T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

母親の命日!

2013-11-29 09:22:42 | 日記・エッセイ・コラム

 

Etou002


 

 昨日の11月28日は母親の命日。

 死亡した昭和47年の当日は小雪が舞ったとても寒い日だった。

 享年62歳の若死にで、私は数日、泣いていたことを覚えている。

 父親の戦死で、母親は30歳半ばから苦労したので、早死にしたと思っている。

 終戦の年とその翌年なんか、母親は、男の子4人を育てるために、

    数キロの山道を歩いての行商、山仕事、裁縫と、

       夜、布団の中で寝ているのを見たことがないくらい働いていた。

 

 数日前から気温も下がって曇りの日が多いと、インターネットにでていたので、

 少し早目の22日、菩提寺へ墓参に行った。

 小春日和で、空はぬけるように青く晴れていて、母親が喜んでいるように思えた。

 

 今年のお寺の公孫樹の葉には温暖化のせいか、まだ少し緑が残っていた。

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池井戸潤著「下町ロケット」を読み終えて! -8/8-

2013-11-28 09:22:45 | 読書

              故郷の紅葉(2013/11/21)

Sionoemomiji19


                                                                                                                   

(第七章 リフト・オフ)

(1)

 年明けの1月7日、航平と山崎は、茨城県にある帝国重工の試験場にいた。

 この日、ここで、「モノトーン」の燃焼実験が行われることになっていた。佃製のバルブの一通りの品質試験をパスし、製品供給の道を拓くための最後にして最大の関門だった。財前が二人を自社の研究者たちに紹介して行く。

 準備が完了し、マイクを通じて富山の声が実験開始を告げた。「エンジン、点火。」と富山の声が聞こえて150秒を経過した時、「タンク内、圧力異常!」マイクを通じた富山が叫んだ。

 バルブの作動状況を示すデータの異常値がモニターに映し出された。燃焼実験は完全に失敗に終わった。

(2)

 翌日、筑波の帝国重工研究所で検証が行われ、従バルブの不作動が原因だと結論付けられたが、佃製作所の意見はと、富山から問われた。

 『航平は、燃焼実験後のバルブを、弊社の検証チームが分解の上調査したが、原因は特定されなかったと答えた。帝国重工の茂木という中年研究者が特定してもらわないと困ると言うので、航平は、御社の制御プログラムはどうですかと反論した。富山が、プログラムは問題ない、他人のせいにするんじゃないと言う。航平は富山の言葉に動ぜず゛、御社の他の部品を見せてくれと言う。冗談じゃないという富山との押し問答の中に、財前が入り、「スケジュールは待ってくれない、原因の特定が先だ。納得するまでやってもらいたい。」と発言した。』

 帰路の車中で、耳にしたと山崎が、もし、ウチの部品が原因だった場合は実験費用とスケジュール遅延費用を補償させようという話が出てきていると、航平に告げた。航平は、数億円になるかもしれないと言いながらも、ウチの技術力を信じようと言う。

(3・4)

 『予定通り、帝国重工研究所で航平と山崎たち技術開発部の技術者6人が再検証に臨んでいた。三日経っても原因が掴めず、技術者を5人増やして何度もやり直した結果、拡大鏡でも見えにくい二酸化ケイ素の粒子がバルブ内フィルタに付着していた。

 そのフィルターは航平に失礼なことを言った茂木たちが作成したもので、予備フィルターのロットをランダムに調査すると、それにも付着していた。』

 『佃製作所で試験した時は自社で作成したフィルターを使ったので試験はパスしたのだが、少しでも帝国重工製品を使いたいとの富山の強い希望で、取り換えての燃焼実験だったのだ。』

 『結局、ウチのミスか。お粗末な話だと水原は嘆息した。』

 財前の採用すべきです、本部長と言う言葉に、水原は最大の難関が残ったな、どうやって藤間社長を説得するかと、財前の顔を見る。

 財前は、藤間社長もロケット打ち上げ失敗の過去があり、佃社長と結びつきますので、その線から説得しますと言う。

 帝国重工の役員会で、スターダスト計画に、佃製作所のバルブ採用が議案にのぼった。財前の思い通りに、藤間社長はセイレーンの打ち上げ失敗のことをよく知っていて、その原因と担当者の佃もよく覚えていた。その佃が開発したバルブシステムの性能の高さのデータから世界的優秀さを認め、もし、他社が採用したら、圧倒的優位の下で宇宙航空戦略を推進するという藤間がぶち上げたスターダスト計画が骨抜きになると理解して、内製化方針の例外を認めた。

