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事件番号 平成24(行ヒ)279 事件名 医薬品ネット販売の権利確認等請求事件
裁判年月日 平成25年01月11日 法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
原審裁判所名 東京高等裁判所 原審事件番号 平成22(行コ)168 原審裁判年月日 平成24年04月26日
裁判要旨 薬事法施行規則15条の4第1項1号,159条の14第1項及び2項本文,
159条の15第1項1号並びに159条の17第1号及び2号の各規定の法適合性
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(主要部を抜粋)↓
4 薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬
品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性
を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためである
(最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49
巻6号1600頁参照)。このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性
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や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要
があるところである。なお,上記事実関係等からは,新薬事法の立案に当たった厚
生労働省内では,医薬品の販売及び授与を対面によって行うべきであり,郵便等販
売については慎重な対応が必要であるとの意見で一致していたことがうかがわれ
る。
そこで検討するに,上記事実関係等によれば,新薬事法成立の前後を通じてイン
ターネットを通じた郵便等販売に対する需要は現実に相当程度存在していた上,郵
便等販売を広範に制限することに反対する意見は一般の消費者のみならず専門家・
有識者等の間にも少なからず見られ,また,政府部内においてすら,一般用医薬品
の販売又は授与の方法として安全面で郵便等販売が対面販売より劣るとの知見は確
立されておらず,薬剤師が配置されていない事実に直接起因する一般用医薬品の副
作用等による事故も報告されていないとの認識を前提に,消費者の利便性の見地か
らも,一般用医薬品の販売又は授与の方法を店舗における対面によるものに限定す
べき理由には乏しいとの趣旨の見解が根強く存在していたものといえる。
しかも,
憲法22条1項による保障は,狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の
自由の保障をも包含しているものと解されるところ(最高裁昭和43年(行ツ)第
120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照),旧薬事
法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売
をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであること
が明らかである。これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制
する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの
(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないという
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ためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及
び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規
制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じ
て明確に読み取れることを要するものというべきである。
しかるところ,新施行規則による規制は,前記2(1)のとおり一般用医薬品の過
半を占める第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容
のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその
文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行
うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れて
いるわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬
事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法
当時から実質的に改正されていない。また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売
業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店
舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきである
との趣旨を明確に示すものは存在しない。
なお,検討部会における議論及びその成
果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等
において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等
のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記
のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも
全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して
第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有
していたとはいい難い。そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び
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第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任する
ものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難である
というべきである。
したがって,新施行規則のうち,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一
類医薬品及び第二類医薬品について,① 当該店舗において対面で販売させ又は授
与させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし,② 当該
店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければなら
ない(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,③
郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規
定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度に
おいて,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱し
た違法なものとして無効というべきである。
5 以上によれば,新施行規則の上記各規定にかかわらず第一類医薬品及び第二
類医薬品に係る郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認
を求める被上告人らの請求を認容した原審の判断は,結論において是認することが
できる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美 裁判官小貫芳信) |