T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1555話 「 敬老の日・彼岸前の墓参 」 9/17・月曜(晴・曇)

2018-09-17 14:21:10 | 日記・エッセイ・コラム

 

 今日は敬老の日。

 毎年のことだが、夫婦のふたりの記念品をいただくために、

 8時30分と早い時間に、近くの小学校まで行く。

 今年の記念品は「梅干し」だった。

 これが一番いい。腐ることもなく、毎日でも少しだが薬として頂ける。

 有難く頂戴した。

 老老夫婦がのんびりと生活できていることが、何より幸せだ。

 

                               

 その足で墓参に出かけた。

 秋彼岸の頃は、いろいろと用事が立て込んでくる

   彼岸中に親戚の墓参を予定している。

   エアコンの手入れで業者が来る。

   車の12か月法定定期点検で車屋へ行く予定がある。

   庭の除草と庭の低い木の剪定。

   ダイアモンド婚が近いので、夫婦史を書こうと思っている。

   「下町ロケット・ゴールド」の粗筋をUPしたので、大要の纏める。

   「ファーストラヴ」(直木賞受賞作品)を読んで、粗筋をブログにUP。

   衣更えの整理。

 墓はお寺の中にあるのだが、

 これは除草も掃除をしなくてよいから、高齢者にはなによりだ。

 22日は永代経総法要があり、

 二面あるこのような駐車場も満杯になるようだ。

 

 

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1554話 [ 「下町ロケット・ゴースト」を読み終えて 18/18 ] 9/17・月曜(晴・曇)

2018-09-16 15:23:09 | 読書

下町ロケット・ゴースト

「あらすじ」

「最終章 青春の軌道」

6.(財前は、次にロケットビジネスの支援として農業の分野に向かう)

 快晴の種子島に、3月の風が吹いている。秒速3メートルの南風だ。

 最終作業が行われている射場では、準天頂衛星「ヤタガラス」を搭載した全長56メートルの大型ロケットが発射のときを待っている。

 佃の隣では、いつになく硬い面持ちの財前が、モニタ越しのロケットをじっと見つめている。

 藤間社長がぶち上げたスターダスト計画をプロジェクトリーダーとして支え、コントロールしてきた財前だが、遂にこの「ヤタガラス」七号機の打ち上げで現場を去ることが正式に決まっていた。

「メインエンジンスタート―――」

「リフトオフ! モノトーン」

 抑制された財前の声が聞こえた。

 財前の祈るような目がモニタに映し出されたロケットを追い続けていた。まるで、その雄姿を記憶のスクリーンに刻みつけるかのように。

 機体はみるみる小さくなっていき、すぐに視界から消えて見えなくなる。後には、煙が描く軌道が残るのみだ」

 ………。

「佃さん」

 財前が右手を差し出した。「お世話になりました」

「こちらこそ」

 握手を交わす。財前は、司令塔内にいる一人一人と言葉を交わし、肩を叩いて労(ねぎら)いの言葉をかけて回り始めた。

 ………。

 財前最後のスピーチも終わろうとしている。

「………。私は今回の打ち上げをもって任務を終了し、この現場を去ることになります。今度の行き先は、宇宙航空企画推進グループです。………。

これからの私は、このロケット打ち上げビジネスの価値を知ってもらうために、皆さまの側面支援に回ります。我々の生活にとって、ロケットがいかに重要で必要なものなのか。これはある種の布教活動であり、夢の続きを見るための地ならしのようなものです。今までの10数年、私は皆さんに支えてもらいました。これからの私は、逆にみなさんを支えるために全力を尽くしたい。そのために、私が第一弾としてぶち上げるのは農業です。私は―――危機にあるこの国の農業を救いたい」

「農業………」

 そんな呟きがあちこちで聞こえる。「なんで農業なんだ」。どの顔にもそんな疑問が浮かんでいるように見える。

 しかし、佃は腹の底から湧きあがってくるような武者震いを感じないでいられなかった。

 

7.(退職後、農業に邁進する殿村)

