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マガジンひとり

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るきさんに異変

2009-07-24 22:25:01 | マンガ
《マンガ本を処分する》ことが、身についた習い性になっている。いったん売り飛ばしたコミックスを再度買い揃えることもしばしば。そんなんで、ふと『るきさん』を見ようと探してみたが、ない。あれ??るきさんを売るかなあ、と。丸尾末広の『少女椿』や花輪和一の『刑務所の中』や岡崎京子の『リバーズ・エッジ』や大越孝太郎の『月喰う蟲』など大切なマンガ本たちと一緒に置かれてた記憶がある。売るはずのない本たち。

よくよく探してみると、だいぶ格落ちして取り出しづらい、大友克洋の『気分はもう戦争』や喜国雅彦の『傷だらけの天使たち』や古屋兎丸の『Palepoli』や魚喃キリコの『blue』なんかと一緒のところから見つかった。売りはしないが、滅多に見ることもない本たち。

オラ中高生の頃こだわりあるマンガ読者から熱く支持されて頭角を現した寡作のマンガ家、高野文子。初期の短編では一作ごとにまったく新しい試みを行い、その完成度も驚くばかりの。ところが、それらを集めた1st単行本『絶対安全剃刀』こそ大切に保存してるが、それ以降わずか5冊しか出版されていない単行本は『るきさん』以外すべて手放してしまった。あやうく残った『るきさん』は、1988年から92年まで女性誌Hanakoに見開き2ページのカラーで掲載され、単行本にもフルカラーで収められている。内容より、その色づかいのきれいさこそ、売らずに残しておいた最大の理由かもしれない。内容といえば、恋愛や流行から超然として生きる独身女性るきさんの、ほっこりオールドタイマーな暮らしぶり。在宅でする医療事務(保険の請求や薬価の計算など)の仕事ひと月分を一週間で終わらせ、図書館へ行ったり切手を集めたり、たまにはバーゲンセールへも、流行にさとい、対照的なタイプの親友えっちゃんと出かけたり、優雅な暮らし。




↑社会保険支払基金が診療報酬明細書を審査している様子

このほど、すべての医療機関を対象に、電子化された診療報酬明細書(レセプト)をインターネット経由で送付しないと報酬が支払われない「レセプトオンライン請求」が義務化されるのだとか。オンライン請求に対応するにはレセコンなるコンピューター一式とネット接続が必要で、導入に200万円ほどかかるため、これを機に廃業する診療所も出てきているという。

さらに病名や医療行為はケースバイケース・千差万別で、たとえば病気を7桁の病名コードに置き換えるのにも、コードが存在しない病名が多数(全体の18%)あるとも。

これまでは手作業で行われてきたんでしょうが、そんなややこしい仕事を、るきさん、いったい在宅で、かつひと月分を一週間で片付けたりできるものでしょうか。そんな都合のいい話があるのか。そう思って、マンガを再読してみようと思ったんです。

高野文子さん自身、重要視していない作品なのだともいい、他の作品がその時点で決定的!というか10年や20年経っても古びない表現が行われているのに比べ、やはりるきさんはHanakoというバブル当時の若い女性向けに消費をうながす雑誌に載せられ、時流に迎合している感はぬぐえない。最終回ではえっちゃんに別れを告げ、切手を売ってイタリアへ旅立つんだけど、ありえねえよ。実家が裕福なんでしょ。オラ現在の無職の生計が、8割ほどを自殺した両親に負っているように。

しかし、ところどころにるきさんとえっちゃんの言葉を通して、高野さん自身のバブル経済への、またバブルに乗っかって暮らす当時の若者への違和感もうかがえるのが、いま再読する妙味というか。「消費者」を「生活者」に言い換える、当時の風潮とか。あるいはDINKS。あったよなァ…そんな言葉。夫婦共稼ぎで、子どもを持たない。子どもを持っちゃったら、お金も時間も子どもに吸い取られるじゃないですか。それを避けて遊びたい若夫婦のエゴを、新しい言葉で聞こえよくして、消費に向かわせようと(元は同時代アメリカのDual Income, No Kids = DINKなる造語)。

もし当時の夫婦たちがちょっとでもそうしたエゴ肯定の風潮に乗っかってしまったんだとしたら、資本の側としては《正社員は長時間労働でこき使おう。そのためにも不安定で最低賃金の派遣社員を増やそう。だって、あんたたち子ども要らないんでしょ》って、なるよな…。
るきさんは、時代を超えて生きられなかった…



るきさん(新装版) (単行本)
高野 文子
筑摩書房

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