演を引き受け、平和の大切さを訴えてきた千玄室さん。
「私は生き残ったが、多くの仲間は海底に眠っている。一碗(わん)の茶を緑の地球だと思いながら飲み、人々が平和に生きることの尊さを知ってほしい」と説いたそうです。
お茶を通して世界の人々と平和を愛する心を共有するために―。
「『お茶の緑は世界平和を象徴している。戦争はしてはならない』
『平和が大切』デモなどで『平和を守るぞ』と叫んでも、平和は来ない。はっきり言ったらみんな平和ぼけしていますわ。
戦争を止めるのは人に対する思いやり。
「平和」という言葉のみに託して済ませるのではなく、他人に譲る思いやり、意見が異なる垣根を超えておだやかな気持ちをもち、営みを世界81億人に広げない限り、戦争はなくならない。
戦争であれだけ大きな犠牲を払って、原爆を落とされ、悲惨な状態で負けてしまった。
そして、平和な時代が続いて80年。今日の日本があるのが、今の人たちには分からないのでしょう。
朝のホームで、電車内で、無遠慮に人にぶつかり、押しのけるような粗野な行為を止めて譲り合う心をもつ。
SNSで理解を度外視した悪意のある批判を行なうのではなく、人の意見をまず受け入れて、咀嚼したうえで返す。
そんな心が世界に広がれば、戦争はなくなる。
いや、恐らくそれなくして戦争はなくならない。
それを地道に広げなかったからこそ、第三次世界大戦が近づく恐怖が現実になりつつあるとしか言えません。」
ロシアがウクライナに侵攻し、戦争がさらに身近になった今、「戦いはお茶の心に反する。私はね、一番それを危険に思う」と。
困難な時代を生き抜くために大切なことは苦しみの多い人生であったとしても、そういう思いやりの気持ちを失わないで、他の人に対して手を差し伸べていくことではないかと思うのです。
自分の手を使って他の人のために少しでも何かをして差し上げる、その喜びが自分に返ってくる。
その時に人生の本当の幸せを感じられるのではないでしょうか。
みんながみんな、全ての人に優しくなれたら、きっと幸せな未来がやってくるのです。
「ありがたいな、もったいないな」という気持ちを一人でも二人でも三人でも多くの人が持っていただけたら、平和という言葉を使わなくても本当に落ち着いた世の中になっていくのではないでしょうか。
(本記事は月刊『致知』2020年4月号 特集「命ある限り歩き続ける」で人生観、仕事観を余すことなく語り尽くしていらっしゃいます。
結局戦争を止めるのはみんなが人に対する思いやりを持つ事のようです。