 辞表

 私こと、殿村直弘は、一身上の都合により、株式会社佃製作所を退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。

 大恩ある佃製作所を去るのは断腸の思いですが、退職後は実家の農業を担い、佃製作所で学んだことを無駄にすることなく邁進いたす所存です。

 長い間、本当にお世話になりました。

 

 それを置いて殿村が社長室を出て行った後、佃は机に置かれた辞表を幾度も、幾度も読み返した。

 ………。

 いつも佃の傍らにいて、支えてくれた男―――。

 その男がこの日、佃製作所を去る決断を下したのである。

「苦しかっただろうな、トノ。力になってやれなくて、申し訳ない」

 誰もいない社長室でひとり佃は涙し、頬を震わせた。

 

8.(島津はギアゴーストを退社し、佃の前からもお詫びして姿を消す)

「お時間をいただけないでしょうか」

 ギアゴーストの島津から、そんな電話が佃のもとにかかってきたのは、4月半ばのことであった。

 出迎えた佃に島津は控えめな笑みを浮かべ、「訴訟の折には、有難うございました」、そう深々と一礼した。

「いえいえ、お役に立ててよかったですよ」

 そう応じた佃に、いつか伊丹が礼に来たときの記憶が甦った。勝訴の後のことだ。そういえば、あのときは島津はおらず、伊丹ひとりで来た。そして裁判のこと以外具体的な話は何もせず、通り一遍の挨拶だけで引き上げて行ったのである。

 そういえば、そろそろヤマタニが次期トラクターの仕様を決め、ギアゴースト製トランスミッションの搭載を決める頃だ。佃の期待は、それを機にギアゴーストとの関係を深め、新なビジネスを切り拓くことにある、そのことを話しに来たのだろうか。

 しかし、島津の厳しい表情などから見てどうやら、あまりいい話ではなさそうだな―――そう思った佃に、

「今日は、佃さんにご報告とお詫びがあって参りました」

 そう島津は切り出した。「昨日、ギアゴーストは、ダイダロスと資本提携を結びました。お互いに資本を持ち合い、今後両社は企画、製造、そして営業活動において協力していく旨の契約を締結いたしました」

「なんですって?」あまりのことに佃は動揺し、返す言葉を失った。

 ようやく佃は口を開いた。「伊丹さんからは何も聞いていませんし、ウチは、御社の窮地に社員一丸となって協力を惜しみませんでした。一緒にやっていけると思ったからです」

「皆さんのお気持ちは重々、承知しています」

 島津は悔しそうに唇を噛んだ。「本当に申し訳ありません」

 掛けていたソファから立ち上がるや、深々とと腰を折る。

「どうしてそんなことになったのか、教えていただきませんか」

 島津は頬を固くしたまま、しばし沈黙する。そして、

「伊丹は過去のしがらみから抜け出すことはできませんでした」

 意を決したように経緯を口にし始めた。

 帝国重工時代から今に至るまでの、長い話だ。それと同時に、伊丹と島津というふたりの、前途洋々たる若者たちの青春、その挑戦と挫折の物語でもあった。

「伊丹がダイダロスの重田と組んで何をしようとしているのか、私にはわかりません。ですが、これだけは言えます。私たちが作ったギアゴーストという会社には夢がありました。いままでになく斬新で、快適で、そして乗って楽しいトランスミッションを作ることです。私には車に乗って、家族で出かけたときの楽しい思い出があります。クルマ好きの父がハンドルを握り、私が助手席に乗って母と弟たちが後ろの座席に乗っているんです。その記憶は私にとってかけがえのない財産です。私たちの作るトランスミッションは、人々の夢を乗せて走るためのものであり、そのものづくり本質は、世の中への貢献以外の何物でもありません。ましてや復讐のためでも、過去のしがらみによるものでもない。ギアゴーストは、そんなもののために設立したわけではないんです」

 苦悩に満ちた表情で、島津は訴えた。「ですが、私たちの気持はいつの間にか離れ離れになっていました。伊丹には伊丹の道があるのでしよう。でも、その未知を私は一緒に歩むことはできません」

