T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1791話 「 2月の気温 」 3/1・日曜(曇)

2020-02-28 14:13:26 | 日記・エッセイ・コラム

                                                                                                                          

                                                                                                                      

[2月特別行動]

◎買い物ついでに近所のドラッグストアへマスク買いにハシゴした。

  21日~29日 3月に入っても時間が許す限り当分続けるつもりだ。

◎9日にe-Taxで確定申告を済ます。

◎トイレ便器清掃、洗面台清掃を各々1回行った。

[2月気温概要]

◎最高気温の平均値が2013年以降で一番高く、

 1日の寒暖差が10℃以上の日が2013年以降一番多かった。

◎ローカル紙によると

 高松の2月の平均気温7.6℃(平年5.9℃)、統計開始4番目の暖かさであった。

 高松の冬(12月~2月)の平均気温8.4℃(平年6.4℃)、統計開始以来の最高気温だった。

 

  項目     2013年 2014 年 2015年 2016年 2017年 2019年 2020年

平均最低気温    2.7℃  2.5℃  3.4℃     3.8℃  2.9℃  4.3℃    3.6℃

 氷点下日数    3日   4日   3日   2日   3日   0日   3日

 5℃以上日数     5日   4日   8日   11日   6日   10日    9日

平均最高気温    9.2℃  9.0℃  10.0℃  10.4℃  10.0℃  11.3℃   12.2℃

 10℃以上日数   9日   12日   11日  15日  16日  20日    24日

1日

10℃以上差日数  1日    4日   1日        5日   2日   2日   10日

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1790話 [ 「検事の信義」を読み終えて・粗筋 9/9 ] 2/28・金曜(曇・晴)

2020-02-25 13:50:42 | 読書

「信義を守る」

(⑨ 昌平の初公判)

 102号法廷は重い空気に包まれていた。

 法壇には裁判長の西條政明と両隣に陪審裁判官の二人がいた。

 傍聴席から見て左側の席に佐方が、右側の席に弁護人の守岡高徳がいた。

 午後1時、裁判長の西條が背筋を伸ばした。

時間です。これより開廷します。被告人、証言に立てますか」

 昌平は2回目の取り調べをした3週間前より、さらにやつれていた。

 昌平の胃の細胞検査の結果が出たのは、10日前だった。結果は、ステージⅣの胃癌。ひと月後に摘出手術を行うことになっている

 西條が佐方に起訴状の朗読を促す。佐方が起訴状を読み上げた。

「被告人は、平成12年3月29日午前6時15分ごろ、米崎市大里町川名3丁目付近の人目につかない山際において、母親の道塚須恵さん、85歳の頚部を手で絞めて殺害し、その場に遺棄したものである。罪名および罰条……。以上の事実について審理願います」

 昌平、森岡ともに間違いないと答える。

 続いて公判は、検察側の冒頭陳述に入った

 佐方は昌平の生い立ちや職歴を述べたあと、事件発生時の説明に入った。

 続いて弁護側冒頭陳述に入った。

「公訴事実は争いません。母親を殺害したことは、被告人も認めています。状況や物的証拠もそれらを裏付けたるものであり、被告人の自白が事実であることは明白です。私が法廷にいる皆さんに訴えたいことは、この事件はやむなくして起こったものであり、被告人と同じ立場なら、誰もが同じ過ちを犯しかねないものであるということです」

 守岡は、昌平が地元へ戻って来たのは母親の介護のためであり、日々、献身的に介護を続けてきたと主張した。そして、須恵が認定されていたクラスⅢが、いかに症状が進んだ状態だったかも説明した。

