一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

旅は人生に似ている

2017-08-11 08:18:11 | 読書



       TVのニュースはお盆の帰省ラッシュや、
       海外雄飛組みの成田空港の様子などを映している。

       みんな元気だなあ。
       かつては私もあの一員だった。
       などと思いながら、映像に目をやる。

       いまはこの暑い中、遠出などしたくない。
       できればクーラーのきいた部屋で本を読んでいたい。

       そんな思いで読んだ
       『深夜特急』(沢木耕太郎著) 全7巻
       第1便 香港、マカオ
        2便 マレー半島、シンガポール
        3便 インド、ネパール
        4便 シルクロード
        5便 トルコ、ギリシャ
        6便 南ヨーロッパ、ロンドン
       最終便 旅する力
      

       それは、実際に旅に出る以上のものを与えてくれた。

       
       これは沢木耕太郎が1996~98年にかけて、
       およそ1年2ヶ月にわたる紀行文である。
       
       そのとき 沢木26歳。
       「人のためにもならず……およそ酔狂なやつでなくて
       はしそうにないことを、やりたかったのだ」
       という。

       ヒッピーにちかい極貧の貧乏旅行。
       ホテル代をけちって寝袋で野宿したり、一杯のチャイ
       (紅茶)で1日を過ごすこともあった。 
 
       それでいて、
       安宿で同室となったヨーロッパの青年が熱を出して
       寝込んだとき、1キロのブドウを買って枕元に置いた
       こともある。
       (その青年は最初は食糧をめぐまれたことをかたくな
        に拒否していたが、やがて回復して敬意をあらわす
        ようになった。
        しかし、一緒に旅したいという青年を振りはらって
        沢木は一人ホテルを後にする) 

       まさに人情、涙、笑いあり、その中には貧困、薬、売春
       人種差別……といった世界のかかえる問題あり。
       
       沢木の乾いた文章でつづられる本書は、
       よけいな感情の記述がなく、
       淡々と語られている。
       それだけにかえって、その土地の空気や湿気、臭いまで
       も感じさせてくれるのである。

       そして、沢木はこういう。
       「旅は人生に似ている。
        以前私がそんな言葉を眼にしたら、書いた人物を軽蔑
        しただろう。
        少なくとも、これまでの私だったら、旅を人生になぞ
        らえるような物言いには滑稽さしか感じなかったはずだ。
        しかし、いま、私もまた、
        旅は人生に似ているという気がしはじめている。
        たぶん、本当は旅は人生に似ているのだ。
        どちらも何かを失うことなしに前に進むことはできない
        ……」

       
       百聞は一見にしかず。
       というけれど、
       一気に読んだ私にとって沢木の本は、
       一読は百聞にも一見にもまさる、のである。