 そういうと島津はまっすぐに顔を向けた。「本日、私はギアゴーストを退社いたしました。短い間でしたが、大変お世話になりました」

 天才と呼ばれたひとりのエンジニアは、そうして佃の前からその姿を消して行った。

 佃は暮れかかった坂道を遠ざかるその姿を眺めている。

 

      「おわり」

 

 「下町ロケット・ゴースト」は、エンジンメーカーの佃製作所がトランスミッションメーカーも目指して戦った2年間にわたる企業小説だと思うが、今秋発売予定の「下町ロケット・ヤタガラス(佃製作所VS.ダイダロス&ギアゴーストの戦い、完全決着!!)」の「上巻」にもあたるものだと思っている。

 そんなことから、「下町ロケット・ヤタガラス」をよく理解するために、「下町ロケット・ゴースト」の「あらまし」を数日後に纏めてブログにアップしたいと予定である。

 

 

 

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1553話 [ 「下町ロケット・ゴースト」を読み終えて 17/? ] 9/16・日曜(曇・晴)

2018-09-16 12:34:33 | 読書

下町ロケット・ゴースト

「あらすじ」

「最終章 青春の軌道」

4.(勝訴後のギアゴーストと佃製作所)

「特許無効」の勝訴判決が言い渡されたのは、10月最初の金曜日の午後のことだった。

 第一口頭弁論期日での強烈な先制パンチから原告側の主張は論理的にも道義的にも崩壊し、何ら反論の余地もないまま僅かな半年ほどで下された判決であった。判決に先立ち、一昨日には、ギアゴーストから開発情報を流出させた末長孝明、それを指示した中川京一のふたりが不正競争防止法違反の疑いで逮捕されている。

 その夕方、佃製作所の会議室ではささやかな祝勝会が開かれた。

 その席ではいろいろなことが話題になっていた。

 唐木田「もしウチがこの訴訟を引き受ける代わりに株を譲ってもらっていれば、ギアゴーストがタダ同然で手に入ったのに」

 佃「そんなふうに買収しても、騙したみたいで気分が悪いだけだ」

 殿村「社長、儲かるかどうかという以前に、人として正しいかどうかという基準で経営判断されたんです。それは素晴らしいことだと思います」

 唐木田「ギアゴーストの伊丹社長から連絡があって、改めて明日、お礼にいらっしゃるそうです」

 江原「ただ、ちょっとひっかかることを戸倉社長から聞きました」

    (戸倉製作所→佃製作所が親密に取引している会社)

 佃「なにかあるのか」

 江原「伊丹さんが以前、帝国重工でかなり下請けイジメをしていて、伊丹さんから無理なコストダウンを命じられた挙げ句、取引を打ち切られた倒産した会社があるとか。それが社内で問題になり、辞めざるを得ないような状況になったという話でした」

 津野「そんなのを助けちまったのか、オレたちは」

 殿村「どんな理由で帝国重工を辞めたにせよ、いまはウチにとって重要な取引先です。それでいいじゃないですか」

 佃「大切なのは過去じゃない。これからどんな取引ができるかじゃないか」

 共栄していくギアゴーストと佃製作所。一緒に戦った二社にとって、今回のことは名実ともにパートナーとして共存共栄していく貴重な一歩になる―――はずであった。

 

5.(ギアゴーストの行く末?)

 ギアゴーストの祝勝会が開かれ、二次会になった。

 仕事の片付けが残っていた島津は、二次会の終わり近く、会社に戻ってきた。

 しばらくすると、そこへふらりと伊丹が現われた。

「シマちゃんと話したいことがあってさ」、と近くの椅子を引っ張ってきて坐った。

「訴訟になる前、中川弁護士のところへオレと末長さんで最後の交渉に行ったことがあったのを覚えているよな。交渉は決裂したが、事務所を出たあと、オレひとりになった時に、ウチを買収したい会社があるって、中川さんとこの青山さんが追っかけてきて言われた」

