T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1598話 「 謹賀新年 」 1.01・火曜(曇・晴)

2018-12-29 14:08:10 | 日記・エッセイ・コラム

                              

 昨年と同様、今年もブログを覗いてみてください。

 私は、今年も昨年同様に、

 毎日、ブログをアップする。

 毎日、読書と散歩をする。(ブログのネタに)

 毎日、一品の断捨離をする。 

 健康に留意し、実行したい。   

 

 

 

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1597話 「 暮れの仕事 」 12/23・日曜(晴・曇)

2018-12-23 15:11:31 | 日記・エッセイ・コラム

                                                                                             

 暮れの仕事として、昨週、庭の除草、清掃をした。

 昨日は、年賀状を書いた。

 来年は妻と子供の一人が亥の年の生まれだったので、猪の画を描こうかと思ったが、どうも、その気にならず、数十年前に描いた上掲の俳画を利用した。

 今日は、高校駅伝を見ながら、確定申告のために夫婦の医療費を纏めた。

 明日、来年の家計簿、健康データ・行動簿を少し補正しようと思っている。

 その後は、衣類整理、書棚整理をして、

 時間があれば少しずつ、「夫婦史」を纏めていこうと思っている。

 

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1596話 [ 「思い出が消えないうちに」の粗筋 13/13 ] 12/21・金曜(晴・曇)

2018-12-20 14:28:33 | 読書

「あらすじ」

[ 第四話 「好きだ」と言えなかった青年の話 ]

< 詳細なあらすじ >

4.   <菜々子は未来から来た怜司の言葉を怖れていた>

 手足の感覚が戻り、上から下へと流れていた周りの風景もゆっくりと止まりはじめた。

 見ると、カウンターの中に数、向かいで本を読む幸と、厨房には流がいるようだ。

 柱時計は午後6時を少し回っていた。

 怜司は、数に目配せした後、菜々子が来るのを待つことにした。

 念のためにカップに手を当ててみる。大丈夫。熱くて触れないほどではないが、冷めきるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

   カランコロロン

 時間はちょうど6時11分。ぴたりである。

 入って来た菜々子に、数が、

「いらっしゃい」と、声をかけ、そのまま視線を例の席に座る怜司へと向けた。

 菜々子の視線は、数の視線の先を追った。

「あれ ? 怜司 ? え ? もう戻ってきたの」

「いや、俺はまだ東京だけど」

「なに言ってってんの」

 怪訝そうに眉をひそめる菜々子。

 (過去の1週間前、怜司は東京にいたのだ。菜々子の意識は現在なのだ)

「会いに来たんだよ」

「私に」

「そうなんだよ」

「なんで」

「俺が東京に行っている間に、勝手にアメリカに行っちゃってるわけ」

 ここで初めて菜々子は今の状況に気がついたらしく、

「え ? あ、その席。え ? もしかして未来から来たの ?」

 あまりに、いつもの菜々子すぎて、内心、怜司はほっとしていた。

「あ、そっか、未来からってことは、手紙読んだんだ」

 立ったままの菜々子を見かねて、数がクリームソーダをもってやって来た。

「ゆっくりできないと思うけど、せっかくだから」

 そう言って、怜司の向かいに座るように菜々子に促した。それはそのまま、怜司に向けた、(伝えなきゃいけないことがあるなら、早めにね) というメッセージでもある。

 ………。

 (このままじゃ、何のために会いに来たのかのかわからない)

「東京はどう。何にもしてあげられないけど、応援しているから」

 (いつもと変わらない、いつもの菜々子)

「頑張ってね」と、菜々子は言って、クリームソーダに手を伸ばした。

 菜々子が不安そうにしていれば、優しい言葉をかけることもできただろう。しかし、菜々子が想像と違って、いつも通りであることは悪いことじゃない。なのに素直に喜べない自分がいる。心配して過去にまでやって来た自分が馬鹿みたいに思えた。

 (このへんな気持ちを菜々子に気づかれる前に帰ろう)

「じゃ、俺……」

 怜司がそう言ってカップを持ち上げた、その時……

「最後の質問です」という幸の声が聞こえてきた。数に向かっての声だ。

             

