T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1941話 [ 「老いの福袋」を読み終えて 2/2 ] 7/13・火曜(晴・曇)

2021-07-12 11:29:16 | 読書

 

「老いの福袋」への感想・コメント

第1章の4 ひといき300m、座れる場所を求む

 世の中の街づくりや公共施設は、高齢者等に対してまだ十分には優しくできていない。

 商業施設の中や周辺、駅構内、タクシー乗り場などにベンチやいすが必要です。

  「共感。それ以外に、数年後は、近くのスーパーやコンビニへの買い物、

   散歩に押し車が必要になるので、購入の予定だ

第1章の6 ひところび100万円、転倒・骨折しないように

  「共感。高齢者の生活の基本は転倒しないこと。傷害保険はかけ続けたい

第1章の10 シルバーの「労働力」がゴールド(80代以上)を支える

 シルバー世代がイキイキと働くことで、80代以上のゴールド世代も、ますます輝くことができる

 私は、「人材」を利用しているが、最近は地域のさまざまな団体がサービスを提供している。公的な介護保険の利用を含めて、「他人の手を借りる方法と費用について情報を集めておくことをお勧めします。

  「ありがとう。ゴールド世代を輝かすために、情報収集に努める」

第1章の13 予定を入れて「老っ苦う」の連鎖を断ち切る

 「おっくう」に身を任せていると、筋力や体力、そして精神力もどんどん衰えてしまいます。

 老いたら、なんでもいいから、できるだけ予定を入れて「多忙老人」になり、「老っ苦う」の連鎖を断ち切りましょう。

  「共感。前夜でもよいから、明日の予定を立てていると、毎日多忙に感じる

第1章の14 笑って泣いて、楽しいデイサービスへ

 さまざまなリハビリをしてくれる間、仲間と何気ない会話をするのも楽しみの一つ。

 デイサービスは、いろいろな人と触れ合えるコミュニケーションの場でもあると実感しました。

  「共感。施設の妻の用がなくなり、自分がデイサービスに行ける資格できたら、

   話し相手ができるので、ぜひ、行くようにしたい

第2章の22 「片づけ」は拒否していい

 物の整理は大変だし、難しい。

 私は荷物の処分費用を残して、ガラクタも残す。「その何が悪い」と胸を張って言うことにしました。

  「確かに、物の整理は難しい。たが、自分の物だけでも何かのきっかけを作って、

   例えば、一つの新品を買うときは二つの物を整理するとかして、整理に努める

第2章の28 一人暮らしなら「お風呂コール」を

 知人の老母から、毎日「お風呂の入出コール」が知人宅にあるそうです。

 一人暮らしの高齢者にとって、定期の安否確認サービスは大きな意味があります。

 リスク管理は自分を守るだけではなく、子孝行でもあります。

  「数年後は、身体のリスク管理だけでなく、留守宅の管理もしてくれる企業の

   サービスを受けたいと考えるので、情報収集に努めたい

第3章の39 「病んだら帳」と入院セット

 高齢になると、外出中に何が起こるかわかりません。これからは「病んだら帳」を持ち歩こう。そこには過去の病歴や服薬薬を書いておいたら、いざというとき役に立つからです。

 高齢になったら入院の頻度も高くなるはず。下着や洗面用具などをセットにして、わかりやすい場所に置いておくといいと思います。

  「よいことだ。「病んだら帳」は「延命治療を拒否」する書類と一緒に持ち歩く

   ことにする。「入院セット」はすでに準備している

第3章の45 葬儀計画に変更アリ

 葬儀に関する考えも、歳を重ねるにつれて変わってきました。高齢者の葬儀になると、参列する人も一人では出席できない人もいるでしょう。コロナ禍で定着した家族葬もいいのではないか。

  「共感。エンディングノートに書き留めておくことにする

第4章の51 「ピンピンコロリ」は幻想です

 高齢になると、「ピンピンコロリが理想」と言います。

 それを現実に近づけるには、健康寿命と実際の寿命をどれだけ近づけるか。そのためには何をすればいいのでしょう。

 医者に聞くと、高齢者の健康に不可欠なのが、「バランスのとれた食事」「適度な運動」「社会参加」の3点だとか。

  「共感。社会参加は年齢により無理な場合がある。

   健康においては肝臓(中性脂肪)の数値に留意することが必要。そのためには、

   バランスのとれた食事で、より留意することは蛋白質(特に大豆)を積極的にとる

   適度の運動では、散歩と筋(特に筋肉が大きい太もも・背筋)トレに努める

第5章の66 介護は情報戦、まずは地域包括支援センターへ

 介護に必要な力は、1に情報力、2に人と人とのネットワーク力、3がコミュニケーション力です。

 まずは「ころばぬ先の地域包括支援センター」と親しくなることです。

   「よい情報ありがとう

第5章の73 「おまかせDEATH(死)」で本当にいいの ?