 佃製作所の社長室には、航平と各部長が帝国重工の財前からの報告を待っていた。

 『津野が、採用が決まったら「佃品質」から「ロケット品質の佃」にキャッチコピーを変えましょうと言う。また、殿村が、きっといい風が吹きますよと言う。彼らの言葉に航平は頷き、この一年を振り返った。社員の努力で、小口の売上げは増え続けていて、会社の安定性を考えると、「一度に剥げない小口売上げというのは会社の土台になる」、この一年で航平が学んだことの一つであった。』

 『テーブルの上に置いていた航平の携帯が鳴った。財前からの朗報だった。津野が立ち上がり、さっきから社長室の外で待機していた社員たちに「来たぞー!」と叫ぶと、多くの社員が社長室になだれ込んできた。』

(5・6)

 佃のバルブを使った"モノトーン"の最終燃焼実験に成功し、殿村の「佃品質と我々佃プライドに、万歳」の音頭で、万歳三唱が大田区の小さな本社屋に響き渡った。

 数日後、「挑戦の終わりは、新たな挑戦の始まりだ。」、航平のそんなスピーチの祝賀会には、顧問弁護士になった神谷やナショナル・インペストメントの浜崎も同席していた。

 それから数日して、航平のもとに一通のメールが入った。真野からだ。航平が三上教授に頼み、山崎を通じて大学の研究所の助手に推薦したのだ。その真野から、お礼の文章の後に、今、最新医療機器の開発チームに配属されているが、人工心臓の開発に携わって者との検討会で、心臓弁の動作に佃製作所のバルブシステムの技術が応用できると思いましたと、貴重な情報を知らせて来た。航平は、急ぎ山崎を呼んだ。

 

(エピローグ)

 種子島宇宙センターの発射管制室には、打ち上げにゴーサインを出す執行管理者の財前がいる。航平もいる。

 『山崎の最終チェック完了の合図に、航平は成功を信じて、山崎の心配をよそに、山崎や作業が済んだ社員たちに、会社の連中が待っている展望台に移動しようと誘って、腰を上げた。

 展望台では数十人の社の幹部や若手社員にも囲まれた。航平は若手が積極的に種子島までやってきてくれたことが嬉しかった。』

 旅費は全員分を会社が負担し、記念すべきイベントになった。

 「モノトーン、点火。」「固体ロケットブースター、点火。」山崎が叫ぶ。

 「行け! モノトーン! リフト・オン!」航平は震える声を張り上げた。

 「上がれーっ!」と殿村が叫び、江原が絶叫した。

 「第二エンジン、点火。」再び財前の声がスピーカーから流れた。

 航平は社員たちに「必ず成功する、必ず。」と言う。その声に続くように、その報告の財前の声がスピーカーから流れた。

 『航平は、打上げが成功したら、気の利いた演説をしようと思っていたが、胸にこみ上げてきた喜びと興奮で航平の脳は思考停止し、出てくるのは、ただ感謝の言葉だけだった。』

 

                                                                                             終

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池井戸潤著「下町ロケット」を読み終えて! -7/8ー

2013-11-27 08:54:27 | 読書

           故郷の紅葉(2013/11/21)

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(第六章 品質の砦)

(1~4)

 テスト第一段階の打ち上げ会の場から、仕事を片付けようとデスクに戻った埜村に、同様に先に戻っていた立花が、品質テスト用の試作品バルブを置いていた倉庫で見つけたのだと、木箱には整理番号がないが、中に入っていた試作品バルブにはロットナンバーが打たれていたものを見せた。出荷管理票には出荷隅のチェックが入っていたので、念のために帝国重工の受け入れ担当に電話したがつかまらず、山崎部長に連絡した。そして、明日の朝一番で帝国重工の研究所まで届けることにした。その直後、帝国重工の若手技術者の浅木から、動作テストで異常値が出ていると電話があった。航平はあれだけテストしたのにと言葉を失った。