 最後に、もっと国の福祉施設を利用すべきだったが、それを求めず、ひとりで抱え込んだために事件が起きた。残念ですと言ってしめた。

 ここで西條は30分の休憩を宣言した。

 公判が再開されて、「証拠調べに入ります」と西條が告げる。

 その後、法廷は証人尋問に移った

 弁護側からは畑中が証言台に立った。

 畑中が道塚親子について語った内容は、佐方たちが尋ねたときとほぼ同じものだった。

 検察側から証人台に立ったのは、米崎江南教会で神父をしている野崎高一郎だった。

 江南陸上競技場の周辺で佐方が探していたものは、教会だったのだ

 佐方の質問に野崎は次のように答えていった。

 昌平さんが自ら2年ほど前に教会にお出でなりました。

 昌平さんは、須恵さんのことで悩んでいらっしゃいました。神に救いを求めてきたのです。

 母親の認知症が次第に重くなっていき、福祉施設の利用は母親が嫌がるため難しく、働きたくても母親から眼を話せなくなっていきましたと話されました。

 教会に訪れるのは毎週日曜の朝7時から8時10分まででした。

 佐方は、なにかを信じている者ならば、自分が罪を犯したとき、信じている者に縋るはずだ、また、昌平の殺人に計画性はなく、なにかしらの出来事があり衝動的に殺した、と考えたのだ。

 須恵を殺したあと、我に返った昌平はどうしただろうか。自分がしでかしたことに驚き、動揺し嘆いた。

 そして、ある場所へ向かった。それは、ミサに通っていた教会だ、と佐方は睨んだ。

 佐方の推論は当たっていた。

 公判は続き、佐方は野崎に訊ねた。

「被告人は、母親を殺害したあと、教会を訪れ、神父である野崎さんにすべてを打ち明けた。そうですね。そのとき、被告はどんな様子でしたか」

「ひどく取り乱していました。なんとか落ち着かせて懺悔室で話を聞いたところ、母親を殺したと告白したのです」

 事件当日、昌平はその日も昼夜を問わない須恵の徘徊に付き合っていた。前日の夜、須恵が一晩中暴れ、昌平は寝ていなかった。この頃の須恵は昌平のこともわからなくなり、意味不明なことを口走るようになっていた。

 事件が起きた朝、須恵は殺害現場となった山際まで自ら歩いて行くと、付いてきた昌平に殴り掛かってきた。罵詈雑言を吐き、昌平を詰(ナジ)る。

 お前なんか死んでしまえ、須恵のその叫びに、昌平の心の糸は切れた。気がつくと、息絶えた母親のそばにいた

 そしてもうひとつ、昌平には母親を殺した重大な理由(自分の酷い病)があった

「告白したあと、被告人はどうしましたか」

「自分も母親の後を追うと言いました。昌平さんに逃げるつもりなど、最初からありませんでした」

「しかし、被告人は遺体を山中に隠しています。それは逃げる時間を稼ぐためではなかったのですか」

違います。昌平さんが、須恵さんの亡骸を山中に隠したのは、懺悔したあとその場所へ戻り、母親のそばで命を絶つためです。私は、キリスト教は自殺を禁じている。生きて悔い改めるために自首を進めました」 

 西條が佐方に訊ねた。

「では、被告人は嘘の供述をしていたということですか。なぜ自分に不利になる供述をしたのでしょうか」

私も、そこが最後までわかりませんでした。しかし、被告人が病に冒されていることを知って全てが繋がりました

 佐方は法廷内を見渡し、声を張った。

被告人は、自分が命に関わる病を患わっていると知っていました。自殺を断念した被告人は、どうすれば、神の教えに逆らわずに一日でも早く母の元へ行けるか考えた。そして、刑務所に少しでも長く入所し、牢の中で息絶えようと思ったのです。もし、真実を告げたら、情状酌量で量刑が軽くなってしまうかもしれない。病で息絶える前に刑務所を出てしまったら、悔いに負けてキリスト教の教えに背いてしまうかもしれない。そう考えた。だから、少しでも量刑を重くなるように、自分に不利な供述をしたのです

 西條は何も言わない。陪審裁判官も同様だった。

 野崎が退廷したあと、佐方は西條に向かって姿勢を正した。

「論告は以上です。いまお伝えした事情を考慮し、被告人に懲役2年、執行猶予5年を求刑します

 報道席にいる記者たちから驚きの声が上がる。

 通常、検察側が執行猶予を求めることはない。皆無に等しいケースだ。

 西條は公判を進める。

 最後は被告人の最終陳述。

 西條は、昌平に「最後に言っておきたいことはありませんか」と話しかけるが、昌平は何も言わない。

「いま母親に伝えることはありませんか」と訊ねる。

 昌平の肩が震えた。

母ちゃん、死なせてごめん。会いたいよ―—ーそう言いたいです

 昌平の嗚咽は法廷に響く。

  ◇

(⑩ 佐方は「自分の信義を守っただけだ」という)