   あなたは今、陣痛の始まったお母さんのお腹の中にいます。

   もし、明日、世界が終わるとしたら、あなたはどちらの行動をとりますか。

   ①とりあえず生まれる。

   ②意味がないので生まれない。

                   

「お母さんならどっち」

 幸は、カウンター越しに数の顔を覗き込んだ。

「そうね」

 数は考え込むように首を傾げながら片づけを進めている。

 そんな幸たちのやり取りに怜司が気を取られていると、菜々子の口から、

「ねぇ」という小さく弱々しい声が洩れた。

私、どうなった ?」と呟いた。(私の未来、どうなっていた……。死が怖いの)

 怜司は、菜々子の言った言葉の意味がすぐに理解できなかったので、うつむく菜々子の顔を見つめ続けた。

 無言のままの空気に耐え切れなかった菜々子は、

「うそ、今の忘れて。聞かなかったことにして、ね」

 菜々子はあわてて席を立ち、怜司から距離をとった。

「コーヒー、冷めちゃうよ。早く飲んだら ?」

 背を向けたまま、そう呟く菜々子の声が微かに震えていた。

「菜々子……」

 その瞬間、怜司は全てを理解した。

 (菜々子は手術の結果を気にしている)

 そして自分の浅はかさを呪った。

 (能天気だったのは俺のほうだった……)

 菜々子は、怜司が現われた時から自分の手術の結果を気にしていたに違いない。

 最悪の結果とは、手術の失敗……

 すなはち、死……である。

 菜々子は、

    自分が死んだから怜司が会いにきたに来た

 と、考えたに違いない。

 だから、その未来を聞かないようにするために、あえて明るく、怜司がイラつくほど呑気に振る舞っていたのだ。

「やだ、聞きたくない」

                      

5.   < 怜司の思いが菜々子に通じる >

「お前は……」

「言わないで……」

「俺の嫁になった」

「やだ」

 耳を塞いで叫んだ菜々子の目が、まさに点になる。

「……え ?」

「お前は、俺の、嫁になる」

 怜司は、わざと一言ずつ言葉を切って、押し付けるように繰り返した。

「嘘でしょ」

「嘘なもんか」

「病気は ? 私は、ドナーが見つかってアメリカへ行くのよ」

「アメリカへ行って……」

 (未来のことは誰にもわからない)

「戻ってきて、俺の嫁になる」

 (だから)

「え ?」

「めでたし、めでたしだ」

 (いうだけは自由、俺たちの未来はこれからだから)

 ………。

俺は自分の夢も捨てられない。だから、俺は東京に出る。食えない生活がずっと続くかもしれないけど、お前は俺の嫁になる。なるっていったら、なるのだ」

 怜司はここまで一気にまくしたて、

 (頑張るから、ずっとそばにいて欲しい) と、きっぱり言い放った。

 菜々子は怜司をまっすぐ見て、

「ありがとう」と、囁くと、大きく伸びをした。そして、

「そっか、怜司の嫁かぁ……」と、怜司も驚くほどの大きな声を出した。迷いとか不安とかがパッと消えたかのように清々しい声である。

「お母さんは ① 」

 その時、数が幸の質問に答える声がした。

 怜司と菜々子のやり取りに注目していた幸も、数の突然の返答にキョトンとしている。

 だが、それは数からのサインであった。

 数の目は、(そろそろ時間よ) そう言っている。未来から来た怜司は、コーヒーが冷めきる前に飲み干さなければならない。

「あ、そうか」

 それは菜々子もよく知るルールである。

「早く、飲んで、飲んで」

 菜々子も慌てて怜司にコーヒーをすすめた。怜司も伝えるべき想いは伝え終ったので、思い残すことはない。

「やば、じゃあな」と言って、一気にコーヒーを飲みほした。

「あ、そうだ、これの答は ?」

 菜々子は幸から本を受取って怜司にかざして見せた。

「最後の質問。怜司の答は ?」

 怜司は思い出した。菜々子が「やっぱり死ぬのは怖い」という理由で②と答えた質問である。

 怜司は、ぼんやり薄れていく意識の中で答えた。

「俺は①。とりあえず生まれる」

「① ? どうして」

たとえ一日でも、一日だけでも生まれれてくれば……」

 怜司の体が湯気に包まれる。

「生まれておけば、未来のことなんて誰にもわからないんだから、もしかしら世界は終わらないかもしれない。だから、俺は①」

「そっか。じゃ、私も①」

 菜々子がそう叫んだ瞬間、怜司の体を包んでいた湯気が、ポワッと上昇し、その下から黒服の老紳士が現われた。

 最後の菜々子の声が、怜司に届いたかどうかわからない。

 

