T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1151話 [ 「女剣士」の読み比べ -6/?- ] 3/1・火曜(曇・晴)

2016-02-29 15:03:43 | 読書

[ 池波正太郎の「まんぞくまんぞく」 -4/?- ]

「あらすじ」

      ※ 青色、黄色の彩色部分は、私が補足したところ。

      ※ 下線は、この章のキーとなる文章と思ったところ。

4. ― 復讐 ― ("女"から甦ろうとする女)

一 変化してきた真琴の心

 秋が来た。真琴の日常に変わりないように見える。

 平太郎から屈辱の一言を受けてより、20日ほど過ぎていたが、あれ以来、真琴は、例の悪戯をしていない。それが何故なのか、真琴自身にも分からない。

 ただ、真琴の脳裏から消えないのは、「このような女、抱く気もせぬ」と、言ってのけた平太郎の声、その声を振り払い、なんともして、忘れたいがために、真琴は、日々、道場へ通って、以前に増して稽古に熱中している。

 しかし、稽古をつけている相手が、木太刀を落とされて組打ちを望んできても、以前のようには応じなくなった。

―中略―

 10日ほど前に、小平次が真琴を訪ねてきて、平太郎との変った見合いについて訊ねると、

「あの話は、もう、打ち捨てておくがよい。そうじゃ。そういたせ」

 と、言われ、呆気にとられている小平次へ、

「もうよい、今日は帰れ」と、真琴は声を張り上げる。

 小平次が母屋に立ち寄り、万右衛門に帰邸を告げると、申し上げたいことがあるので舟で送ると、小平次の先に立った。

 舟の中で、千代から聞いた変った見合いの様子を小平次の耳に入れた。

二 ~ 七 戸田と井戸の復讐の兆し

 万右衛門が出かけた後、しばらくして、台所の外で人の足音がした。

 千代が大声で叫ぶと、人影は竹藪の中へ逃げ込んだ。真琴もすぐに飛んで来て、その日は、何事もなかった。

 数日後、真琴は、はっと目覚めた。戸外の闇の中に、ものの気配を感じた。

 母屋のほうを窺うと、明らかに黒い人影が三つほど見えた。全員で5人いて、一人が真琴がいる離れ屋のほうに近寄って気配を窺い、他の4人がいる台所のほうに戻った。

 曲者どもはただの男でない、それが証拠に、台所の雨戸を簡単に外してしまった。

(もはや猶予はならぬ)と、真琴は、「これ、何をしている?」、静かに重みのある声をかけた。曲者は、侍ではなく、真琴の敵ではない、脇差を落としたまま逃げた。

 真琴は母屋のほうが気になり引き返したが、何もなく安堵した。

 万右衛門が、お上の耳に入れておいたほうが良くはございませんかと言うも、真琴には、例の悪戯をした後ろめたさがあり、伯父上に迷惑がかかるので、それは待てと言った。(自分の行動が、他人へ迷惑をかけていることを感じてきた)

 万右衛門宅に押し込もうとした曲者は、井戸又兵衛が香具師(やし)の元締に頼んだもので、万右衛門と千代を人質にして、真琴を傷めつけるためであった。

 平太郎は、道場帰りに小平次から声をかけられ、小平次の熱心な頼みに了承して、内蔵助の話を聞くために、堀家に参上することを約束する。

八 ~ 十 江戸に戻った鼻欠け無頼浪人

 同じ時刻、道場帰りの真琴の後をつけた友治郎は、途中、後をつけたことに頭を下げて、9年前に関わった友治郎ですが、真琴さまの耳に入れたいことがあると申し出た。真琴も相談したいことがあるのでと、友治郎を万右衛門宅へ案内した。

 友治郎の申し出を聞こうとと言う真琴に、

「9年前、元道に、鼻の先を切り落とされた無頼浪人が江戸に戻ってきたようで、私が古くから遣っている手先が、人相書の似顔絵を覚えていたのです」と、友治郎が話す。

 真琴が、金吾の仇は、この手で討ち取りたいと言うので、でしょうが、真琴さま、確かめたいところもあるので、しばらくは、誰にも知らせずに内緒にしてくださいと、友治郎は頼む。

 真琴も、先夜の、曲者どもが押し込んできた一件を友治郎に語り、内密に手がかりを掴みたいと友治郎へ相談した。

 料理屋の離れ屋敷で、戸田金十郎の家来の中島辰蔵と、これも昔、戸田家に奉公していて、いまは多くの門人がいる道場を開いている佐久間八郎との話を終わり、佐久間が、頭巾を被った侍を控えの間から呼び入れ、これが、先ほど話した滝十兵衛だと中島に紹介した。