 法廷を出ると、矢口が佐方の前に立ちはだかり、睨んだ。

「いい裁判だった。明日の新聞には、大きく記事が載るだろう。見出しは『検察側異例の求刑』といったところか」

 佐方は、「有難うございます」と会釈して歩き出す。その背に、矢口が吐き捨てる。

「検察に、泥を塗りやがって。検察の立場はどうなる。正義を守るべき組織の権威をお前は貶(オトシ)めたんだぞ」

 佐方はひかない。

立場なんて関係ありません。私は、自分の信義を守るだけです

 これ以上話しても無駄だと思ったのか、矢口は口を結んだ。

 

        

 

 

 

 

 

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1789話 [ 「検事の信義」を読み終えて・粗筋 8/?] 2/27・木曜(曇・晴)

2020-02-24 14:06:53 | 読書

「信義を守る」

(⑥ 佐方は昌平の再度の取り調べに入る)

 午後3時。取調室に座る昌平は、10日間ほどでさらに老けたような気がした。眼窩は落ちくぼみ、頬がげっそりと削()げている。顔色もさえない。

 佐方は、「先々週の金曜と先週の月曜にあなたが勤めていたコウノトリ便と、須恵さんが通所していた深水デイサービスへ行ってきました。コウノトリ便では緒方徹さんがあなたのことを真面目で気遣いができる優しい人でしたと言いました。そして、社内でのトラブルはなかったと言われていました」と言って、昌平の供述と違うことを問いただした。

「それらの人は知りません。私は正直に答えています。もう働くのが嫌になった、それだけです」

 昌平はそう答えて、下を向く。

 佐方の調べは続く。

「深水デイサービスの堀所長は、須恵さんはデイサービスの通所も3か月で止めた。その理由を会社がクビになったから、次の仕事が決まるまで自分が面倒を看る、と言ったそうですね。でも、あなたは会社をクビになっていない。また、自宅を手放さない理由を、堀さんには須恵さんの思い出が詰まったあの家で須恵さんを見送りたいから、そう言っています。なぜ、嘘の供述をしたんですか」

 昌平は小さい声で答えた。

「黙秘します」

 佐方は別の質問をした。

「あなたがコウノトリ便を辞めたのと、須恵さんの深水デイサービスの利用を止めたのは、同じ12月の末です。これは偶然ですか、それとも関連性があるんですか」

 昌平は黙っている。その他の質問にも黙秘権を使う。

 佐方は、それでも続ける。

私が知りたいのは、あなたが自分に不利な供述をする理由です。私たちが調べた限り、あなたは自ら供述したような身勝手な人間ではない。むしろ母親思いの息子です

 昌平は首を横に振る。昌平の身体が、ふたつに折れた。そして、息が荒くなる。

 佐方は、取り調べはここまでですと言って、「医務室へ」と増田に指示する。

  ◇

(⑦ 佐方の信条「罪をまっとうに裁かせる。それが私の信条です」)

 公判部に矢口検事が入ってきて、道塚昌平を地検に呼んで取調べをしたようだが、私に対する侮辱ではないかと怒りの言葉を発した。

 佐方は自分の意見を述べた。

「私は自分が担当する案件を、調べているだけです。矢口さんは、検事の債務は罪を犯したものを糾弾することだとおっしゃいましたが、私は罪をまっとうに裁かせることだと思います。なぜ、事件が起きたのかを突き止め、罪をまっとうに裁かせる。それが私の信条です」

 矢口は重々しい声で言った。

「君のその信義というやつを見せてもらおう。それが検察の権威を貶(オトシ)めることにならなければいいが」

 そう言い残し、矢口は部屋を出た。

  ◇

(⑧ 佐方は最後の現地調査で昌平の自宅付近に向かう)