6.   < 菜々子の病が治ることを夢見て、東京へ行く怜司 >

 数日後、怜司のもとに菜々子からの絵ハガキが届いた。

 手術後、病室で撮ったのだろう。菜々子はとびっきりの笑顔をこちらに向けている。

 (私は大丈夫) まるでそう言っているかのように……。

 その菜々子の隣には、これまた、いい笑顔の時田ユカリが写っていた。

 今日は怜司が東京に旅立っ日だった。出発前、流たちに挨拶を兼ねてユカリが菜々子と一緒に写るハガキを見せるために立ち寄ったのだ。

「20年前の写真に写ってたり、身を投げようとした女性を助けて未来に行かせたり、ボロンドロンの轟木さんや林田さんと知り合いだったり、雪華ちゃんが過去からやってくることを流さんに言い残したり、おまけに、コレでしょ」

 アメリカで菜々子と一緒に写真に収まっている。

「轟木さんの件なんて、ユカリさんが『芸人グランプリおめでとう』のはがき出してなかったら、どうなっていたかわかりませんからね」

 それらすべてが、神がかっていると怜司は言いたいのだろう。

                           

7.   <菜々子の降訃報が届く。しかし、怜司の心には

      「人は必ず幸せになるために生まれてきていいるのだ」が残っている>

 数か月後、菜々子の訃報が東京に戻った流たちのもとに届いた。

「風花」の雪のように、桜舞い散る春の日だった。

 移植には様々なリスクが伴う。突如、移植した組織に対して菜々子の体が拒否反応を起こしたのである。

 手術が繰り返され、菜々子の体は日ごとに衰弱した。発熱、嘔吐薬による副作用で常人なら堪えられないであろう治療にも菜々子は負けなかったという。

 何か菜々子をそこまで強く支えているのか、両親でさえ不思議に思ったが、それが怜司のあの日のひと言であることは間違いない。

  お前は俺の嫁になる。

 数年後、怜司は5回目の挑戦で念願の芸人グランプリで優勝を勝ち取った。

 菜々子の墓前に立つ怜司の手には、ボロボロになった「100の質問」があった。

 怜司が去った後には、「100の質問」が残さていて、その最後のページに何か挟まれていた。見ると、それは結婚指輪だった。

「100の質問」のあとがきには、

「私は思う。人の死自体が、人の不幸の原因になってはいけない。なぜなら、死なない人はいないからだ。死が人の不幸の原因であるならば、人は皆不幸になるために生まれてきたことになる。そんなことは決してない。 

 人は必ず幸せになるために生まれてきているのだから……」

 と、書かれていた。

                               

    「 終 」

 

 

 

 

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1595話 [ 「思い出が消えないうちに」の粗筋 12/? ] 12.20・木曜(曇・雨)

2018-12-20 10:10:52 | 読書

「あらすじ」

[第四話 「好きだ」と言えなかった青年の話]

<詳細なあらすじ>

2.   < 菜々子は、怜司が上京中に手紙を残して手術のために米国に行く>

 その日の夜……。

「え ? 」

 喫茶店の入口付近でお土産の入った紙袋を持ったまま、怜司はかすかに声を洩らした。

 閉店後の店内で、流、数、幸、そして先が怜司の帰りを待っていた。

「後天性再生不良性貧血 ? 」

 沙紀から聞かされた病名を、怜司が反復する。

「ずっと探していたドナーが見つかったんだって……」

 聞きなれたない病名と「ドナー」という単語が怜司を困惑させる。頭の中が真っ白になった。

(……ずっと ? あいつ、いつからそんな病気に ? なぜ、そんな大事なこと黙ってたんだよ)