(この男ならば、堀真琴とて歯が立つまい。これならば大丈夫)と思った中島は、後は、ゆるりとしてくださいと、席を立った。

 滝は、9年前、金吾を刺殺し、真琴の操を奪おうとして、元道から鼻の先を切り落とされた男である。

5. ―菊日和― ("女"が甦った女)

一 内蔵助と平太郎の満足した会合

 秋日和が続き、内蔵助の躰にもよい影響を与えたらしく、内蔵助は久しぶりに控屋敷(別邸)に来た。

 別邸に主人を迎えて5日目に、小平次は、平太郎を別邸に案内した。

 離れ屋で内蔵助と家老・山口庄座衛門が待っていた。もちろん、内蔵助と平太郎は初対面であったが、双方、昼餉を共にした養子縁組に向けての満足した会合だった。

 いささかでも、力(体調が良好)のあるうちに、養子縁組のために関係する周囲の事柄を纏めておきたいと、翌日、内蔵助は上屋敷に戻る。

二 ~ 四 敵討ちの気持を反省する真琴

 深川の房州屋で、佐久間と滝が会っていることを、友治郎のところへ手先から連絡があった。その手先から、佐久間の道場は麹町にあることも知らせてくれた。

―中略―

 その日も、友治郎は、桑田道場から帰る真琴を待ち受けていた。真琴と会うのはこれが三度目だ。

 友治郎は、本所の蕎麦屋に案内し、このまえ話をした鼻欠き無頼浪人がいる佐久間道場は麹町にあり、流儀は中条流だと、自分が調べた事を告げた。

 真琴は、先日、友治郎から口止めされていたように桑田先生にも相談していないと言う。

 友治郎も、そうして欲しい、このことが、堀様へ聞こえたら大変のことになると言うと、真琴は誰にも知らせずに内密に斬って捨てたいと言う。

 しかし、友治郎は、「佐久間道場は見張りにくいのでございまして、どうぞ、お上に任せてください。

亡き山崎さまも、それを望んでおられると思いますし、元道先生もそれが良いと申されています」と言う。

―中略―

 真琴は、佐久間道場の近くまで行ってみた。友治郎が言ったように見張りを続けることは難しく、鼻欠き浪人をつけることはできないと判断した。

 諦めた真琴が道場から離れるように歩き出すと、門人らしき侍がこちらを見ていた。

 真琴も、こうなると、養父の内蔵助の身分ということを考えずにいられない。

(堀家の養女などに、ならなければよかった)

 いまにして、つくづくと、そう思う。

(私のようなものを養女にして、伯父上も、さぞ、お困りであろう。これは、もう、どうあっても伯父上にお願いをし、養女の身から解き放っていただかねばならぬ。これから先、私は、何をするか知れたものではないゆえ……)

 いつしか、真琴の両眼から、熱いものが吹きこぼれてきた。(現実を理解しだした真琴)

 真琴は、田安御門の側まで来ると、よしず張りの茶店が目に入った。

五 ~ 六 元道から諭される真琴

 甘酒を頼むと注文すると、店の老爺が目を瞠った。

 真琴の横顔は、女として見るならば、化粧もない顔だし、格別に美しいわけでもない。しかし、男として見るときは、いかにも若々しく、美しいのだ。美しいからなおさら凛々しく感じられる。

 二杯目の甘酒を受け取ったとき、真琴は、入口に元道の姿を見て名前を呼んだ。

 元道は覚えていて下されたなと、9年振りに会った真琴の桑田道場での稽古様子などを話題にした。

 暫くして、元道から、ゆるりと話したいことがあると、真琴を飯田町の料理屋に案内した。

 元道は、自分の生い立ちを語り始めた。

「郷士の三男に生まれ、物心がついたとき、両親はすでに他界していた。小さい時から心も体も弱い子供であったので、剣術の修行をさせられた。その後、縁あって医者になる修業もしたが、とても剣の妙味には及ばなんだ。真琴殿も、9年前、剣の道に入られた。ところが入ってみると、ことさら女の身には、思いもかけなかった剣の妙味に心を惹かれ、修行を積み重ねることの張り合いが何にもまして強く、天分もおありになってめきめき上達されて今に至った」