 初めて聞く話に島津は声が出ず、黙ったまま、伊丹に先に促す。

「ダイダロスという会社だった。シマちゃんも知っているると思うけど、社長があのーーー重田登志行だった。重田工業のあの重田だ」

 島津も驚きの顔を見せた。重田工業の倒産に伊丹が関わった話は、帝国重工では有名な事件であった。

重田さんから聞いたんだけど、あのときオレを機械事業部から外したのは照井課長でなく、あの的場俊一だったんだよ。あいつがオレを裏切り、オレを切ったんだ。オレはあいつにいいように利用され、捨て駒にされたんだよ」

 静かな怒りに貫かれ、伊丹は虚空を睨み付けている。

「もういいんじゃん。昔の話でしょ。なんで今そんな話するの」

「これからいよいよ始まるからだよ」

 伊丹の表情に、一転、煮えたぎるほどの怨念が宿っているのを見て島津は息を呑んだ。

「きっちり片を付けてやる」 呟くように、伊丹は言った。

「ねえ、ちょっと待ってよ。片を付けるって、どうするつもり?」

「重田さんと一緒にやる。ダイダロスの資本を受け入れ、業務も提携するんだ」

「ちょっと何言ってんの」

 島津はあわてて言った。「佃製作所を裏切るつもり? あんなに私たちのために親身になってくれたんだよ。その思いを踏みにじって、競合する会社と手を組むって言うの?」

 その剣幕にまったく動ずることなく、伊丹は平然としている。

「佃製作所よりダイダロスのほうが将来性は上だ。ウチはダイダロスと組むべきだ。そして的場に復讐する」

「あんた本気?」

 島津は気色ばみ、語気を荒げた。「佃製作所の技術は優れてる。ダイダロスのことは私も知っているけど、ただの組み立て屋。どっちとつきあうべきかは、考えるまでもない」

「ダイダロスは急速に力をつけてる。すぐに技術も佃製作所に追いつくだろう。そのエンジンとウチのトランスミッション。この組み合わせがあれば、無視できない存在になれるはずだ」

「それで何? 目立つ存在になって的場を見返そうとでも考えてるわけ?」

 伊丹に島津は呼びかけた。「目を覚まして、伊丹くん」

「オレは冷静だ、いつだって。たしかに佃製作所には世話になった。だけど、それはそれ。これはこれだ。今後、どっちと組んだ方が社業に寄与するか、少し考えればシマちゃんにだってわかるさ。もう決めたことだ」

「何ひとりで決めてんの」

 島津は声を荒げた。「私、共同経営者でしょ。その意見を無視するの?」

 ふっと伊丹の肩が揺れた。笑ったのだ。そして、

「いやならいいよ。シマちゃんはもう—――必要ない」

 島津は凍り付き、すっと言葉を呑んだまま、ただ伊丹を見つめることしかできなくなった。

   「最終章の6」に続く

 

 

 

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1552話 [ 「下町ロケット・ゴースト」を読み終えて 16/? ] 9/15・土曜(曇)

2018-09-14 13:53:56 | 読書

下町ロケット・ゴースト

「あらすじ」

「最終章 青春の軌道」

3.(裁判、神谷勝つ)

 原告側の代理人席には、中川京一と青山賢吾ら、4人の弁護士がすでに陣取っていた。被告側の代理人席はまだ空席である。

 東京地方裁判所の小法廷。開廷時間は10時。いまは、まだその10分ほど前だが、傍聴人席は原告寄りも被告寄りも予定の顔触れが坐っている。佃製作所の佃も見られる。

 時間少し前に神谷が入室してきた。それを見計らったように判事らが着席し、開廷時間を迎えた。

「原告代理人から訴状と、請求、および請求の原因が提出されていますが、原告代理人、陳述は擬制されますか」

 裁判長の問いに、「そうさせていただきます」、と余裕の表情で中川が答える。

 陳述の擬制とは、そもそも書面で提出しているものを法廷で読み上げたことにするという、いわば省略である。

 通常の第一回口頭弁論期日では、この後、被告代理人が事前に提出した答弁書について同様に陳述を擬制し、次回の期日のスケジュール合わせをしただけで閉廷する、というのが一般的な流れだ。