 私はバッグの中に、健康保険証や診察券と、私の名刺の裏に「私が生命の危機に瀕し、回復不可能で意思が確認できないときは、延命のみを目標とする医療は固くご辞退いたします」と書いて、年月日と署名をしたものを、常時携帯しています。

  「私も作成し、ぜひ常時携帯したい

第6章の83 情報力と行動力があなたを変える

      ーーー ころんでも立ち上がる復元力

 正岡子規の妹の正岡律から、人生は平坦ではありませんが、ころんだらもう一度立ち上がればいいのだと、私は学びました。いつの世も生き方を変えるのは情報と行動力、そして復元力です。

  「復元力の継続的努力を心に留めておきたい

第6章の87 老いてなお「アイ・ハブ・ア・ドリーム」

 見果てぬ夢を見るのは、老人の特権です。未来を夢見て、夢を語れば、きっとその夢を継いでくれる人が現れます。自分たちの子や孫、そのまた子供たちがより幸福に生きられるように、老人たちよ、おおいに夢を見ようではありませんか。

  「共感。歳は単なる符号だ。人間にはいつまでも夢を持つことができる

第6章の88 老年よ、大志を抱け !

 今のご時世、インターネットを通してでも、いつも刺激を受け、日々発見を求めて進んでください。

 人生はまだまだ続く。

 虹色の高齢期を目指して、見果てぬ夢を見つつ。

 老年よ、大志を抱け !

   「『百歳人生を生きるヒント』のなかで、90歳代はこれまでに培った想像力で、

   時空を超えた楽しみに浸る時期である、いわゆる妄想をすすめる歳であると、

   述べていたが、見果てぬ夢を見るのも、妄想を楽しむのも、

   知識を求めることから始まると思う。

   脳トレに励むことだ

                      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1940話 [ 「老いの福袋」を読み終えて 1/2 ] 7/11・日曜(晴・曇)

2021-07-11 15:43:24 | 読書

 

 今日から梅雨が明けたように感じる。

 明日は新聞が休刊なので、明後日、梅雨明けの記事が出るだろう。

                   

 樋口恵子さんの本は読み易い。

 ヨタヨタ、ヘロヘロだから、「ヨタヘロ期」とは面白い。

 老いのためになる事柄が「福袋」に多く入っていた。

 作品紹介→(アマゾンのサイトより)

 老年よ、大志を抱け、サイフも抱け !  88歳のヒグチの日常は初めてづくしの大冒険。

 トイレ閉じ込め事件から、お金、働き方、人づきあい、介護、終活問題まで、人生100年時代を生きる人に勇気を与える「知恵とユーモア」がつまったエッセイ。

「見果てぬ夢を見るのは、老人の特権です。

 未来を夢見て、夢を語れば、きっとその夢を継いでくれる人が現れます。

 自分たちの子や孫、そのまた子どもたちがより幸福に生きられるように。

 老人たちよ、おおいに夢を見ようではありませんか」

 ーーー樋口恵子

 

 明後日のブログには、「ヒグチさんの88話のエッセイ」のなかから、

 心に留まった話に私の感想・コメントを添えて、記述します。

                          

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1932話 [ 「いのちの停車場」を読み終えて 1/? ] 6/28・月曜(曇)

2021-06-28 13:48:51 | 読書

                      

「作品概要」

 東京の救命救急センターで働いていた、62歳の医師、白石咲和子は、あることの責任を取って退職し、故郷の金沢に戻り「まほろば診療所」で訪問診療の医師になる。

 これまで「命を助ける」現場で戦ってきた咲和子にとって、「命を送る」現場に戸惑うことばかり、老老介護、半身不随のIT社長、6歳の小児癌の少女……様々な現場を経験し学んでいく。

 家庭では、老いた父親が骨折の手術で入院し、誤嚥性肺炎、脳梗塞を経て、脳卒中後疼痛という激しい痛みに襲われ、「これ以上生きたくない」と言うようになる。

「積極的安楽死」という父親の望みを叶えるべきなのか。咲和子は医師として、娘として、悩む。

                        (幻冬舎サイトより)