 犯人は真野で、不合格品にロットナンバーを入れたのだ。これで晴れてテストは不合格で良かったでないかと言う。江原が、部品供給とか使用許諾とか、そんなことは関係ないのだ、帝国重工に負けたくない佃のプライドのために戦っているのが判らないのかと、午後10時過ぎのことだったが、江原は立花を連れて、正規の納品を持って研究所に車を走らせた。

 品質テストに携わっていた浅木に事情を話すが、該当ロットナンバーの異常値は、既にテスト責任者の富山に連絡済みで、富山からは再テストの許可は出なかった。浅木は組織の論理で動いていてルールを破ることはできないことは理解していたが、ちょっと待ってくださいと外に出て誰か(財前)に電話をし始めた。 『戻ってきた浅木から、話つけましたからバルブお預かりしますと言った。江原が大丈夫ですかと心配すると、浅木は、佃製作所さんと仕事がしたいと思って、一兵卒なりに組織に抵抗してみました。お蔭で徹夜で再テストですと、笑って奥へ消えた。』

(5)

 すいませんでしたと言うが、不満な真野はふて腐れていた。航平が何の不満があるのだと言うと、主流の小型エンジンのほうに資金と人材を回すべきではないか、俺たちがいくら開発に頑張っても、何の評価もされない、理不尽だと言う。

  『航平は親の気を引こうとして悪戯をする子供と同じでないかと思い、お前には夢はないのか、俺は、仕事は二階建ての家みたいなものだ、一階部分は飯を食うための仕事、それだけでは窮屈で、仕事には夢も必要だ、それが二階部分だと言う。真野は青臭いと失笑する。航平は、人を馬鹿にする前によく考えてみろ、お前がしたことは他人の夢を壊したことだ。俺はそんなことをする人間を絶対に許せないと言う。』 真野は、制約ばっかりの環境で夢を持てと言う方が可笑しい。俺は止めさせてもらうと社長室を出て行った。

(6)

 富山は、データを併記した報告書を、財前経由で水原に提出しようとすれば、財前によってもみ消されてしまうので、水原も出席する事務連絡会議に配布して、佃が最初に納入した試作品の一部に動作不良品があったことを我々が確認した後、佃から不良品だったロットと同じロットを再納入してきたが、その管理体制は如何なものかと思います。本部長の御判断をお願いしますと言う。打ち切るかと言う本部長の一言に富山はニンマリするが、財前が、納入ミスなどという理由で製品受け入れを断れば、佃側も態度を硬化させる可能性があり、特許使用を許可するとは思えませんと言う。

 『本部長自身も別ルートで佃社長の意向を揺るがす交渉をしていたので、富山に、テストが不合格になる可能性があると匂わせて、もう一度特許使用を打診してみてはどうかと指示した。

 富山が、佃社長に、上が納入ミスを重視してテストを中止しているという言葉に対して、財前が予想したように、つまらん理由を付けて製品供給を拒絶する相手より、譬え外国企業であれ、製品として正しく評価し受け入れてくれるところと取引すると、はっきりと言った。』

 富山の報告に、水原は、それが君の交渉結果か、もういいと言う。

 水原は、自分が画策していた策略について、その後の様子を聞くために知人の三木教授に電話した。

 『水原は、一度研究に取りつかれた者は、その呪縛から解き放たれることは難しい。かっての夢を追ってバルブシステムを開発した佃航平の執念に、水原は、抜けきらない研究者魂を見出したいた。』

 『そのため、航平の同僚であった三木教授を介して、佃航平にマトリックス社の須田から会社を売らないかと持ちかけ、三木が教授の席を用意するといった、大がかりな舞台装置をしかけていた。』

 『三木の返事は、7年という年月があいつを変えて、今、彼は社員200人の将来を考える夢を持った立派な経営者なんです。彼をよろしくお願いしますと言うことだった。』

 水原は私の負けだなと呟き、自分の結論に与し易い富山を利用していたことを反省し、財前に、途中からで申し訳ないが、君のほうでテストを続行管理してくれと告げた。

 