「被告代理人はどうされますか」

 この一週間ほど前、神谷が提出してきた答弁書には、肝心の特許侵害に関する論点について「争う」としかなく、その根拠すら示されていなかった。

 打つ手無し。そう見てとった中川は、神谷が苦し紛れの時間稼ぎに出るのではないかと予想していた。

「今回は提出期限までに準備書面が間に合わなかったのですが、ようやくまとまりましたので、本日、この場で提出したいと思います。よろしいでしょうか」

 裁判長の許可を得て、被告代理人にも副本が運ばれてきた。さらに、

「争点のみ陳述させていただいてよろしいでしょうか」、と言う神谷の申し出た。

 中川は驚いて、「読めばわかりますが。どうせこの場で回答できませんし」とすかさず牽制した。

 すると、神谷は、申し出る。

「すぐに回答できることも含まれておりまして。非常に重要なことなので、読ませていただけませんか」

 意外な展開になってきた。神谷の主張に裁判長もしばし考えたが、「では、どうぞ」、とその場での陳述が認められた。

「争点のない部分については省略し、答弁書の"三"について読み上げさせていただきます。

三、―――被告ギアゴーストは、原告ケーマシナリーが侵害を主張する当該特許について、無効を主張し、乙第一号証を提出する」

 何をバカな。中川は開いた口が塞がらなかった。

 神谷の陳実が続いた。

「乙第一号証は、東京技術大学栗田章吾准教授が2004年に発表された論文『CVTにおける小型プーリーの性能最適化について』です。実は栗田さんは、一昨日まで海外の学会に出ておられまして、その帰国を待ち、この論文の趣旨についてお話を伺う必要があったことから準備書面の提出が遅れました。ここにお詫び申し上げます。昨日、私が直接栗田准教授にお会いし、乙第一号証の論文について、お話を伺ってまいりました」

 いまその論文のページを乱暴に開いた中川は、そこに記載された副変速機についての内容に取りつかれたように見入った。

 まさか―――。顔をあげた中川の腋(わき)から冷たいものが流れていく。それはまさに、中川が末長からの開発情報に基づいて申請し、取得した特許内容とほぼ一致していたからだ。

 神谷の発言がまだ続く。

我が国の特許法では、出願前にすでに公開されていた発明は特許として認められることはありません。ただし、論文の執筆者だけは論文発表後6か月以内であれば特許申請が認められる―――それが特許法30条ですが、栗田先生はクルマ社会の技術発展のために敢えてそれを見送られました。従いまして、この論文で発表された技術情報は公共の益に帰すべくして公開されたものであり、根幹部分の多くをこの特許に負っている原告側特許は、無効であると主張するものであります」

 まだ論破されてたわけではないと、中川は自分を鼓舞した。たしかに、この栗田論文の副変速機の構造は、多くの部分で内容がかぶっている。だが、まったく同一というわけでなく、そこに新規性を見い出すことができれば特許として成立するはずだ。そこに裁判の争点を移せばなんとかなる―――。

 ところが、神谷の陳述はまだ終わりではなかった。

次に、我々はそもそも原告側の特許申請の正当性について疑問を差しはさむものであります。ギアゴースト製副変速機は乙第一号証論文で発表された構造と技術に、同社独自の解釈とノウハウにより修正を加えたものですが、その修正部分にまで原告側特許が及んでいるのは、極めて不自然な偶然だと言わざるを得ません。ひとつだけ納得できる解釈があるとすれば、ギアゴースト内部からの技術情報の不正な流出であり、その傍証として、この第二号証を提出するものです」