 長々と話して真琴殿は退屈ではないかと言い、真琴がいいえと返答すると、話を続けた。

「詳しいことは、存ぜぬが、伯父御の養女となられたそうな。さすれば、七千石の大身の家を継ぐ身になったわけじゃ。その責任をわきまえたうえで御養女になられたのであろう。七千石もの家を担う覚悟あってのことと、わしは思うが、違いますかな? その覚悟もないのに、養女になるはずがない。如何?」

 一語一語、静かに低い声で語りかける元道の前で、真琴の五体は固くなるばかりで、元道の言葉の一つ一つが、真琴の胸の内へ重くしみとおってくる

七 ~ 八 養父の見舞いをと思う真琴

 元道に声をかけられ、昼餉を馳走になった翌日、真琴は、桑田道場の稽古を休んでしまった。そればかりでなく、以前に、曲者どもが押し込んで来て以来、真琴は、夜になると母屋に泊るのが習慣になったのが、その日から離れ屋へ入ったままでいた。

 真琴は、次の日も稽古を休み、食事も半分ほどが食べ残していた。膳を下げに行った千代に万右衛門を呼んでくれと言う。

 万右衛門が現れると、父上の御病状を聞いていないかと問い、万右衛門が、(ご自分の家だから、お供するから、お訪ねになれば)と思っていると、ながらく無沙汰をしているので行きづらいのか、別邸の小平次を呼んでくれと言う。

                      次章(6.―急迫―)に続く

 

 

 

 

 

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1150話 [ 「女剣士」の読み比べ - 5/?- ] 2/28・日曜(晴)

2016-02-27 16:13:34 | 読書

[ 池波正太郎の「まんぞくまんぞく」 -3/?- ]

「あらすじ」

       ※ 青色、黄色の彩色部分は、和橋が補足ししたところ。

      ※ 下線は、私が、この章のキーとなる文章だと思ったところ。

3. ―稲妻― (慢心が続く女剣士)

一 ~ 二 慢心が続く真琴

 猿子橋で、真琴が二人の侍に無法をはたらいた夜から一か月経っていた。

 月もない夜、友治郎が柳生の下屋敷の塀の外を帰っていると、白い着物をまとった人が木立の中へ吸い込まれるように消えた。追ってみようと思ったが、なんとなく無気味であった。

 少し行くと、何やらうごめいているものが見えた。髷を切られた二人の侍の一人が、もう一人を介抱していた。友治郎が手伝うことはないかと言うと、侍が町人、早く立ち去れと大声で叫んだ。

―中略―

 友治郎は、元道の隠れ家を訪ねて、前日の消えた白い着物と髷を切られたいた侍の話をした。元道は、腕の立つ剣客が、辻斬りの代わりに悪戯をしかけたのだろうと言った。

 さすがの元道も、その悪戯者が真琴だとは思ってもみなかった。

 ところでと、話は真琴のことになり、元道は、真琴を桑田道場で見たことを伝えた。

三 女性に目覚めつつある真琴

 庭のどこかで、しきりに法師蝉が鳴いている。

 桑田道場から小梅の万右衛門宅へ帰ってきた真琴は、遅い昼餉を済ませると離れ屋に閉じこもっていた。

 昼寝でもしているらしい真琴を驚かそうと、千代が障子を開けると、千代の眼に入ったのは、顔面を紅潮させ、慌てふためいている真琴の姿だった。このような真琴の顔を、千代は、かって見たことはなかった。

 畳に寝そべり、無我夢中の態で、何かに見入っていて、千代を見た瞬間、真琴は「無礼者!!」と見ていた書物のようなものを投げつけた。

 その書物は、男と女が裸身をさらけ出した、いかがわしい絵巻物で、今年の春先に、真琴が大川端で通りかかった中年の侍の髷を切り落とした時に、その侍が落としていったもので、真琴が持ち帰り捨てられずにいたものだった。

 千代は真っ青になって、泣きながら母屋の台所へ駆け込んだ。

 しばらくして、真琴が、水一杯の桶二つを両手に下げて、「わたしも悪かった。許せ」と台所へ入ってきた。

「お米を磨ごうとしているのか? 手伝ってあげよう」と言うと、千代が、「真琴さまが磨くと、米っ粒が割れてしまいます」と、断る。

 真琴も女なので、月に一度か二度は、台所へ来て手を出したがる。しかし、真琴が作る味噌汁は辛くてどうにもならないし、魚を焼けば、焼け焦げにしてしまう。しかし、少女の時から好きだったので、裁縫は上手いのだ。