                              次章に続く

 

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池井戸潤著「下町ロケット」を読み終えて!ー6/8ー

2013-11-26 13:16:33 | 読書

               故郷の紅葉(2013/11/21)

Sionoemomigi007


                                                                                                            

(第五章 佃ブライド)

(1~3)

 帝国重工の評価チームの来社を明日に控えた夜、経理部では、まだ入念な資料を作成していた。航平が殿村にどうだと聞くと、京浜マシナリーの関係で営業赤字を脱していないのが問題だと言う。

 評価チームのリーダの田村と溝口は、相手が中小企業と見て上から目線でケチをつける。クリーンルーム化が大袈裟だとか、試作品を手作業で作るのは現実的でないとか、大工場の工程管理の理想論を振りかざしたり、また、営業赤字の解消見通しの予測を述べると、そんな話は、半値八掛け二割引だと言ってみたり、大勢の株主の批判にさらされることのない零細企業だと、その程度のものかもしれないとか言われる。

(4)

 昼を挟んで8時間近くに及んだ初日のテストが終了した。

 低迷している財務、赤字を脱することのできない営業、さらには、生産管理に及ぶまで、言いたい放題、言われた佃側にしてみれば、まさに敵兵に蹂躙され、惨敗の様相を呈した初日といっていい。

 津野、殿村ら部長たちは、評価員は中小企業のことが分かってない、理想論を口にされても現実に即していない、批判的かつ自己中心的で正しい評価とはいえないとか、語気を荒げて批判していたが、殿村が、話題を変えて、ウチの会社はそんなに悪い会社だと思いますかと皆に問うた。皆は、いい会社に入るだろうと言う。

 『殿村が自分の判断を話し出した。数千もの会社を見てきた私の眼から見ても、佃製作所は立派な会社で、今までの利益の蓄積も厚いし、潰れる会社でなく、赤字は長く続きません。数字は嘘をつきません。田村という担当者が悪意の評価をしても、帝国重工にもきちんと数字を読む人間はいるはずだ。今回のテストは、ウチへのテストを通じて、帝国重工を評価する機会でもあるんです。もし、正確に評価できないような会社であれば、そんなところとは付き合わないほうが良いと思います。ですから、社長、ウチの大事な特許を預けることなどできませんと言う。』

 『ありがとうな、殿村さんと航平は心から礼を言った。殿村は、それより若手をフォローしてやらないと彼らも落ち込んでいるからねと、付け加えた。』

 『おなじ時間、12月の肌寒い夜気が脚に忍んでくる喫煙休憩室にいた江原が迫田に、バルブの分野での技術力ではウチのほうが上なんだ、舐められる筋合いじゃない。偉そうな顔をして、あらを探して指摘することが検査なのか、違うだろうと吐き捨てる。迫田も、皆に卑屈になることはないと言ってやれ、俺は部品の供給云々とは切り離して考えることにしたと言う。』

 『翌日、航平が朝早く会社に行くと、二階の階段の踊り場に、「佃品質。佃プライド。」と書かれたキャッチフレーズのポスターが貼ってあった。』

 『事務室に駆け込むと、江原が若手に声かけて徹夜でテスト対策をしてくれたようですと殿村が説明した。航平は、ご苦労さんと胸に熱いものが込み上げた。』

 『二日目のテストには、佃の社員に世界的技術力を持つ佃のプライドがみなぎり、毅然とした態度でテストに臨んでいた。』それに反して、田村や溝口の質問には依然として小馬鹿にした高圧的な言葉がたびたび出てきた。

 中小企業レベルの管理会計の資料だと言われて、佃の社員は、確かに中小企業だが数字に間違いはないと反論する。鉛筆を舐めて出した予測でないかと言われて、帝国重工はそんな方法も取り入れるのですかと問うた。そのような状況の中で、売り言葉に買い言葉で、田村が、部品供給だなんて分不相応なことを言っていないで、特許使用契約にしておけばお互いにテストのための無駄の時間が省けただろうになと言った。

