蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

かたばみ

2024年04月06日 | 本の感想
かたばみ(木内昇 角川書店)

山岡悌子はやり投げの有力選手だったが、戦争の激化で競技継続をあきらめる。幼馴染の神代清一は野球がうまく早稲田大学へ進学する。清一を追うように上京した悌子は代用教員になって武蔵小金井の下宿に住むが、清一は他の女性と結婚して出征してしまう。
悌子が暮らす下宿には居候の中津川権蔵がいる。権蔵は肋膜で徴兵されず肩身がせまい思いをしていた。戦争が終わり、悌子は正式に教員になり、権蔵はラジオの放送作家をめざす。清一は戦死し、悌子はひょんな事情から清一の息子:清太を引き取ることになる・・・という話。

悌子は権蔵と結婚し、清太を養子にするが、実子と同じように育てる。権蔵との間に子供はなく、愛情は清太に集中するが、清太はやがて自分の出生の秘密を知ってしまう、というふうに話はすすむので、これだけ読むといかにもありがちな筋立てなのだけど、登場人物のキャラが立っていて、個々のエピソードがどれも印象的でそれが組み合わされてストーリーの全体像が浮かび上がるような構成になっており、読んでいて、物語世界への没入感が強かった。
ラストシーンも、きっとそうだよね、みたいなものなのだけど、とても爽やかな幕引きだった。
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波紋

2024年04月05日 | 映画の感想
波紋

須藤依子(筒井真理子)は、夫修(光石研)が10年前に失踪した後、修の実父を介護して婚家に住み続けていた。依子は、新興宗教にのめり込み、多額のお金を注ぎ込んでいた。
突然修が帰ってきて抗がん剤の治療費を出してくれといいだし、一人息子(磯村勇斗)が連れてきたフィアンセは聴覚に障がいがあった。動揺する依子は・・・という話。

荻上直子監督作品らしい内容で、行き違う(というかまったくフィットしない)家族を多少の諧謔味をこめて描いている。

キャスティングがよくて、夫妻ともに、この人しかないんじゃないか?と思えるようにハマっていたし、新興宗教の幹部?役のキムラ緑子、スイミングプールでの友人役の木野花もその役柄の人格であるとしか思えないほどだった。
イヤな老人役でチラッとしか出ないけど、柄本明もいいなあ。
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ウクライナ・ダイアリー

2024年04月05日 | 本の感想
ウクライナ・ダイアリー(古川英治 角川書店)

著者は元日経新聞の記者。ロシアなどの担当を経て退職した。ウクライナ人の妻とキーウに住んでいた。
ロシア侵攻後のウクライナ各地の様子を記している。

太平洋戦争当時の内地の様子を記した手記などを読むと、空襲が本格化するまでは、意外と普通の生活を営めていたような印象がある。逆に言うと、空襲で民間人が直接被害をこうむるようになると国としては保たなくなるともいえる。
本書を読むと、侵攻直後や残虐行為があったと見られるブチャを除くと、キーウの雰囲気は想像していたよりは平穏な印象を受けた。ホテルやバー、パン屋なんかも営業していたらしいし、最近のニュースを見ると普通の大都市のようなムードを感じる。

これは、2014年頃からのロシアの東部地域への浸透や過去の教訓から、ロシアへの警戒心を強め、人々もある意味覚悟があったからこそ、なのかもしれない。例えば、ソ連時代の記憶から、多くの高齢者は今でも保存食を大量に貯蔵しているそうだし、地下鉄はシェルターになるように大深度に掘られているそうである。
著者が何度か強調するように、今日本に他国からの侵略があったらウクライナの人たちのように強靭な防御や反攻ができるか、といわれると大いに疑問だ。私自身、ウクライナの人たちのように闘志を燃やして軍に協力できるかというと、心もとない限りである。

本書で紹介されているように、ウクライナでは志願しない若い男性などはとても肩身が狭いらしいし、いったん国外へ避難した後、後ろめたさから帰って来る人もいるそうだ。とどまるも地獄、逃げるのも地獄なら、私たちはどちらを選ぶのだろうか。そんな究極の選択を迫られることがないよう祈るしかない。

侵攻直後の3月上旬キーウの中心部近くで、おばちゃん2人がなおも営業していたベーカリーカフェの話と、著者の義母(著者はママと呼ぶ)のエピソードがよかった。

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