 昌平の初公判は20日後と迫っているが、昌平の自宅周辺の聞き込みをしたいと、増田に日程を組んでもらい、4日後に大里町に向かった。

 道路わきの畑で土を耕している女性に声をかけた。

 女性は渡部布由子と名乗った。家は昌平の自宅から100m ほどと離れたところにあるという。

 佐方が道塚親子のことに就いて知っていることを教えてくれと訊ねる。

「引っ越しの挨拶に来られた時、礼儀正しい息子さんなんだと思った。また、優しい息子さんです。須恵さんがここ1年くらいは徘徊してて、昼夜を問わず、ひとりで外へ出て行って帰れなくなるの。そのたびに昌平さんは必死になって探しておられるのです」

 増田は、「被疑者が母親を献身的に介護していたのは事実のようですね」、と佐方に言う。

 佐方は「被疑者はどうしてその事実を隠すんでしょう」と呟いて、昌平の自宅のはす向かいの家に向かった。

 畑中と書かれた表札の家の年輩男性に、「昌平さんが、母親のことを何か話すことはありませんでしたか。あるいは、母親のことで相談できる知人はいませんでしたか」と訊ねた。

 畑中さんは首を捻った。

「詳しくは知らないが、ただ、いつも日曜日にひとりで出かけてたから、どっか行く場所があるんだなって思っていました」

 畑中さんの話によると、昌平さんは日曜日になると、ひとりで車で出かけていたという。朝の6時50分に家を出て8時半に帰ってくる。時間は判で押したように、決まっていたという。それも事件が起こる2か月ほど前から出かける姿は見えなくなったけど、それまでは定期便みたいに出かけていたよ、と言う。

 佐方は、江南町の昌平さんが身柄が確保された場所、わかりますね、と増田に言って返事も聞かずに出かけた。

 佐方は歩きながら、きっとある、あるはずだ、となにかぶつぶつ言っている。

 その佐方が、江南陸上競技場の周辺に来たとき、急に立ち止まった。

「あった。ありました、増田さん」

 増田は、いったい何があったのかと駆け出した。

 もう少しで佐方に辿り着くとき、携帯が鳴った。

 米崎県警の、留置場の担当官からで、電話の内容は「道塚さんの胃に病変が見つかり、医師によれば、悪性である可能性が高く、かなり進行している」とのことだった。

 増田は佐方に電話の内容を告げて、佐方が指さす方を見た。

 道の先に、ある象徴が見えた。「そうです」と言って佐方は肯く。

あれが、昌平さんが偽りの供述をしている理由です

 増田は目を見開き見つめた。

  (⑨ )に続く

 

 

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1788話 [ 「検事の信義」を読み終えて・粗筋 7/? ] 2/26・水曜(曇)

2020-02-23 15:03:49 | 読書

「信義を守る」

(③ 自宅で殺害遺棄したほうが状況から考えて普通でないかと佐方は考える)

この家は、四方を田園か畑、空地に囲まれていて、隣の民家までは距離があります。大きな音を立てても、誰も気がつかないでしょう。なぜ、被疑者は、須恵さんを自宅で殺害しなかったんでしょうか

 いわれてみればそうだ。遺体もそうだ。

 須恵と昌平はふたり暮らしだ。ほかに身内はいない。家を訪ねてくるような親しい人間もいない。遺体が腐敗し、異臭に誰かが気づくまで時間がかかるだろう。逃亡するなら、外ではなく自宅で殺害したほうが時間が稼げる。昌平はなぜそうしなかったのか

 佐方は独り言のように呟いた。

ましてや、老いた母親を徒歩10分とはいえ、殺害現場まで連れて行くには労力がかかる。どうして被疑者は、敢えてそんな面倒なことをしたのか

 佐方には、他にも気になることがあった。近所の女性の方に聞くと、昌平の印象は礼儀正しく親思いの息子、と言ったものだった。

 佐方は、「被疑者に何があったのか。私もそれが知りたいんです。コウノトリ便へ行きましょう」と増田に話す。

 ◇

(④ コウノトリ便の所長は、昌平は所内での人間関係もよく、雇用条件も良かったと、

  昌平の供述とは反対で違っていた)