四 ~ 五 8人目の見合いをしぶしぶ承諾する真琴

 千代に無理を言って、米を磨ぎ始めると、別邸に詰めている鈴木小平次が来た。そして、真琴を離れ屋に誘った。

 真琴は、内蔵助が去年の夏ごろから病床について、お役目からも退き、養生に勤めていたが、再び体調を崩したことを耳にしていた。

 小平次が身を乗り出すようにしたので、

わかった、わかった。伯父上からのお言葉は、また、私に見合いをせよと言うのであろう? それなら、この前と同じように、見合いは、この家の裏庭で、双方が木刀をもってするのじゃ。それは伯父も、ようわきまえておわす筈

 と、真琴が言うと、小平治は、

「真琴さまと太刀打ちできる若者なぞ、なかなか見当たりませぬ」と言う。

「では、嫁より劣る弱虫の婿殿を迎えよと申すのか」

 小平次は、形を改め、屹(き)っとなって、

「殿さまのご病気は軽く済むようなものではございませぬぞ。一日も早く、ご養子をお迎えあそばして、御家名の安泰を願わしゅう存じます。それは、ひとえに、あなた様のお肩にかかっているのでございます」と、懸命に言い立てる小平次に、

ともかくも、この真琴の婿になろうと言う男をここへ寄こすがよい。その男は何処の倅なのか?」

 と、真琴はつまらなそうに言う。

「二千石のご直参、織田兵庫様の御三男にて平太郎道良と申すお方にございます」と、小平治が返事した。

 真琴との試合を承知した平太郎は、無外流・間宮進七郎の門人だそうだが、小平次に言わせるなら、「今度も真琴さまのなぶりものになる。それに決まっている」とのことであった。

(女という生き物には、困ったものだ。真琴さまが、伯父の殿さまをかほどまでに困らせ、苦しませるということについて、それなりの理由もあろうけれど、一旦、養女となったからには女ながらも堀家の血統を継ぎ、これを家名と共に後代へ伝える責任があるはずだ。その責任を考えぬなら、初めから養女にならなければよい)

 ほかならぬ小平次もそう思った。

―中略―

 これまでに真琴の餌食となった見合いの相手は、合せて7名に及ぶ。

 5人目になるころから、真琴は、負けた当人の恥を考え、男が試合に勝ったら正式に申し込むことにしたらよいと言い出した。

六 ~ 七 侮辱を受けた平太郎との立ち合い

 この年の秋の始めのある日の午後、平太郎は小梅村の万右衛門宅へ現れた。

 平太郎は、小男のうえに、疱瘡の後が薄いあばたとなって残り、決して醜男ではないのだが、あまり冴えた容貌ではない。

 師匠の間宮新七郎は、平太郎の性情(性質と心情)を愛しており、性格も明るいので、真琴との試合を薦めてみたのだ。

―中略―

 真琴は、真新しい稽古着と袴をつけ、離れ屋に待機していた。

 お互いに自己紹介し、真琴は、わざわざお運びを願っての一言もなく、

「立ち合いは、この庭でよろしいか?

  と、言い、平太郎は、

「いや、庭で結構」と、ぶっきら棒に言う。

 真琴も軽侮の口調であったが、真琴の面上に不快の色がよぎった。

 台所の内では、千代が戸障子に指で穴をあけ、これに顔を押しつけ、息を呑んで平太郎と真琴を見つめている。

織田殿。よろしいか?」と、真琴は、縁側に立ちはだかったまま声をかけた。

 平太郎のほうは、それに応えず、強い舌打ちを鳴らした。

 真琴は、(無礼な……)と思い、みるみる顔が紅潮して、いざと、正眼につけた。

 平太郎のほうは、真琴から、「織田殿。織田殿参られ」と、言われても、木太刀をだらりと下げたまま真琴を見ていた。

 真琴が、「織田殿、そこもとは」と言いかけたとき、平太郎は、背を向けて木太刀を袋に入れ、襷を外して、後ろ向きに二三歩歩いて、ふと足を止め、振り向くと、真琴を見据え、

「このような女、抱く気もせぬ」

 言うや、さっと身を返し、たちまちに真琴の視界から消え去った。

 真琴は、「あっ……」と、開いた口をそのままに立ちすくむ形となった。全身の血が逆流するかと思うほどで、われにもなく体が微かに震え始めた。「おのれ、卑怯な……」と呻くような一言が真琴の口から洩れた。