「目次」

 プロローグ (医大病院医師を退職、帰郷して診療所に勤める主人公)

 第一章 スケッチブックの道標 (老老介護と第六章のプロローグ)

 第二章 フォワードの挑戦 (半身不随のIT社長と同上)

 第三章 ゴミ屋敷のオアシス (ゴミ屋敷の中で生活する老母と同上)

 第四章 プラレールの日々 (終末期を在宅で過ごす厚生高級官僚と同上)

 第五章 人魚の願い (死期を間近に控えた小児癌の少女と同上)

 第六章 父の決心 (父親が望む積極的安楽死への主人公の葛藤)

 

「全章への登場人物」

 白石咲和子 主人公。

        城北医科大学救命救急センターの副センター長を8年務めた62歳。

        退職して故郷の金沢で父と過ごすことになる。

        帰郷後、仙川のたっての頼みで、まほろば診療所の「在宅診療」を

        引き受ける。

        バツイチの独身。母は5年前に交通し事故で死亡する。

 仙川 徹  咲和子より2歳上、父親が医学部の同級生で、

        子供のころから家族ぐるみの付き合いをしている。

        足を骨折して車椅子の生活をしていて、診療は咲和子に頼んでいる。

        40代に妻を乳癌で亡くしている。

 星野麻世  まほろば診療所で6年勤務する29歳のベテラン看護師。

        それまでに大学病院で2年間、勤務している。

        実家は金沢港外の山腹にある旅館。

 野呂聖二  医師国家試験浪人中。救命救急センターでアルバイト中に、

        咲和子に迷惑をかけたことことから、その責任を負って、

        まほろば診療所に来て運転手をする。

 玉置亮子  まほろば診療所の事務を担当している。

 白石達郎  金沢でひとり暮らしをしていた咲和子の父、87歳。

        80歳まで、加賀大学付属病院の神経内科医として勤務していた。

        妻に延命治療を強いたとして、悩んでいた。

 白石康代  咲和子の母、5年前に79歳で死亡。

        交通事故による外傷性くも膜下出血だった。

 柳瀬尚也  まほろば診療所スタッフの憩いの場、バー「STATION」のマスター。

        若いころモンゴルを放浪していた経験がある。

 

「私の感想とあらすじ」

 死までの数か月の終末期医療をテーマにした当該作品のすべて(第三章を除く)について、感動したが、第一章の老妻を介護する老夫の愛と、第六章の父が望む積極的安楽死への葛藤には、とくに心を打たれ感涙した。

 長く記憶に残したいし、後日、ポイントになる部分を読み返したいと思うので、この2章について、別ページに、あえて作品の一部をコピーして粗筋として纏めた。

                       終

       

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1926話 [ 「サイレント・ブレス」を読み終えて 5/? ] 6/8・火曜(晴・曇)

2021-06-05 18:35:44 | 読書

                                                  

ブレス2 イノバン 2/2

「あらすじ」

           ※ 黄色蛍光ペンの箇所は、心に残った文章の一節

 その日の夜、携帯電話が鳴った。深夜1時。保からだった。

「先生、頭が痛い」と、とぎれとぎれの声。頭痛は低酸素の症状だ。

 お母さんを呼んでと言っても返事がない。

 倫子はタクシーを呼び、車を待つ間にコースケにも連絡をする。

 保の部屋では人工呼吸器のランプだけが点滅していて、呼吸器は動いていないし、バッテリーはすべてゼロになっている。

 コースケは、自分の車のカーインバーターを思い出し、保と人工呼吸器を電動車いすに乗せて外へ出た。車に横付けして、電源プラグをインバーターに接続した。

 人工呼吸器がスムーズに動き出し、保の呼吸が徐々に安定してきた。

 倫子が、お母さんはいつからいないのと聞くと、保は目を合わせずに、一昨日くらいかなと答える。

 朝8時ごろ、大河内教授に連絡して概要を説明した。

 教授は、「失踪したんだろう」と言う。

 倫子は教授の指示で、市福祉課の担当の神田を呼び出した。

 神田は倫子の説明に、あそこの母親は、電気代滞納の常習者なんですと言う。

 そして、電力会社への復旧要請も早速にとの返事があった。

 1時間後、神田から、和子はアルバイト先2か所共に退職しているとのことを知らせてくれた。

                         