 佐方たちは、コウノトリ便で、昌平をよく知っている所長の尾形徹に会った。

 道塚さんは「どんな人物でしたか」と訊くと、「真面目―—ーいや、生真面目かな」と答える。

 道塚さんがここを辞めた理由は、「トラブルのようです」がと問うと、尾形は驚いたように顔を上げた。

 佐方は続けた。

「給料が安く、職場の人間とも話が合わない、つまらなくてなって辞めた。そう言っています」

 尾形は首を振った。

そのようなトラブルはありません。むしろ逆です

 尾形が言うには、雇用条件もよく、人間関係も良かったという。

2か月の見習い期間があるんですが、勤勉だし、人柄もいいから、特別にひと月で正規雇用したんです。道塚さんもすごく喜んでいました。私が言うのもなんだが、ほかの中小企業より給料はいいし、手当も厚いんです

 ある古参の人事担当女性社員にも佐方は聞いてみたが、次のように褒めていた。

私も仕事柄、いろんな人を見てます。道塚さんは仕事ができる人で真面目の人だが、道塚さん以上に気遣いができる人はいないですよ

 大変参考になったと礼を言って外に出た。

「被疑者が供述している本人像と、コウノトリ便の人たちが思っている人間像が、ずいぶん違いますね」

 佐方は少しして、増田に言葉を返した。

「一日も早く深水デイサービスに行きたいが来週月曜はどうですか」

「午前中に行けそうです。連絡をとります」と増田は答えた。

 佐方は、増田の内心を察して、深水デイサービスへ行く理由を説明した。

 被疑者がコウノトリ便を辞めた時期と、母親の深水デイサービスの利用を止めた時期は、ほぼ同じです。このふたつの一致は、おそらく何かしらの理由で結びついている。深水デイサービスの職員なら、その理由を知っているのではないか、と思うんです

  ◇

(⑤ 深水デイサービスの所長は、「昌平さんは親思いでで、

  須恵さんは老人施設を嫌がっていました」と話す)

 深水デイサービスの所長の堀さんのほうから、「道塚さん親子に関することでしたね」、と切り出した。

 堀は、ではと、道塚さん親子が初めて施設を見に来ていただいたときのことを話された。

お二人のことはよく覚えています。とくに息子さんは、とてもお母さまを慈しんでおられ、お出でになったとき、手続きが済んで部屋に着くまで、母が怖がるからと車椅子を使わずに負ぶっていらっしゃいました

 後日、須恵さんが1週間ほど通所したあと、昌平さんと面談したときのことを続いて話された。

息子さんは、通所が決まった1週間前よりもお疲れになっていました。それと、須恵さんは通所者のなかでも、かなり難しい方でして、どうも、須恵さんが通所を嫌がったからのようです。須恵さんは通所した日は夕方、家に帰ると、息子さんに酷く当るのだと息子さんが言っておられました。須恵さんが反抗しないのは、通所しない日曜日だけだったそうです

 それで、通所でなく入所できる介護施設を探しましょうと提案すると、でも、昌平さんは自分が面倒見るからと拒否されました

 佐方は堀さんに「昌平さんは、コウノトリ便を自分から12月25日に辞職しています」と告げる。

 堀さんは「自分からですか」と言い、須恵さんがここに通ったのは26日まででしたと言って、次のようなことを話した。

いま住んでおられる家は須恵さんの親からもらった大事な家で、離れがらなかったようです。昌平さんはこうも言っておられました。かなり古くなったけど、母がいるあいだは、家を手放さない。あの家から母をあの世へ送り出したい

 運転席に座った増田に佐方は話し出した。

「取り調べたときに私が被疑者に感じた印象は、身勝手でした。自分の都合で仕事を辞めて、認知症の母親への適切な介護を放棄したうえに殺害した。でも、被疑者を知る人たちの話を聞くと、そんな人間には思えません」

 佐方はさらに続けた。

「母親の望みを叶えようとしたがために疲れ果てて、思い悩んだ末に殺害した。被疑者がそう訴えれば、情状酌量で刑が軽くなる可能性があります。それなのに被疑者は逆の供述をしている。いったい被疑者は何を考えているんでしょう

 そして、佐方はぽつりと呟いた。

2時間―—ー被疑者が母親を殺害し、身柄を拘束されるまでの時間です。なぜ、被疑者はもっと遠くへ逃げなかったのか。その理由は、被疑者が自分を擁護しない理由と同じような気がします。この事件の真実は、きっとそこにある」