 戸障子の覗き穴から、この一部始終を千代が密かに目撃していた。

 真琴の手から木太刀が落ちた。真琴は両手で顔を覆った。

 真琴が、相手から、しかも男から、あのような侮辱を浴びせられたことは、かって一度もなかった。

八 真琴の鼻をへし折った平太郎

 平太郎は、間宮道場へ戻ってきた。

「先生、かの堀真琴なる女性は、箸にも棒にもかかりませぬ。あれでは、たとえ、私が勝ったとしても、妻にしたくはございません。心が汚たのうございます」

 と、平太郎は、始終を語り、

「もはや、立合う気も失せてしまい、このような女は抱く気もせぬと言い残し、帰ってまいり……」

 と言うと、間宮新七郎が莞爾として、構わぬと言う。

―中略―

 帰宅した万右衛門は、千代から、「このような女、抱く気もせぬ」と言った平太郎のことを聞きとった。

 真琴を姉のように慕っている千代の憤慨に反して、万右衛門はなぜか平静であった。

九 復讐の密談

 この夜、真琴にとって、(これぞ…)と、思うような獲物は見つからなかった。

 しかし、反対に、この夏、真琴に川に投げ込まれた侍・井戸又兵衛に、小梅村の舟着き場までつけられていた。

 又兵衛は、早速に、遊び友達の頭である戸田金十郎に、真琴の住み家を知らせた。

 金十郎は、この夏、又兵衛と一緒にいて髷を切られた侍である。

 金十郎は、「生かしてはおかぬぞ、あの曲者は。まずは、おぬしの復讐の企てを聞こうか」と、二人は長い時間を密談に費やした。

                      次章(4.―復讐―)に続く

 

 

 

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1149話 [ 「女剣士」の読み比べ -4/?- ] 2/27・土曜(晴・曇)

2016-02-26 15:13:26 | 読書

                                 

[ 池波正太郎の「まんぞくまんぞく」 -2/?- ]

「あらすじ」

          ※ 青色、黄色の彩色部分は、私が補足したところ

           ※ 下線は、私が、この章のキーとなる文章と思ったところ。

2.―九年後― (辱めを受けて復讐心に燃え"男"になりきった女剣士)

一 ~ 二 侍を弄ぶ真琴

 ここで、物語は一気に九年後へ飛ぶ。

 安永4年(1775年)の夏のある日の夜更け、五つ半(午後9時)頃。

 料理屋の提灯を手にした酒に酔った上機嫌の二人の侍が、橋の西詰めに現れた。

 いつの間にか、橋の中央で二人の侍の前へ立ち塞がる人影が一つ。夏だというのに頭巾を被り、袴をつけた腰には大小の刀を帯びた小柄の男だ。

 侍の一人が、「退(の)けい」と男に掴みかかった。その瞬間、侍は、欄干を越え堀へ落ち込んでいった。連れの侍が立ち向かうも、敵わずと背を向けたとき、髷を切り落とされる。

 逃げる侍を見て、男は刀を鞘に収め、頭巾を脱いで袂に入れ、歩き出した。

 男は、男でない。女が男のの姿をしているのだ。この男装の女は、堀真琴である。

 真琴のこの夜の所業を見ると、剣術を相当に使うようになったと思ってよいだろう。

 いまも、真琴は、金吾の仇を討とうとしているのだろうか……。しかしながら、二人の侍をなぶりものにしておきながら、その面体を検めようともしなかったではないか。

 真琴から、友治郎のほうへも、無頼浪人はまだ見つからないのかとの督促はなくなっていた。

 二人の無頼浪人も江戸から離れてしまっているようで、この件を友治郎も忘れてしまっている。

 元道も、6年前に江戸を離れていた。

 ―中略―

 二人の侍を翻弄した真琴は、小舟で小梅村の舟着き場につけて、住んでいる百姓家の離れ屋に消えた。

 真琴は、暫くして、井戸端へ来て、頭から水をかぶりはじめた。真琴の肉体は、総体に引き締まっていて、ことに両腕の筋肉はなまじの男より鍛え抜かれている。

 それに、夜食を持ってきた百姓家の母屋の小娘に、「千代、まだ起きていたのか。早く休むがよいに……」と言った真琴の声は、これが女のものとは思えぬ。剣術の稽古で、激烈な気合い声を発するものだから、声帯が変ってしまったのだろう。

 この9年間、真琴は、激しい剣術の修業を続けて今日に至った。

三 剣術修業のため、別邸を離れ百姓家に住む真琴

 真琴が住んでいる離れ屋の百姓家の母屋には、元、堀家に奉公していた老爺・万右衛門と養女となる姪の千代がいて、真琴の世話をしていた。

 真琴が、伯父が立ててくれた離れ屋へ移り住んだのは、剣術修業のために道場を替えざるを得なくなった4年ほど前のことである。

四 ~ 五 真琴の今の姿を知る元道

 元道は3年振りに江戸に帰ってきて、知人の桑田勝蔵の道場に立ち寄った。その道場で、真琴は高弟3人の一人になって代稽古をしていた。 

 元道が、真琴は堀内蔵助の姪で、昔、あの子の危難を救ってやったことがあったのだと告げると、勝蔵は、襲われた件は知らなかったが、元道と2人の師匠である金子孫太郎先生(4年前まで真琴も稽古をしていた道場主)から頼まれて身柄を預かっているのだと経緯を打ち明けた。

 元道も9年前に真琴を救ったことや、真琴に同道していた家来の金吾が殺害されたことを語り始めた。

六 養女の申しつけに、剣術継続の条件を出す真琴

 いまの真琴は、9年前の真琴ではない。

 まず第一に、あの危難にあった後、1年後に、正式に伯父・堀内蔵助の養女になっている。

 内蔵助の長男・三十郎が急死して、内蔵助には他に子が無かったので、内蔵助は、堀家の血を引いた真琴を養女にして、これに婿を迎え、堀家の存続を図ることにした。妻にも打ち明けると、賛成してくれた。

 内蔵助は、本邸に真琴を呼び、養女の縁組について申し聞かせると、真琴は、お願いの筋があると言い、

「これより先も、自分が思うままに、剣術の修業を続けさせてください」

 と、条件を申し出る。

 内蔵助が、金吾の敵討ちを思っているのかと訊ねても答えなかった。

 その時点では、真琴は17歳で、まだ敵討ちを諦めていなかった。真琴は、剣術の腕が上がったら、江戸を離れ、敵討ちの旅に出るつもりでいたのだ。

 養女になったらそのような勝手気ままな行動は許されないのだが、真琴は、(困るのは叔父で、私は知らぬ)と、敵討ちとは別に、自分の父親のことについて、内蔵助が何も話してくれないことへの一種の復讐をするつもりでもいた。

七 内蔵助への不信感か、意固地になっている真琴

 真琴は伯父の内蔵助に対し、強い不信感を抱いていた。それは、真琴の胸に幼い頃から積もり積もってきたものである。いうまでもなく、生母の元と実父の関係を、伯父はいまだ真琴へ打ち明けてくれないのである。

 金吾は、実父の名を佐々木兵馬と教えてくれた。それ以上のことは、真琴が成人したあかつきに、いずれお分かりになるときも、あろうかとぞんじますと、煮え切らぬ口調で密かに囁いていたものだ。伯父は、何度聞いても、わしは知らぬとか、訳の分からぬことばかり言うのみだし、ついには、つまらぬことを、何時までも気にかけているのではないと、声を荒げ、席を立ってしまう。

 ―中略―

 内蔵助は、真琴の養女縁組が整うや、上屋敷に戻るように真琴に命じた。

「では、実の父上のことを、詳しくお話し下されませ。それならば戻りましょう」

 と、真琴が言うので、内蔵助は、いっときも早く真琴に婿を取らせ、上屋敷に戻さねばと思った。しかし、そのうちに、時が数年過ぎていた。

 この間、一日も休まずに、広尾の別邸から湯島の金子道場へ通いつめた。往復三里を、真琴はものともしなかった。そして、真琴の腕前は急速に上達した。

 内蔵助は、何度も孫十郎に頼み、いっときも早く真琴に剣術を止めさせようと図り、孫十郎も賛成で、もはや、わが道場へ来るに及ばぬと思い切って申し渡したのが、4年前のことであった。

 時に真琴は21歳。本邸に帰るどころか、真琴はもはや剣の道から、「離れようとて、離れられぬ……」女となってしまっていたのである。

 そこで、真琴は、かねて知り合いの桑田勝蔵の道場へ通い始めた。住むところも別邸から万右衛門の家の離れ屋に移転した。

 勝蔵は、金子先生から真琴を早く堀家へ返せと言われていたが、どんどん腕上がるので教えるのが面白くなって、手放せなくなるほど上達していた。

―中略―

 これまでに、何度も真琴に縁談があったが、

「私めを打ち負かすほどの男なれば、どなたにてもかまいませぬ。妻になりまする」

 これが、真琴の条件であった。

八 剣術の上達により敵討ちも忘却している慢心の真琴

 いまの真琴は、ことある度に、亡き金吾を偲んでいるけれども、その敵討ちについては諦めていた。諦めが忘却に変っていたのだ。

 一念、敵を討たんがために始めた剣術の修業であったが、励むにつれて上達し、男の剣士たちと闘っても負けをとることは滅多にない。 そうなったときの愉快さ、爽快さは、真琴が女の身だけに層倍のものとなっている。

(油断はならぬ。どこまでも修業じゃ。修業を忘れてはならぬ)

 と、努めて自分の慢心を戒めているが、ともすれば、

(強い。私は、本当に強くなったようだ……) と思わざるを得ないのだ。

 この自信と慢心の差は紙一重なのだが、まだ真琴は、そこまで気づいていない。

 なんとなれば、夜更けの猿子橋で、通りかかった二人の侍をからかい、川に投げたり、投げを切ったりするという悪戯をしてのけたからである。

 このような事を、一年前のいまごろから、ふた月か三月に一回か、ときには月に二度もやってのけては、ひとり、会心の笑みを浮かべる真琴なのである。

 ◆

 真琴は総じて、世の男という生き物に、不審と憎しみを抱いてるようだ。

 自分の実父の兵馬にしても、

(母を騙したうえに、どこかへ逃げ去ってしまったのであろう。なればこそ、伯父上は父のことをお話になさらぬのだ)

 と、思うほどだった。

 また、伯父にしても、真琴の眼から見ると、ひたすらに家名の存続を願い、そのためには、どのようなことでもしてのける男に思える。自分を養女にしたのも、その一念からだと、真琴は思い込んでいるのだ。

(両親の愛情を知らない、操を犯されそうになった少女が、男剣士に負けないほどの女剣士になり、慢心の心が男を憎むほどになる)

                             次章(3.―稲妻―)へ続く

 

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1148話 [ 「女剣士」の読み比べ -3/?- ] 2/26・金曜(晴)

2016-02-26 10:21:54 | 読書

[ 池波正太郎の「まんぞくまんぞく」 -1/?- ]

「概要」

 深夜、覆面をして、酒に酔った侍に喧嘩をしかけては、髷を切ったり川に投げ込んだりして楽しんでいる男装の女剣士。それは、十六歳の時、浪人者に犯されそうになり、家来を殺された堀真琴の、九年後の姿であった。真琴は、敵討ちを心に誓って剣術の稽古に励んだ結果、剣を使うことが面白くて仕方なくなったのだが………。女剣士の成長の様を、絶妙の筋立てで描く長編時代小説。(裏表紙より)

 ここでは三つの異なったタイプの真琴が描かれている。一つは無垢な十六歳の女、二つ目は辱めを受けて復讐心に燃え"男"になりきった女、三つ目は"女"が甦った女、である。この三段階の変化が、ひとりの真琴という女性の中で起こった。それぞれの変化には、必然性をもたせるための伏線がある。………。人間にはちょっとした外的刺激が与えられることによって運命が大きく変わることがあるものだが、真琴の場合も、その典型の一つであろう。

 タイトルの「まんぞくまんぞく」は、真琴が織田平太郎との結婚話が煮詰まった頃、真琴が下女に話す言葉である。含み笑いをしながら「まんぞく」を二回繰り返す。男から女へ、まだ変化しきっていない過渡期の台詞として、哀れさと滑稽さが漂う。(解説より)

「登場人物」

 堀 真琴→主人公。堀内蔵助の養女。

 堀内蔵助→七千石の大身旗本当主。

 山崎金吾→堀内蔵助の家来。控屋敷(別邸)の留守居。

 鈴木小平次→山崎金吾の後任の留守居。

 万右衛門→若い頃、堀内蔵助の上屋敷で中間奉公をしていたが、

         兄の病死で農家を継ぐ。

 千代→万右衛門の妹の子。万右衛門の養女。

 織田平太郎→二千石の旗本・織田兵庫の三男。真琴の見合い相手。

 堀 元→堀内蔵助の末妹。真琴の母親で、真琴を生むと暫くして心痛で死亡。

 佐々木兵馬→真琴の父親。真琴と一緒に住むことなく死亡。

          死亡原因は巻末で明かされる。

 関口元道→独居老人の医者でもあり剣士。桑田勝蔵や友治郎の友人。

 友治郎→茶店を女房に任せた目中心の御用聞き。元道とは親密な間柄。

 金子孫太郎→一刀流大道場の当主。少女時代からの真琴の師匠。

 桑田勝蔵→真琴が高弟をしている町道場の当主。

 井戸又兵衛→二百石の旗本。真琴から川に投げ込まれ、復讐をする侍。

 戸田金四郎→千石の旗本。真琴に髷を切り落とされ、復讐する侍。

 滝十兵衛→真琴を犯そうとして関口元道に鼻を切り落とされた浪人。

「あらすじ」

        ※ 青色、黄色の彩色部分は、私が補足したところ。

        ※ 下線は、私が、この章のキーとなる文章と思ったところ。

1. ―白い蝶― (無垢な16歳の女)

一 ~ 三 大身旗本の姪っ子・真琴の遭難と父と慕う家来の死亡

 七千石の大身の旗本・堀内蔵助の末妹の子・真琴は、父の顔も母の顔も知らず、生まれたときから、伯父の内蔵助(別邸)で伸び伸びと育った。

 ある日、真琴は、等々力村に住んでいる自分の乳母の病気見舞いのために、父同様に慕っている家来の山崎金吾を共に外出した。

 帰り道、二人の浪人者に襲われて、金吾は左胸を刺されて殺され、真琴は危うく操を奪われるところを、通りかかりの関口元道という老人剣士に救わられる。

 二人の浪人のうちの一人は老人に刀を奪われ、その刀で鼻を削がれ、もう一人も同じ刀で尻を切られて、気が狂ったように逃げた。

 真琴は、元道が呼んだ近所の百姓によって別邸までとどけられ、金吾の死体は、地元の御用聞きの友治郎が遺体をあらためたうえで、同じく別邸に運ばれた。

 16歳の真琴は、自分が生まれてからすぐに別邸で共に過ごし、親身となってくれた金吾、執拗に問いかける真琴に、亡くなった父親の名前だけを教えて、詳しくは、いまにと言ってくれた金吾、その金吾が、急に横死してしまったので、部屋に籠りきりになった。

 友治郎は、鼻欠けになっては遠くへ逃げられるものではございませんよと気負って、人相書きを持たせて、手の者を八方へ飛ばし、仲間の御用聞きにも頼んで、二人の無頼浪人の探索を始めたが、一向に足取りが掴めなかった。

四 ~ 五 真琴がぜひにと望む金吾の敵討ち

 堀家当主の内蔵助は、真琴に外出を禁じた。

 ―中略―

 真琴は、金吾の後任の鈴木小平次に命じて、友治郎に別邸まで来てもらった。

 真琴は、小平治から友治郎が逃走中の浪人どもを探索していることを聞いていて、

「よくこそ、お見えくだされた」と、両手をついて、

「殺害された山崎は、父の家来ながら、私にとっては、父も同然の人だったのです。それで、私のこの手で、なんとしても敵を討ちたいのです。ぜひとも助けてください」

 と、友治郎に頼んだ。

 敵討ちと一口に言っても、大身旗本の姪に当たる若い娘が、家来筋に当たる男の敵討ちなので、簡単にはいかないし、伯父の内蔵助が許すことはないだろう。また、立ち向かって勝てるわけがない。

 友治郎が断るが、真琴は承知せず、人相書を見せることを約束した。

 友治郎は、この件を元道に知らせた。

 元道は、「女の一念というものは、ちょっと怖い。わしが助太刀をしてやって、討たせてみるのも、面白いがのう」と、独り言ちるのだ。友治郎は、ご冗談は止して下さいと、慌てて手を振る。

(大身旗本の身分も自分の能力も理解していない世間知らずの無垢な16歳の少女)

                      次章、(2.―九年後―)に続く

 

 

 

 

 

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1147話 [ お土産 ] 2/22・月曜(曇)

2016-02-22 13:51:37 | 日記・エッセイ・コラム

                                                        

 今日は「猫の日」。

 珍しい名称、初めて知った。

                             

 このお菓子は、地元では、銘菓として有名だが、食べたことはなかった。

 他の買い物があり、近くの道の駅に行くと、土産品置き場にあり、

 買ってみてお八つに食べてみた。

 美味しく、珍しい味なので、次回から、お土産として使ってみたいと思った。

 ちなみに菓子の名前の「大禹謨(だいうぼ)」は、

  数千年前の支那の治水工事をなした王様の名前?で、

   香東川の治水工事をした先人が工事完了時に彫った石碑の字のようです。

 

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