 そう言って、神谷が高々と掲げたものは、ICレコーダーであった。

「いまから3週間ほど前、ギアゴーストの伊丹社長と島津副社長は、末長弁護士のもとを訪れ、本件について相談をいたしました。末長氏は、当時まで被告の顧問弁護士を務めておられました。その際、被告はやりとりの一部始終をICレコーダーに録音しておりまして、それを忘れたまま末長弁護士のもとを辞去し、また10分近く後、取りに戻りました。これはそのときに偶然録音された末長弁護士とある人物との会話の一部始終です。重要なところですので、聴いていただいてよろしいでしょうか。ほんの数分で終わります」

「いまここで聴くのが必要なんですか」

 裁判長の問いに、神谷の視線が真直ぐに中川に向いた。

 中川京一は、見えない手に胃袋を捻り上げられるような苦痛と口から飛び出そうな心臓の鼓動をどうすることもできなかった。

 まさか―――。あのとき何を話したか。オレは。

「はい。本件にとって極めて重要な録音で、いまこの場で聴いていただくことに大きな意味があります」

 神谷の視線は鋼のように鋭く、容赦なく中川を射ている。

「その真偽について当事者に問うことができると思いますので」

「どれほどの重要性かわかりませんがいいですか、原告代理人」

 突如、裁判長に振られ、

「必要とは思いません」 

 かろうじて中川は絞り出した。必死だった。「後でその—――」

 言いかけた中川は、血走った眼を見開き、声の限り叫んだ。

「おい止めろっていってんだよ、神谷 ! 」

 中川の異議を無視し、テーブルに置かれた大型スピーカーからいま大音量で声が流れた。

 ―――ギアゴーストの件ですが、よろしいか中川先生。

 ―――顧問契約を打ち切られた。あんたとの関係がバレた。

    以前、業界誌で対談しただろ。

    そのときのコピーを突き付けて帰って行ったよ。大丈夫なんだろうな。

 ―――情報提供の件、洩れたりしないだろうな。

 ―――神谷だよ。神谷修一だ ! 神谷が顧問についたらしい。

 ―――私から情報提供した件、絶対に漏れないよう、お願いしますよ。

    それと、買収が決まったら、そのの時は約束の成功報酬もらうからな。

 神谷がスピーカーの音源を落とすと、法廷に静謐が落ちた。

「乙第三号証は、この会話の中に登場する業界誌の記事です。ご覧いただきたい」

 裁判長が確かめ、眉を顰めるのがわかった。

「さて、中川先生に伺います。いまの電話で末長弁護士とと話ししていたのはあなたですね、中川先生」

「き、記憶にありません」

「記憶に無いはずはないでしょう。ごく最近のやりとりですが」

「記憶にありません」

 そのひと言をひたすら繰り返す中川を、どれだけ見据えただろう。

「乙第四号証は、末長弁護士にこの録音テープを聞いてもらい、本人と確認した旨の確認書です。同時に、電話の相手が中川弁護士であること、そして中川氏に頼まれ、本件副変速機にかかるギアゴーストの開発情報を提供したこともすでに認めております。仮に乙第一号証に示した論文の内容と比較して当該特許に新規性が認められたとしても、それはこのような不正な手段により獲得されたものであることを証明するものです。私からは以上です」

「原告代理人、いまの指摘についてどうですか」 壇上からの裁判長の問いに、

「次回までに回答します」

 もはや顔面蒼白になった中川はそういうのがやっとであった。

  「最終章の4」に続く

 

 

 

 

 

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1551話 [ 「下町ロケット・ゴースト」を読み終えて 15/? ] 9/14・金曜(雨・曇)

2018-09-14 10:41:43 | 読書

下町ロケット・ゴースト

「あらすじ」

「最終章 青春の軌道」

1.(第一回口頭弁論期日の前日の佃製作所とギアゴースト)

 第一回口頭弁論期日を翌日に控えたその晩、佃は、山崎と殿村に声をかけて、近くの居酒屋でささやかな決起集会を開いた。

「この裁判にはギアゴーストだけでなく、ウチの将来もかかってますからね。なんとしても神谷先生には頑張ってもらわないと」

 山崎が鼻息も荒く、眦(まなじり)を決する。「トランスミッション用バルブが伸るか反るかの大勝負です。とはいえ、裁判に絶対はありません。負けた場合のことは考えておく必要があると思います。どうされますか、社長」