 佐方は今度、被疑者を取り調べられる日は何時になりますかと増田に訊ねる。

 増田は日程を繰って月曜の午後3時ではどうでしょうと言う。

  (⑥)に続く

 

 

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1787話 [ 「検事の信義」を読み終えて・粗筋 6/? ] 2/25・火曜(曇)

2020-02-23 13:06:45 | 読書

「信義を守る」

(② 昌平容疑者に対し、再調査の取り調べをする。終いになぜか昌平の体調が悪くなる)

 佐方は、取調室で、昌平の一件記録を開き、生年月日、出身地、経歴といった基本情報を昌平に対して確認する。

 昌平は、「はい」、と短く答える。

 佐方は取調べを進める

「地元に戻ったあなたは、米崎市内のコウノトリ便という、宅配会社に勤めた。しかし、3か月で止めていますね。どうしてですか」

「社内のトラブルです」

 警察が調べたとおりだ。佐方は質問を変えた。

「警察の調べによると、そのころ須恵さんは深水デイサービスを利用していましたね」

 米崎市内にある、介護老人施設の関連サービスだ。

「平成9年9月から、須恵さんをそこに通わせている。でも、3か月でやめてしまった。なぜですか

 昌平は答えに迷っている。佐方は続けて訊ねる。

あなたが勤めていたコウノトリ便を辞めたのも同じころです。何か関係があったのですか

「デイサービスは、お金がかかります。次の仕事が見つかるまでの間、私が母親を看ようと思いました

コウノトリ便を辞めた社内トラブルはどんなトラブルだったのですか

地方の給料は安かったし、若い人たちと話が合わなかった。とにかくそんなことからつまらなくなって辞めました」

 増田は小さな怒りを覚えた。

 昌平が母親を殺した動機は、介護による疲弊だ。そしてもう一つ、金銭の困窮がある。警察の取り調べで、須恵と昌平には、明日食べ物を買う金すらなかったとわかっている。身柄拘束時に、昌平が所持していた金は、320円だった。

 佐方はさらに取調べを進める。

「次の仕事が見つかるまでの間と、あなたは言いましたが、あなたは働かなかった。なぜですか

面倒になったからです。一度、楽をしたら、働くのが面倒になりました

「二人の生活費は、どこから捻出していたのですか」

「母の国民年金です」

「須恵さんは、あなたが須恵さんの年金で暮らしていることを理解していたでしょうか」

「お袋は、息子が仕事を辞めたことも、その息子が親の年金に縋って生きていることも、わからなくなっていた。また、息子に殺されたことも、何も知らずに逝った。おふくろの頭がしっかりしていたら、情けない息子を持ったことを嘆いていたでしょう。その意味で良かったと思っています」

「警察の取り調べで、あなたは殺害の動機を、すべてが嫌になったから、と供述していますね。もう一つ、金銭的な理由もあげていますが、須恵さん名義の家と土地を処分しようとは思わなかったんですか」

いずれ自分のものになる。住む場所さえあれば、なんとか生きていける。そう思っていました」

 増田は昌平を取り調べて受けたた印象では、昌平の身勝手さが招いた事件に思えた。昌平の非情さに胸やけのような気分の悪さを覚える。

 佐方は、淡々と取調べを続ける。

「あなたが江南町で身柄を拘束されたのは、遺体発見から2時間後です。現場から離れた理由は、逃亡のためだった。間違いありませんね。大里町すら江南町までおよそ5キロ。2時間あれば、もっと遠くへ逃げられたはずです。どうしてそうしなかったのですか

 昌平は、少し時間を置いて小さい声で答えた。

頭で考えいたのと、実際に殺すとのでは加減が違っていて……それでうろたえてしまって……気づいたら、隣町にいました

「客観的に聞いて、人間の行動原理として無理がある、そう思いませんんか」

「いいえ、本当に怖くて………」

「逃げたと言われますが、どうして、人目につく場所にいたんですか

ですから、気が動転してしまって……自分でもよくわかりません

 昌平の息が荒くなる。顔色も悪く、汗もひどくなっている

 佐方は、医務室への連絡、今日の取り調べの終了を増田に告げる。

 そして、「明日はふたりが住んでいた家に行きたい」と増田に指示する。

   (③)に続く

 

 

 

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