 説明された内容に頭が追いつかない。

 沙紀は、その病気について説明を続けた。

「後天性再生不良性貧血っていうのは、……といった病気なの、つまり、新しい血液が作られなくなって生活に支障が出るのね。菜々子ちゃんの場合は軽度だったから、傍目にはわからなかったのよ。重度になると貧血で倒れたり、疲労度、倦怠感に襲われ、放っておくと合併症などで死に至ることも……」

「その病気って、治るのですか」

「私は専門外だから、何とも言えないけど、移植を受けても、完全に治る可能性は五分五分ってところかしら。それに、日本には症例も少ないから、移植については海外のほうがより確実だと思う」

「それでアメリカに」

 菜々子の両親は、菜々子と一緒に渡米しているという。だから、現在、菜々子がどのような状態であるのかは全くわからなかった。

「知らせてくれてもよかったのに……」

「心配かけたくなかったんでしょ。それに、邪魔したくないという気持ちもあったんじゃない。オーディション受かって、これからだって時だったし……」

 沙紀にそう言われて、怜司には、

(確かに浮かれていたかもしれない) という自覚があった。

 脳裏には、なぜか、菜々子が新しい口紅をしてきたあの日のことが浮かび上がる。

 雨の中をわざわざ迎えに来てくれた菜々子。

 その菜々子と一緒に向かって歩いた。思えば、二人きりであることを意識したのは、あれが初めてだったのかもしれない。街の灯りと燃え立つ紅葉の中に菜々子の新作の口紅が映えていたのをはっきり覚えている。

 その時の胸のざわめきも……。

 自分のことは後でいいよと、携帯に出ることをすすめた。

 菜々子の性格を考えれば、間違いなく自分のことは後回しにする……。

 なぜ、あのとき、菜々子の話を聞かなかったか。

 気づくと、数が側に立っていた。

「菜々子さんから預かったものです」と言って、数は一通の手紙を怜司に差し出した。

                 

 怜司へ

 オーディション、合格おめでとう

 ちゃんと言えてなかったから

 ………

 アメリカでドナーが見つかったから

 ちょっと手術に行ってきます

 幼馴染だから、怜司にもちゃんと話しておこうと思ったんだけど

 怜司、オーディション受かって

 大事な時だから、邪魔したくなくて言い出せなかった

 私は世津子さんにはなれそうにないから……

 ごめんね

 ………

 ネタはちっとも面白くないのに怜司がオーディションに受かったのは

 神様が気まぐれでくれたチャンスだから

 このチャンスをしっかり掴んでね

 いつまでも応援しているよ     菜々子

                               

 読み終えて、「私は世津子さんにはなれそうにないから……」の一文だけを怜司は小さな声で呟いた。

 なぜ、菜々子は世津子と比較して「世津子になれない」などという言葉を残したのだろうか。

 世津子は、轟木の芸人としての才能を愛し、信じ、そして、どこまでも献身的に支え続けた。東京へ出る際も一緒について行くほど行動力のある女性だった。彼女の生き方は迷いはなく、自信に満ちている。その生き方は、同性である菜々子の目から見ても格好良く憧れに値した。

 しかし、根本的に世津子とは性格が違うのだから、比べられるものではなく、まして、お互いの気持ちを分かり合った相思相愛の轟木と世津子と違い、怜司と菜々子はお互いをただの幼馴染みだと思っている。

 だからこそ、菜々子は世津子になりたかったのだ。

 もし、世津子の話を聞いていなかったら、怜司に対して普通の付合いでおれただろう。

 だが、世津子の愛の行動を知ってしまったのだ。そして、憧れてしまった。

 愛する男性に人生をかけて寄り添う世津子の生き方を、自分の生き方と比べてしまったのだ。

 比べてはじめて怜司への想いに気づいたのだ。

 それが、あの日、口紅を変えた理由であった。

 菜々子が二人の関係に一歩踏み出そうと思った日である。

 なのに……。

 人生には「間の悪さ」に影響される時がある。この時がまさにそれだった。

 菜々子が自分の気持ちを確かめようと勇気を出して一歩踏み出そうとしたその矢先、怜司の携帯が鳴った。

 二人はお互いの気持を確認することなく、一方は東京へ、もう一方はアメリカへと旅立ってしまった。離れた距離はあまりに遠い。

 怜司は、読み終えた手紙を持ったまま、近くのテーブル席に腰をおろした。

(連絡が取れるなら、今すぐにも菜々子の声が聞きたい。飛んでいけるのであれば、飛んでいきたい。でも行ったところで、俺に何ができる ? 今はこんなことで立ち止まっている場合じゃないだろ。やっとオーディションに受かって、巡ってきたチャンスだろ)

 今は自分の夢を優先するべきだと自分に言い聞かせて、顔をあげるも、手に持っている手紙が視界に入ると心が揺れる。

(でも、もし、二度と会えないとしたら)

(夢をつかむためには何かを犠牲にしなきゃならない時だってあるだろう)

(………)

(菜々子と夢、どっちが大事なんだ)

(どうしたらいいのか。わからない)

 怜司は両手で顔を覆い、深い、大きな深呼吸をした。

 その時である。

「怜司お兄ちゃん」

 目の前で、幸の声がした。

 怜司は、幸から、(もし、明日、世界が終わるとしたら、どうするの) と問われているような気持になった。

 幸が何度も何度も口にしていた本の文言である。

「明日、世界が終わるとしたら……」

 怜司が独り言のように呟いた。

 そのとき、ふいに黒服の老紳士が席を立った。

                           

3.   <怜司は自分の思いを伝えるために、1週間前の過去に行く決心をする>

 音もなくトイレの扉が勝手に開き、黒服の老紳士が吸い込まれるように姿を消した。

 怜司は、老紳士がいなくなった席を見つめたまま言った。

「あいつ(菜々子)が、最後にこの喫茶に来たのはいつですか」

 (会ってどうする)

 怜司の心には、まだ、そんな迷いがある。しかし、そんな感情とは裏腹に、怜司の足は例の席に向かっていた。

 数は、まるで怜司が過去に戻ることを前もってわかっているように、

「たしか、1週間前の11月6日、午後6時11分……」と、細かい時間を指定し、続けて、「幸と一緒にいるはずよ」と告げた。

 怜司は、「わかりました」と言って例の席に腰をおろした。

 (会ってどうする ?)

 でも、菜々子の手紙を読んでから心をざわつかせている衝動がある。

 (確かめたい)

 目を閉じて深呼吸をする。

「さっちゃん」

 怜司は、数のそばに控える幸に声をかけた。

「コーヒー、淹れてくれるかな」

 幸は数を見上げて指示を待った。

「準備してきなさい」と、数に言われて厨房に消えた。

 怜司の心の中に、再び迷いが生まれる。

 (会ってどうする ?)

 気持かが重く沈んで行くのがわかる。

 準備を終えた幸が、厨房からカップとケトルをトレイに乗せて戻ってきた。

 (どうせ、何をやっても現実が変わることはないのに……。やめるなら今しかない)

 ここにきて、後ろ向きな感情が重たい空気となって怜司の周りにまとわりついた。

「あ、忘れた」

 突然、幸が小走りで階下に降りてすぐに戻ってきた。ただ、その手には例の「100の質問」が握られていた。

「菜々子お姉ちゃんが、怜司お兄ちゃんに返しておいてって」

「……あ」と、怜司は本を手に取ってみて思い出した。確かに菜々子に貸して、ずっと幸が使っていたのだ。

 借りたものを返すという何でもない行為ではあるが、そんな行為の中に、

 (二度と会えないかもしれない) という気持ちが菜々子にあったんじゃないか、と……。

「全部やったの ?」

 怜司はその本を見つめながら、幸に尋ねた。

「うん。菜々子お姉ちゃんが、暫く会えなくなるかもしれないから最後までやろうって」

「ここに(最後に)来た日に ?」

「うん」

「あいつは、菜々子は、最後の質問どっちを選んだか覚えてる ?」

 (確かめたい。菜々子がどんな気持ちでいたのか)

「うん、覚えているよ。確か、②」

「そっか」

 (やっぱりな)