 『殿村が中に割って入って、何か勘違いされていませんか田村さん、こんな評価しかできない相手に、我々の特許を使っていただくわけにはいきません。そんな契約などなくても我々は一向に困ることはありません。どうぞお引き取り下さいと言った。』田村は単に一般論を言ったまでだと精一杯の負け惜しみを言った。

 『技術開発現場で、溝口から、作業用デスクに並べられた小型エンジンパーツを前にして検査ですかと質問されたので、山崎がナカシマ工業と弊社のを比較検討しているのですと答えると、溝口は佃のパーツを手にして、ナカシマのはさすがだが、そちらのは60点だと言うので、山崎が反対ですと言うと、溝口は当たり外れもあると言うので、山崎が製品として市場に出す以上、単なる当たり外れでは済まされませんときっぱり言った。』

 しかし、傍で、溝口の部下の浅木という若い社員が、素晴らしい技術だ、まさに佃品質だと感心していた。

(6)

 佃製作所の二階で、テスト第一段階の終了をねぎらって、本社社員全員が集まり打上げ会が開かれ、江原の司会でビールが注がれた。 『江原が、乾杯の音頭は殿村部長のあの啖呵、最高でした、よろしくお願いしますとの言葉に盛大な拍手が送られた。』

 『航平は、途中会場を抜け出して、昔、同僚だった大学教授の三上に電話した。せっかくの話だったが、今回の件、お断りするよと言う。航平は続けて、俺はウチの会社で、社員と夢を追いかけてみるよ、マトリックスの須田さんにもそう返事するつもりだと言う。』

(7)

 行きつけの居酒屋に、田村、溝口と富山がいた。

 田村が富山に、事実以上に悪くはかけない、不当に評価したら俺の評価にも関係する。財務評価システムの評価ポイントは71点で、60点以上あれば優良のお墨付きで新規取引をパスできるルールから見て佃はそうざらにない優良会社だと言い、溝口のほうはどうだったとふった。

 溝口は、生産部門は今取引している下請けに比べてもトップクラスに入るだろうと言う。そして、社命での評価は公正に行うしかない。おれ達だって目は節穴でないんだ。もし部品供給を避けたいのなら、品質及び技術のテストはこれからだから、お前がその理由をつくることだと言う。おれ達は、後になって、あんな評価をしたと言われるようなことは、帝国重工マンとして、プライドが許さないと、飲み会は早々に切り上げられた。

 二人と別れた富山の携帯電話に、試作品として届いたバルブの一部に簡単な動作性能テストで異常値が出ましたと思いがけない報告が入った。

 

                                次章に続く

 

 

 

 

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池井戸潤著「下町ロケット」を読み終えて!ー5/8ー880回

2013-11-25 15:28:23 | 読書

                  故郷の紅葉(2013/11/21)

Sionoemomigi015


                                                                                                                  

(第四章 揺れる心)

(1・2)

 須田が持ってきた話は、要するにオーナー社長の座を譲る気はないかということで、航平は考えておくと返事した。航平は殿村から須田は超一流のベンチャー・キャピタルとのことを知った。

 航平は、殿村から知り得た情報から、須田の提案を詰まらない話だと切り捨てることは今の航平にはできなかった。経営者としての夢、社員たちの思いがけない反発。会社を売れば少なくとも面倒な事から解放されるし、経営が安定して社員が喜ぶなら立派な選択肢ではないか。社長業に恋々とするつもりはない。会社とは何か。何のために働いているのか。誰のために働いているのか。航平の心は会社経営における本質の問題を考えさせられ、揺れてもいた。

 その週の金曜、久し振りに三上に誘われ、飲んだ席で、三上からナカシマ工業や帝国重工のことを話題にした後、大学教授への熱っぽい誘いがあった。航平は、少し時間をくれと唸るように言った。

(3)

 水原本部長は、財前部長に、佃製作所のことは、テストからその結果による交渉まで現場責任者である富山に任せることにしたと言い、水原だけが決裁した「テストをパスした場合、部品供給を受ける手続きに入ることが記載された書類」を渡した。財前部長は、役員会の決裁はどのようになっているのか、藤間社長は承知されているのかと問うと、結果が出てからでよいと突っぱねる。

 『財前が自室に戻ると、富山が佃製作所のテスト・スケジュールの決裁を貰いに来た。一瞥して財前は思わず顔を上げて、どういうつもりだと言う。宇宙航空部が下請けや協力工場に対して課しているテストを上回る厳重な内容になっていたからだ。富山はキーデバイスですからです、しかし、時間もかかるようですから、NGが出たところで中止して、私が佃と交渉に入りますのでよろしくと言う。財前は、テストの詳細なレポートはその都度提出してくれ、落とすためのテストはするなと釘を刺すと、富山から挑戦的な眼差しが返ってきた。』

(4)

 佃製作所の若手社員10数人が焼肉屋にいた。経理部の迫田係長が、先日、皆の代わりに、社長の夢のために会社を食い物にされちゃ叶わないといっておいたからと言うと、営業二部の江原や技術開発部の真野など頷く面々が多い中、隣のテーブルにいた技術開発部主任の埜村耕助は、社長の技術力の情熱で伸びてきた会社を否定したら、別の会社になってしまうと、航平を応援し、帝国重工に部品供給したら、少なくとも"ロケット品質"っていえるんだぜ、そしたらビジネスも広がるし、役員連中が言ってることは、そう間違ってないと思うなと言う。

(5)

 11月最後の週、航平のもとに、帝国重工から、本社の宇宙開発グループ主任の富山を訪ねてくれとの呼び出しがあった。帝国重工から来てくれといわれたのは始めてである。

 応接室に入ってきた富山から、部品供給になると当社のテストをパスしてもらわなければなりませんと、分厚い書類を提出した。そこに決められたテストの項目や手順は、あまりに煩雑でしかも重複しているようにも見えた。

 100個を超えるバルブシステムを試作し提出する。その試作品は帝国重工内のあらゆる気圧と温度の下での動作確認と耐久テストに回され精度が試される。

 『試されるのはそれだけでなく、まず最初に、佃製作所の財務資料と財務評価といった項目も含まれていた。部品供給が出来ない状態にならないか、万が一の時に損害賠償が可能かどうかといった審査を審査部が行うということだ。そして、これらのテストに加えて、同時に、生産管理部が御社の社内や製造現場の環境が水準を満たしているかといったこともチェックさせていただきます。

 そして、コストと時間の関係から、テストのいずれに限らず、テストの途中で基準を満たしていないときは、そこで、テストは終わりとさせていただきますと言う。』

 佃製作所では、役付の社員を集めた臨時の事務会議が始まった。

 そして、先ほど富山から渡された資料が山崎から配布された。航平から説明があり、テストが社内全般にわたるので、メインは技術開発部になるが、事務方のほうからもチームに加わってもらい、経理部からは迫田係長、営業部からは江原課長がリーダで頼みたいと言う。しかし、若手社員の多くは、よそよそしい態度と冷ややかな表情を見せていた。

 『会議後、煙草が飲める休憩室に江原と真野がいた。真野がテストに受からなければいいんだろうと言うので、江原が技術開発部だったら部品供給も理解できるだろう、それなのになぜ反対するのだと聞くと、水素エンジンの部品開発には湯水のごとく金を使って、本筋の小型エンジンには渋いことを言うと、小型エンジン開発チームの真野は、部外者に判らない不公平感が溜まり膨らんでいた。同じ技術開発部でも、個人によって反対の理由が違っていたのだ。』

(6)

 富山は、部品採用の可否を審査するための評価チームの中心メンバーに、自分が親密に付き合っている審査部主任の田村と生産管理部主任の溝口を、それぞれの部長を通じて、財前部長が納得しないのだと騙して審査を依頼した。

 テストを不合格に導きたい富山にとって仲間が必要だったのだ。二人には水原本部長の意向は最悪でも特許使用許諾だが、財前部長は佃製作所が部品納入をしたいとする申し出に検討すると言ってしまったので、テストで不合格にならないと佃が納得しないのだ。財前と佃は裏でつるんでいるという噂もあるぐらいなのだと、富山は口にした。溝口がお前は上司の寝首を搔こうっていうのだなと、ずけずけ言った。

 

                               次章に続く 

 

 

 

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