 1か月が経っても、和子が見つかったという連絡はない。

 保はアパートにひとりで生活していた。保自身が頑強に入院を拒否したからだ。

 母親の失踪が明らかになった翌々日、クリニックに倫子を訪ねてきた神田が訪問診療の継続を要請した。

 倫子は、保への24時間態勢が不安だったので、夜間の介護はどうなるのかと神田に尋ねると、ヘルパーや介護スタッフの増員を図るにも限界があるが、ボランティアが集まってくれて、夜も回せる目処が立ったとの返事だった。

 その時、神田は倫子に保の伝言を伝えた。

 それは「水戸先生は僕の『イノバン』(命の番人)だから、引き続き診ていただきたい」とのことだった。

                          

 それはクリスマスの朝だった。9時少し前、倫子の携帯電話が鳴った。

 保のヘルパーから、「保君が変なんです、すぐ来てください」とのことだった。

 コースケとともに往診車に飛び乗った。

 急いで玄関のドアを開けると、人工呼吸器のアラームが激しい勢いで急を告げていた。

 保は完全に意識を失っている。

 コースケと倫子は同時にアッと叫んだ。

 人工呼吸器の回路の途中にあるエアホースが、コネクターから外れている。

 保の脈は触れていない。倫子はベッドに飛び乗り、心臓マッサージを開始した。

 同時に「AED を! 救急車も!」と叫ぶ。

 部屋を飛び出したコースケが、往診車からAEDを取ってきた。

 電気ショックをかけても心拍が戻らない。

 救急車の音が聞こえた。

 2回目の電気ショックを施行した。保の心臓がリズムを取り戻した。

 救急隊が到着し、保をストレッチャーに乗せる。

 倫子が「新宿医大の救急外来へ。受け入れ了承済みです」と告げる。

 同乗した倫子は、ストレッチャーの上で心臓マッサージを置こう。

 ストレッチャーは倫子を乗せたまま、救急救命センターの扉の中に運び入れられる。

 蘇生処置の途中、倫子は看護師に促されて外へ出された。

 やがて、センターの扉が開き、救急医のチーフが近づいてくる。

 倫子に向って、「お力になりませんでした」と小さく頭を下げた。

 保の死亡が告げられた瞬間だった。

                  

 翌朝、むさし訪問クリニックを小金井署の警官二人が訪れた。

 若いほうの刑事が、コピーされた保のブログなどの資料を見ながら呟いた。

「なぜ天野さんは、あの晩だけボランティアを入れなかったのでしょう?」

 12月24日の夜欄だけが空白なのだ。皆が黙った。

 大河内教授がここを見てくださいと、資料のあるページを刑事に示した。

<クリスマス・イブは、1年の中で、一番大切な人と過ごす日。家族とか。恋人とか。誰にとっても大事な夜だよね。みんなは、誰と過ごすのかな ? 僕の大切な人も必ずイブには帰ってくると思います>

「保君はあえて一人を選んだのかもしれませんね。誰も拘束したくなくて……」

 教授がそう言うと、部屋の中は再び静かになった。

 刑事が帰った後、倫子は保を病院や施設に入れていれば、こんなことにはならなかったと繰り返す。

 教授は、その倫子に「保は母親を待つことを選んだんだ。もう一度、家で母親に会えるほうに賭けたかったんだよ君は彼の選択を医師として支えたんだから、あまり自分を責めるな」と言った。

 しかし、倫子は、保の命を支えきれなかったのは、自分の責任だと思うだけだった。

 

 次の休日、倫子は、新横浜の介護老人保健施設「ガーデニア新横浜」に向かっていた。父の見舞いのためだ。

 今年も終わりかと思うと、普段は考えられないようなことが頭をよぎる。

 この一年、父はまったく声を出さないばかりか、目を合わせられなくなった。

 父の部屋には、すでに母がいた。ジャスミンの香りが漂っている。

 母が、お正月が来るから、お父さんのために買ったのよと付け加えた。

 父に香りがわかるとは思えないが、母が喜ぶならいいことだ、と思う。

 

                       ブレス2 終                                        

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1925話 [ 「サイレント・ブレス」を読み終えて 4/? ] 6/6・日曜(晴・曇)

2021-06-05 11:08:14 | 読書

                    