「なんでって聞いたら、やっぱり死ぬのが怖いからだって

 菜々子が残した言葉を聞いて怜司の表情が変わった。

 (俺たちの未来は、まだ、どうなるかなんてわからない。俺は、すぐにでも菜々子の顔が見たい。あいつが不安な気持ちでいるなら何か声をかけてやりたい。大丈夫だって言ってやりたい。お前は世津子になる必要はないって言ってやりたい)

 怜司は、自分の心の中で完全に開き直った。

「さっちゃん、教えてくれてありがとね。勇気が出たわ」

 いつもの怜司が戻ってきた。

 幸も、怜司の表情が戻ってきたことを感じ取って、「うん」と、声を弾ませた。

「じゃ、コーヒーよろしく」

 幸はそれに応じて、銀のケトルを持ち上げると、

「コーヒーが冷めないうちに」と、囁いた。

 カップに注がれたコーヒーから一筋の湯気が立ち上る。同時に、怜司の体も真っ白な湯気となって天井へと吸い込まれるように消えた。

 そんな様子を黙って見守っていた沙紀が、

「ちゃんと告白して戻ってくるだろうか」と言った後、「ところで、最後の質問ってどんな内容だったの ?  あれ聞いたあと、怜司くんの表情が明らかに変わったように見えたけど ?」

 数が答えた。

   あなたは今、陣痛の始まったお母さんのお腹の中にいます。

   もし、明日セ゚世界が終わるとしたら、あなたはどちらの行動をとります。

   ①とりあえず生まれる。

   ②意味がないので生まれない。

「なるほど、②を選んだ菜々子に、怜司はどう話をするだろうか」と沙紀が呟く。

 

 「4.   <菜々子は未来からきた怜司の言葉を恐れていた>」に続く

  

 

 

 

 

 

 

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1594話 [ 「思い出が消えないうちに」の粗筋 11/? ] 12/19・水曜(晴・曇)

2018-12-19 12:50:49 | 読書

「あらすじ」

 ※ 「話」の中で「ポイントになると思われた部分」を薄緑色の蛍光ペンで彩色した。

 ※ 「話」の中で「心を打たれた部分」を薄黄色の蛍光ペンで彩色した。

 ※ 「話」の中で「私が補足した文章等」を薄青色の蛍光ペン彩色した。

[第四話 「好きだ」と言えなかった青年の話]

 <主要人物>

  小野怜司、松原菜々子

 < 概要 >

 怜司と菜々子は、幼馴染みの同じ大学の学生で、両思いだが、お互いに気づいていなかった。

 怜司は芸人のオーディションに合格し、今後の東京での生活の準備のために東京に行っていた。

 菜々子は、数年前から発症していた後天性再生不良性貧血の移植手術のために、怜司が留守の間に、怜司には伝えず手紙を残して渡米していた。

 函館に帰って来た怜司は、相手のことを思いやる菜々子の性格を知っていても、驚くとともに、自分が浮かれていたことを反省する。

 怜司は、菜々子が置いていった手紙を見て心配する。それは手紙の中の「私は世津子さんになれそうにないから、ごめんね」と書かれていた一文で、考えてみると、自分に対する愛の告白だが、病気でどうすることもできないといったものだ思った。

 もう一つは、幸から告げられた菜々子のことで心配する。それは、菜々子が喫茶ドナドナに最後に来た1週間前の日に、例の本の「100の質問」の最期の質問に、自分の死を予感して「死ぬのが怖い」という気持から、

  あなたは今、陣痛の始まったお母さんのお腹の中にいます。

  もし、明日世界が終わるとしたら、あなたはどちらの行動をとりますか。

  ①とりあえず生まれる。

  ②意味がないので生まれない。

といった質問に②と答えた。

 迷いながらも怜司は、菜々子の死の不安解消と愛の告白に答えるために、1週間前の過去に時間移動して、菜々子に会う事を決意する。

 菜々子は、未来から来た怜司から自分の手術の結果が思わしくなかったことを告げられるものと思い込んでいたが、「俺の嫁になるのだ。俺たちの未来はこれからだ」と告げられた。

 しかし、現実は、数か月後、菜々子の訃報が怜司のもとに届く。だが、幸せの気持を抱きつつ死んだのだろう。その日は、函館の「風花」の雪のように、桜舞い散る春の日だった。

 <詳細なあらすじ>

 1.   < 序章 >

 この年の函館の初雪は11月13日で、平年より10日ほど遅かった。

 雪は晴天の空からはらはらと降ってきた。俗にいう、「風花」である。

 喫茶店の窓からも、青い空と、紅葉の赤に雪の白とで、色鮮やかな美しい景色を楽しむことができた。

   カランコロロン

 入って来たのは布川麗子だった。

 麗子は妹の死を受け入れられず、睡眠障害を起こし、先月まで精神的に不安定な時期が続いていた。だが、過去からやって来た妹と交わした「笑って生きる」という約束をきっかけに病状は好転する。今は顔色もよく、キャスター付きの旅行鞄を引きずって現れた。

 麗子はマモルと婚姻し、マモルの故郷の徳島に行くことになり、函館を離れるようになったのである。そのための挨拶で喫茶店に現れたのだ。

 店には、時田流と数、幸がいて、村岡沙紀先生もいたのだが、麗子が来るのを知っていてカウベルの音を聞いて、厨房に隠れたのである。

 流たちに麗子は、「本当にありがとうございました」と言って深く頭を下げた。

 数が、「先生に伝言があれば伝えておきます」と告げると、麗子は「私も幸せになります」と、はっきりした口調の後に、そのように伝えてください」と付け加えた。

「では……」と、麗子は丁寧に頭を下げると、名残り惜しそうに店を後にした。

   カランコロロン

「挨拶、されなくてよかったんですか」

 麗子がいなくなったころ合いを見て、流が厨房に向かって声をかけた。

「苦手なのよ、見送りとかてんてん」

 そう言いながら沙紀が厨房から姿を現した。

   ボ……オーン

 柱時計が午後2時半を知らせる鐘を打った。

「そういえば、今日じゃなかったっけ ? 一度戻ってくるんでしょ、怜司くん」と沙紀が数に訊ねた。

 オーディションの合格通知をもらった怜司は、翌日には芸能事務所との契約と家探しのため上京している。その行動に一切の迷いはなかった。そして、怜司の目には、叶いかけた夢意外何も映っていなかった。

「はい」

「彼は知っているの ? 菜々子ちゃんのこと……」

「恐らくは、知らないと思います」と数は答える。

 実は、怜司が東京へ発った直後、数たちは菜々子が数年前から後天性再生不良性貧血という病気だったことを知らされた。偶然、このタイミングでドナーが見つかり、急遽、渡米することになったのだ。

「だよね」

 と言って、沙紀は、さっき階下に降りた幸が置き忘れていた「100の質問』を手に取って、あるページを開いた。

                     

  第87問

 あなたには、今、10歳になったばかりの子供がいます。

 もし、明日世界かせ終るとしたら、あなたはどちらの行動をとりますか。

 ①本当のことを言ってもわからないと思うので黙っておく。

 ②本当のことを黙っておくと後ろめたい気持ちになるので正直に話す。

                           

 これは、以前、菜々子が答えていた質問である。

 菜々子は自分の子供を無駄に怖がらせたくないという理由で「①」を選んだ。

「自分が悲しむのはいいけど、自分が悲しむのは見たくない」からである。

 沙紀はその頁を見つめながら、

 (人を思いやる、菜々子ちゃんらしい意見だった) と、振り返る。

 だが、一方で、精神科医という立場から、

 (相手の気持ちを考えすぎて、自分の気持ちを抑え込んでしまうタイプ)

 という見方もしていた。

「菜々子ちゃんの立場からいえば、夢を追ってる怜司くんの邪魔をしたくなかったってのはわかるけど、怜司くんからしてみれば、それで納得できるかどうか……」

 そう言いながら、沙紀は納得できるわけがないと考えていた。

 なぜなら、二人が両思いであることを、沙紀は、そして、おそらくは数も見抜いている。本人同士だけが、お互いの気持について気づいていないのだ、と。

「病気のことは、私たちの口から説明できるからいいけど……」

 沙紀は、そう呟いて本を閉じた。

「そうですね」と、数は窓の外の「風花」を見つめながら答える。

 

  「2.   <菜々子は怜司に手紙を残して手術のため米国に行く>」に続く

 

 

 

 

 

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