 佃は、決然とした意志を、すでに固めていた。

「ただちにギアゴーストに出資する。そして、ギアゴーストの全員に残ってもらい、佃製作所グループの一員として今まで通り付加価値のあるビジネスを継続してもらうことだ。ウチはギアゴーストと連携し、エンジンとトランスミッション、その両方を世に問うメーカーになる。裁判に勝っても負けても、ウチは前進する」

 断言した佃は、改めて殿村に問うた。「トノ、そのときの出資を了承してくれるよな」

 ぐっと顎を引いた殿村は、「この出資をすれば、ウチの支払い能力はほぼ三分の一に縮小します。それでも出資する覚悟はありますか、社長」

「みんなで力を合わせれば何とかなる。力を貸してくれ」

 山崎が覚悟の面差しで大きく頷く。その一方で殿村の表情を過っていった一抹の揺れに、このとき佃は気づくことはなかった。

 

「明日、いよいよだね」

 社員がほとんどいなくなったギアゴーストのフロアはがらんとしていた。

 島津は改めて伊丹に聞いた。「もしウチが負けたら、佃製作所さん、助けてくれると思う?」

「負けないだろう」 伊丹から出てきたのは、仮設の否定に過ぎない。

私さ、負けても佃製作所と一緒に仕事できるんなら、いいと思っているんだ」

 伊丹は肩を揺すっただけで応えない。

 伊丹は何かをひとりで抱え悩んでいる。

「ねえ、何かあったの」思い切って島津は聞いてみた。

「別に」伊丹の返事には、どこか島津を拒絶する響きすらあった。

 

2.(殿村は佃製作所を辞める決心をする)

 佃から誘われた決起集会は、殿村の心のどこかに消せない苦しみを残していた。

 ―――みんなで力を合わせればなんとかなる。

 その佃の言葉に賛同できない自らの事情を抱えていたからだ。

 先週の日曜日のことである。

 田植えを終えて農道に出ると、痩せて杖を突いた父の正弘がひとりぽつねんと立っていた。

 田植機のエンジンを切り、声をかけようとして殿村はふと、口を噤(つぐ)んだ。

 足下に杖を置いた父が頭を垂れ、静に合掌したからである。

 祈りはなかなか終わらなかった。

 近づこうとした殿村は、その祈りの真剣さに気づいて思わず足を止める。

 それが豊穣を願ってのものだけではないと気づいたからである。これが最後の田植えになるだろうことを父は覚悟している。過去300年にわたり殿村家に実りをもたらしてくれた田圃への感謝の気持ちと、ついにその営みの終焉を迎える無念さを父は忍んでいるに違いない。

 長い祈祷であった。

 それはひとりの老人と自然との、訣別の図に見えた。自然と人間との間に連綿と引き継がれた崇高な結びつきの終着である。

 殿村の胸底から湧出した感情が、そのとき抗いがたい奔流となって胸を衝いてきた。

 オレは、この場所に帰ってくるべきではないのか。戻るべきではないのか、と。

 

 いま、自宅のリビングにいて再びその思いにとらわれた殿村は、すでに散々飲んできたにもかかわらず、冷蔵庫から缶ビールを出してプルトップを引いた。

「呑み過ぎじゃない。何かあったの」咲子がそれとなく聞いた。

「ウチの田圃のことなんだけど、オレ、やろうかなと思って」

 穴の開くほどの視線で殿村を見て、「それはその—――農家をつぐと。そういうこと」、そう聞いた。

「そういうことだ」

「佃製作所の仕事はどうするの」

「辞めようと思う。考えた上のことだが、お前の意見を聞かせてくれ」

「いまあなたが新しいことをやろうというのなら反対はしない。やってみれば」咲子は続ける。「でも、佃製作所に迷惑がかかるような辞め方はしない方がいいと思う」

「わかってる」

   「最終章の3」に続く

 

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