蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ドリーム

2018年03月31日 | 映画の感想
ドリーム

有色人種の分離政策がまだ当然のものだった1950年代後半から1960年代前半のアメリカで、NASAの計算係(膨大な軌道計算をメカニックな計算機(計算尺みたいなの)で計算する)だったキャサリンは、高い数学的能力を買われて、末端の計算の現業部門?から独創的な発想を求められる企画部門?へ異動する。しかし、その部門のスタッフのほとんどは白人男性で、有色人種用のトイレははるか遠くの棟にしかないなど、劣悪な職場環境に悩まされる。有人宇宙飛行でもソ連に先んじられたNASAは焦りの色を深め・・・という話。

WWⅡ後のアメリカで、トイレやバス、レストランの席も別々といったような分離政策が行われていたというのが、どうにもピンとこないのだが、当時はそれに加えて男女間の差別傾向も根強かったようだ。
そんな中にあっても、能力があると認めれば黒人女性を主要スタッフに起用してしまうプラグマティズムはすごいなあ、と思った。その点では今の日本社会よりよっぽど進歩的だよなあ。

アメリカ人として初の有人宇宙飛行を達成したグレンは、とてつもないナイスガイとして登場する。大戦中はパイロットとして活躍し、危険極まりない有人宇宙飛行を成功させ、上院議員となり、70歳を超えてからなんと再びスペースシャトルで宇宙飛行し、100歳近くまで生きていて、これといったキャンダルもない(よね?)グレンって今でも典型的なアメリカンヒーローなんだろうなあ、と思わせた。
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夜の国のクーパー

2018年03月31日 | 本の感想
夜の国のクーパー(伊坂幸太郎 東京創元)

伊坂さんの作品は、良い意味?で奇想天外、支離滅裂、メチャクチャな筋のものが多いけれど、最大の奇作?はデビュー作の「オーデュポンの祈り」だと思う。新人が書いたこの作品に賞を与えた新潮社はすごいな、と当時感心したおぼえがある。

そのあとの「ラッシュライフ」などは、型破りとはいえ、まあ、ミステリの範疇に収まっていたのだが、本作は「オーデュポンの祈り」に匹敵する怪作・奇作ぶり。

そのせいもあって、出版当時に買って読みだしたものの、100ページくらいで読むのをやめてしまっていたのだが、対談集を除いて刊行された伊坂さんの作品で未読なのが本作だけになってしまったので、最初から読み返してみた。

前に読みかけたときより歳をとったせいか?今回は(奇天烈なストーリーを)寛大な心?で受け入れて最後まで読み進めたものの、終盤で明かされる、語り手に絡む最大の謎ときが「さすがにそれはないんじゃない?」というくらいのケレン味たっぷりのものだったので、ちょっとびっくりした。

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あなたの本当の人生は

2018年03月30日 | 本の感想
あなたの本当の人生は (大島真寿美 文藝春秋)

作家志望の國崎真実は、デビュー2作目がなかなか書けない。担当編集者の鏡味は、ベストセラー作家:森和木ホリーに弟子入りを勧める。森和木の大ファンである國崎は森和木の屋敷に住み込みを始める。森和木邸にはマネジャーの宇城圭子がいて森和木の身の回りの世話をしていた。森和木は大ヒットシリーズの「錦船」の続編の執筆を望まれていたが、手をつけようとしない。しかし、森和木は國崎を(「錦船」に登場する猫の名前である)チャーチルと呼び始め、鏡味は機が熟したかと期待するが・・・という話

ストーリーらしいストーリーはなく、創作の難しさや苦しさをテーマとしてかつての大作家森和木ホリーの生涯をカットバックしながら描く。タイトルである「あなたの本当の人生は」というのは、森和木が宇城をスカウト?するときに問いかけた言葉で、だれもが「ここではないどこかへ」と望むものの、それが叶うことはなく、自分が過ごしてきたもの以外に人生はないんだ、ということを意味している(のかな?)。

コロッケを作らせた天下一品の國崎が、森和木の元夫の子供と田舎で総菜屋を始める経緯もなかなか面白かった。幻想的な方向へ行ってしまいそうな物語を現実につなぎとめるような働きをしていたと思う。
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書店主フィクリーのものがたり

2018年03月30日 | 本の感想
書店主フィクリーのものがたり(ガブリエル・セヴィン 早川書房)

ボストンの近くの島で小さな書店(アイランド・ブックス)を営むAJフィクリーは、交通事故で妻(ニック)をなくした。
泥酔した夜、家宝?としていた「タマレーン」(アラン・ポーの詩集で高価な稀覯本。数千万円の価値があるが、フィクリーは偶然古本市で見つけた)を盗まれてしまう。ふさぎ込んでいたフィクリーのもとへ出版社の営業アメリアが訪れるが、すげなく追い返す。
ある日、フィクリーの書店に赤ん坊が捨てられていた。シングルマザーで大学生の母親は島で自殺していた。島の警察署長ランビアーズと話しあってフィクリーは赤ん坊(マヤ)を里親として育てることにする。やがてアメリアとフィクリーは和解し・・・という話。

全編に渡って、死がストーリーを覆っている。ここまででも二人が死んでいるのだが、この後もいくつかの死があらわれる。大きくなったマヤ(小説の才能がある)が綴る、自らの母の話(海辺の旅)はマヤの母の悲惨ななりゆきを物語る。
しかし、一方でカラっとしたユーモアがしばしば織り込まれていて、暗い話ではなく、多くの死は、それが人生で避けがたい運命であることを静かに語っているようだった。

フィクリーが経営する小さな書店では、文学作品の販売に力を入れていて、フィクリーが気に入った作品の著者を書店に招いてサイン会などを催したりする。読書会も盛んで警官のランビアーズが主催するものまであったりする。アメリカのどこでもこのような状況なのかどうかわからないけど、とても豊かな読書環境があるんだなあ、と思った。

蛇足だが、何度か登場する「グリルドチーズサンドイッチ」がとてもうまそうだった。
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ブロッケンの悪魔

2018年03月30日 | 本の感想
ブロッケンの悪魔(樋口明雄 ハルキ文庫)

南アルプスの北岳山荘に、元自衛官たちが、大宮化学戦部隊から盗みだしたVXガスを持って立てこもり、VXガスを積んだミサイルを東京に打ち込まれたくなければ、自衛隊のPKO派遣部隊や福島第一原発の収拾にあたった部隊の隠された真実を公表しろ、と政府を脅迫する。山荘の近くにいた山岳救助隊(警察官)たちは、限られた情報の中、テロリストたちに対抗しようとするが・・・という話。

うーん、エンタテインメント小説だとしても、ちょっとリアリティがなさすぎるのではなかろうか。山荘に立てこもる必然性が全く感じられない(単に時限装置付VXガスを都内の高層ビルとかにこっそりセットしておくとかで十分なような気がする)し、自然条件が厳しい高地から東京にミサイルを精密誘導するなんて相当に難しいよね。なにより元自衛官であるテロリストたちが重武装すぎる。

山岳救助隊のシリーズものの一冊なので、(私はこの本以外読んだことがないのだが、空想するに)シリーズのはじめのうちは、そこそこ現実的な事件にしていたのだが、シリーズが続くうち事件のレベルを上げたくなってきて(「リングにかけろ」的に)エスカレートしてきた結果なのではなかろうか??
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