 ブレス2 イノバン 1/2

「あらすじ」

        ※ 黄色蛍光ペンの箇所は心を打たれた文章の一節

 大河内教授から難しい在宅医療希望の患者を紹介された。

 天野保、22歳の進行性筋ジストロフィー患者だった。

 徐々に筋肉が衰えていく病気で治療法はない。

 保は4歳で筋ジストロフィーと診断され、次第に歩行困難が進行。17歳で完全に歩けなくなり、車椅子の生活となった。20歳になる少し前から呼吸筋の力も顕著に落ち、人工呼吸器を使用し始めた。

 病状の進行で通院が難しくなり、在宅医療に切り替えたいとのことだった。

 家族は、夫と離別し、パートの仕事をしている母親の和子49歳との二人暮らしで、生活保護を受けていて、公営アパートの1階に住んでいた。

 

 初めての往診の日、教授も同行してくれた。玄関で案内を乞うと、和子は黙ったまま振り返り、保がいる部屋を指さした。

 保は、背もたれを立てた介護ベッドに体を預け、保の喉は気管切開されており、蛇腹状になったエアホースが喉と枕元にある人工呼吸器をつなげている。

 いずれ、保の心臓は弱まり、不整脈が出る可能性もある。風邪を引けば痰が増え、うまく痰が出せずに窒息する危険性も高い。そういったリスクはあるものの、今のところは紹介状に書かれているように大きなトラブルはなく、体調は安定していた。

 保は日中、パソコンを操ってブログを書いたり、ネット配信で好きなアニメや映画を見たりして過ごしているとのことだ。

 これまでと同様に、心臓の筋肉を保護するためのACE阻害薬とベータ遮断薬を処方した。

 診察中、和子は保の部屋に入ってこなかった。

 倫子は「終わりました」と台所の和子に声をかけた。薄暗い中で、和子は「数独」(パズル)を解いていて、無表情のまま顔を上げた。

 倫子が教授と一緒に診察結果と予定を話そうとした。ところが、「仕事に行かなきゃ」と立ち上がり、「お任せします」と言って出て行った。

 そのとき、入れ違いに介護ヘルパーが入ってきて、「こちらの奥さんは私たちがいる間もパートに出たきりです」と告げた。

              

 2週間後、往診に行くと、保が「昨日、僕だけで横浜スタジアムのコンサートに行ったよ」と報告した。

 ヘルパーの介助で電動車椅子に人工呼吸器や食料を積み込んでもらい、事前に駅の設備などを調べて行き帰りのルートは決めていた。帰りはリスクを避けるため少し早めに帰ったのだと言う。

 コースケが、横浜への単独行を褒めた終わりに、でも何が起こるかわからないから、ひとりで行くのではなく、ボランティアを募集することを考えろと指導した。

                                    

 その翌朝、保から電話があり、往診すると、肺炎を起こしていた。

 痰の吸い上げ処置などをして、和子の様子を見ると、台所に座り込んだままなので、在宅介護の限界を超えていると感じ、大河内教授に電話をし、入院を要請した。

 すぐに、教授から入院で動いていいよとの返事をもらった。その様子を聞いていたのか、和子が珍しく保の部屋に来て、「勝手に入院の手続きを取ってもらっては困るんですけど。在宅では治療できないんですか」と、思いがけない反応を受けた。

「24時間態勢の対応でなければ危険です。万が一、痰が詰まれば窒息しますから」と倫子が説得すると、和子はため息をついて、「タモちゃん、入院する?」と尋ねた。

「やだ」とおびえた表情で保が答えた。

 倫子とコースケが、大河内教授がいる病院にちょっとだけでも入院したほうが安心だよ」と諭す。

 保はいつになく険しい声で「入院しない」と繰り返した。和子が、「だから、この子の好きなようにさせて」と叫んだ。

 倫子は説得の言葉が見つからなかった

 コースケに処置の準備を命じて、点滴を開始した。

(不治の病に冒されている若者の母親への愛とそれに応える医者の気持)

                    

 肺炎発症から1か月が経ち、保はすっかり元気になり、10月下旬の訪問時には、きれいな呼吸音になっていた。

 翌日の木曜会で、保の回復ぶりを報告すると、教授の表情は硬かった。

「危険は別のところにあるんだ。母親の対応がネグレクトーー介護放棄だとしたら、犯罪行為だ」と言う。

 倫子は、和子がいつもどこか上の空だったのを思い返した。

                          続く

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする